第11話 アリシア、Sランクスキルを手にする

「さあ、スキルを解放しなさい。これが、あなたの人生を豊かで刺激のあるものに変えてくれることでしょう」


 ミィシェリア様の手の中にあるスキル玉が、より一層強い光を放ち出す。

 わたしはそれを落とさないように両手で受け取った。


 わたし、今度こそ楽しい人生を送りたい。


 人並みで良い。恋愛もしてみたいし、誰かの役に立つような仕事がしてみたい。

 まずはママに楽をさせてあげたい。


 それとあわよくば不労収入で田舎に大きな家を建てたりして、悠々自適に暮らしたい。お金にものを言わせて美男美女を集めたハーレムを作りたい。わたしにかしずかないヤツは公開処刑じゃー! 絶対王政を復活させるのじゃー!


「豊かで刺激のある人生……」


「いや、最後のところは違いますよ? 田舎で悠々自適に過ごすところまではギリギリ許します。絶対そこまでですからね⁉ そしてくれぐれもハーレムの想像の中に私を入れないように!」


 うーん。だって知ってる美女はミィシェリア様とワーウルフのシールケちゃんとバンパイアのルースちゃんくらいだし……。美男は……今のところちょっと心当たりないや。


「早くスキルを解放しなさい。かなり時間も押してますから」


「はーい。どんなスキルかな、と」


 スキル玉解放っと!


 うぉぉぉぉぉ! これは⁉


「レア度S『創作Lv1』……レア度Sだと……」


 存在したんかワレェ⁉


「スキルがすべてではありませんが、このスキルがあれば、生活に困ることはないでしょう」


 ミィシェリア様がわたしの頭にそっと手を乗せてくる。

 いや、生活に困るとか困らないとか……レア度Aでも100年ぶりなのに、レア度Sっていったい⁉


「転生者の中にはレア度Sのスキルを所有する者はいます。ただ、基本的には転生者は目立たないように生きるため、その事実が明らかにはなっていないのです」


 ふーん。そういうものかあ。

 田舎に引っ込んでスローライフを送っておけば安心安全ってことなのかな?


「レア度Sのスキルを所有していて最も目立った人物といえば、パストルラン王国初代国王のカイランド=パストルランでしょう」


 マジ伝説の人じゃん……。

 どこからともなく突然現れて、数百年も内乱状態だったこの島をあっという間に1つにまとめ上げて王国として成立させたという伝説の国王様。勇者カイランド。


「ほ、ほかには……?」


「そうですね。女神信仰を根付かせ、国の発展に寄与した賢者アインツラックでしょうか」


 もう聞くのやめよう。

 ぜんぜんスローライフじゃない人たちの名前しか出てこないや。国を作ったり、国を発展させたりって、魔王討伐よりすごそうだし……。


「わたし、そんな大それたことは……」


 女神ミィシェリア様の名のもとに、国の立て直しなんて荷が重いですよ……。


「アリシアは好きなように生きなさい。この国は安定しています。立て直す必要も、使命を持って生きる必要もありません」


「ホントですか⁉ わたしに国王になってハーレム王国を作れってことなのかと思っちゃったー」


「好きなようにとは言いましたが、できるだけ目立たないように、常識の範囲内で……。レアスキルを所持していることが周りに知れた場合、あなたの安全が脅かされる可能性もあります。その辺りは十分に警戒して生きる必要があるのですよ」


 ひっそりですね。りょうかーい。

 ひっそりなら、やっぱり洗脳スキルでハーレム作るほうが良かったなあ。


「あ、ところでこの『創作』ってどんなことができるスキルなんですか?」


 ちゃんと知っておかないとね。


「『創作』はMPと相応の代償を素にして何かを創り出すことができるスキルです。『何か』とは、アリシアの頭の中で思い描けたものに限定されます」


「うーん? たとえばどんな感じで使えばいいんでしょうか?」


 頭の中に思い描けたものって言われてもなあ。


「あらゆる物質は無から生み出されることはありません。ですので、わかりやすく言えば何かを作り出すには必ず材料が必要になるのです。家を建てようと思えば木やレンガなどが必要なように、創作するためにもその素となる素材を代償とします。そしてMPを使って思い描いたものを創り出す。そういうイメージです」


「なんか試してみたいですね。手ごろな素材ってないですか?」


 まずは実践してみないとイメージが湧かない。


「ではこれを使ってみてください」


 そう言ってミィシェリア様が取り出したのは、手のひら大の木片だった。


「この木がどんなものに使えるか、少し想像してみてください」


「木、小さな木の板……」


 なんだろう。ゴミにしか見えない。

 木の板……まな板? こらー、誰がまな板かっ!

 

「初めてなのですから、難しく考えなくていいのですよ。木を素材にしてイメージできるもの……たとえば私のこの羽根を再現してみるのはどうですか?」


「ミィちゃんの羽根! って今どこから取り出したの⁉」


 ミィちゃん、背中に羽根なんて生えてないよね⁉


「私には6枚の翼があります。普段は邪魔なので見えないようにしているだけです」


 邪魔って!

 翼かあ。ステキだなあ。ミィちゃんの羽根! 作ってみよう。


「んー。羽根を忠実に再現……スキル:創作!」


 木を薄く削って、羽毛の軽さを再現して、ふわふわした羽根に……できた!


「よくできました。初めてにしてはