第6話 アリシア、自分探しを始める

 閣下、無事に式典に出られたかな?

 式典に出席というくらいだから、きっと偉い人なんだろうなあ。


 わたしは夕暮れ時の終わり、もうだいぶ日も陰った街道を1人歩いて帰路につく。

 

 仮成人になったはいいけど、この先どうしていったらいいかいまいちよくわかっていない。前世でも学生のまま死んじゃったから、結局社会には出てないし。もう少ししたら家を出て働いていかないといけないんだよね……。


 1人になったら急に不安になってきたよ……。


 そうだ! 迷った時には相談してこいって言ってたよね!

 羽根をカバンから取り出し、ミィちゃんに話しかける。


(というわけで、ねぇミィちゃん。わたし、誰かに養ってほしいんだけど、どうしたらいいと思う?)

 

『アリシア……あなたまたですか? 今度はなんですか?』


 またため息ついてるー。

 そんなだからハゲの司祭にしか相手にされないんだよー。


『だれが行き遅れですか! 司祭は神殿の管理をしているだけで、私は司祭と一緒に暮らしているわけではありませんよ』


 そこまで言ってないけど……浮気しないでね?


『私はあなたの恋人でも友だちでもありませんよ……』


 照れちゃってもう♡

 あ、そうそう。そんなことよりさー、ミィちゃんに聞きたいことがあってね。


『なんでしょうか?』


 これからわたしはこの先何をして生きていけばいいのかなーって。仕事とかー。


『漠然としていますね。玉の輿に乗りたいのではないのですか?』


 うん、まあそうなんだけど……。まだ10歳だし? ちょっと社会に出て働いてみて、それから玉の輿でもいいのかなって。モラトリアム的なサムシング? 前世では就活失敗したから……。


『前世の成人年齢は18歳でしたね。記憶が混乱しているのかもしれませんが、パストルラン王国では人族の成人年齢は15歳です。通例では13歳で親元を離れ、独立して生計を立てることになります。そこまで時間的に余裕はないと思いますが』


 それはわかってるよー。でも、まだ3年はあるわけだから、その間に何か準備的なことをしておきたいなーって。


『やりたいことがわからない。やりたいことを見つけたい。自分探しをしたいということでしょうか?』


 そう、それ! さっすがーわたしの女神様♡

 楽しいことは好き。苦しいことは嫌い。だけど具体的に何したらいいかって考えると、何にも浮かんでこないの……。


『そのことに悩んでいるのはアリシアだけではありませんよ。仮成人したばかりの者だけではなく、成人した者も、子を成した者も、年老いた者も、生きる者すべて、種族問わず共通の悩みです』


 そう……だよね。悩んでいるのはわたしだけじゃない!


『頭が良い。運動能力が高い。手先が器用。我慢強い。行動力がある。など、自分のことをしっかりと見つめれば、必ず誰しも多種多様な長所、そして短所もあるでしょう。能力がない、何もできないなどということはないはずです』


 そうなんだけどねー。前世の記憶と混じったせいか、自分のことがちょっとわからなくなってきちゃったかも。ううん、今までそんなことすら考えてなかったんだなーって。


『ですから、仮成人の時に、すべての信徒にギフトスキルを与えているのです』


 というと? つまりギフトスキルを使って何かしろってこと?


『ギフトスキルは後天的に付与される才能です。伸ばし方もわかりやすく、レベルという形で数値化されています。まずはその才能を伸ばしていく。その過程で自分自身と対話し、生きる指針を見つけていけばよいのですよ』


 そっかあ。「考えるな、感じろ!」ってことですね?


『え、ええ……。まあ、そういうことになるでしょうか』


 つまりわたしの場合だと3つスキルがあるから、『交渉』はパッシブだからいったん考えないとして、『構造把握』と『創作』をガンガン使って鍛えていけばいいってことですね!


『基本的にはその考え方で良いと思います。しかし、転生者であるアリシアは、くれぐれも前世の記憶の取り扱いには注意してください』


 あ、うん。はい。むやみやたらにオーパーツを作り出すなってことですよね。それはさっきちょっと考えてました。ジェット噴射するスキーはやりすぎたなって。


『カメラやジェットスキー……でしたか。あのような創作には十分注意してください。控えめに、おとなしく、慎ましやかに鍛錬に励むようにしなさい』


 なんだかわたし、問題児扱いされてますか?

 失礼しちゃうなー。常識くらいわかりますよ? さっきは緊急事態だったから!


『その言葉通りに行動できると良いですね。切に願います……』


 ぜんぜん信用されてないなあ。

 あ、そうだ。

 もう暗くて早めに家に帰りたいのですけど、自転車作って乗って帰るくらいは大丈夫ですかね?


『控えめに……』


 え、人力の動力もダメ? 力のモーメントとかまだここでは常識じゃない? えー、本気出せばガソリンの代わりに魔力を充てんするタイプのオートバイも作れますよ? 自動車はちょっと構造が複雑すぎて……。


『控えめに……』


 さっき作ったジェットスキーでは馬車を引いた状態で音速に迫る速度は出せてますし。

 あれはただ後方に魔力を噴射するだけだったんですけど、そう、ガソリンエンジンみたいに魔力を圧縮して爆発させたらもっと強いエネルギーを作れると思うんですよね!


『控えめに……ほどほどしないと、命、狙われますよ』


 それは困る。やっぱり大きな乗り物が速度出して走ってたら目立つかあ。さっきは大丈夫だったけど……。

 んん……だったらローラーシューズくらいなら?


『目立たないようにできるなら……』


 お許しが出た! やったね!

 でも、石畳はごつごつしてるし、ここから先舗装されていない道も多いから、普通にローラーをつけただけじゃ走れないのよねー。

 そこはこの前のジェットスキーの時の応用かな! 部品もさっき作ったのをばらして流用しよう♪

 ローラーが回る直前に、地面に魔力の膜を敷いてそこを転がるようにするぞー。


『本当に大丈夫かしら……』


 大丈夫ですよー。

 構造把握できてますし、設計図も頭の中に作れてますからね。

 靴の裏につけるローラー部分だけなら、ジェットスキーよりも接地面が少ないから、MP消費も少なくできる!


『そうではなくて……』


 よし、できた! レッツトライ!


 おほーいいね♪

 これならジェットスキーよりも小回りは利くし、姿勢制御は楽だし、ピタッと止まれる! MPの自然回復量よりも少ないから体に負担もなし!


 やりましたよー!

 どうですか? この靴を量産して販売したら、わたし暮らしていけますか?


『アリシア。それは決して量産はしないように……』


 ダメですか? 売れなそう? けっこう需要はあると思うんですけど。もしかして、みんなが魔力を使えるわけじゃないとか? だったら魔力充電式も検討しようかな。


『そうではありません。おそらく需要は高いでしょう。おそらく需要が高すぎるのです。だから調子に乗って量産してはいけませんよ。『創作』スキルを持っていることは家族といえど誰にも話してはいけません』


 あー。Sランクスキルの存在は厄介だなあ。

 初代国王様レベルのチート……。はーい、りょうかーい。


『苦労してオーダーメイドで販売する程度なら、ギリギリ今のパストルラン王国の文明レベルの範疇に収まるかもしれません。魔力制御の魔道具は非常に高価ではありますが、存在していないわけではないので。しかし、仮成人のあなたが後ろ盾もなしに販売して良い類のものではありませんね』


 いきなり幼女が特許出願中、みたいな商品作ったら命狙われますかー。そうですよねー。困ったなあ。


『私の信徒に、何人も腕の良い職人たちがいますが、その中でも工房を経営している者もいます。そこに弟子入りして修行という形をとりながら、人脈づくりなどをするのが良いでしょう』


 すごい! さすが女神様!

 工房かあ。職人っていうのもかっこいい響きよね!


 ミィちゃんありがとう! 愛してるぅ♡

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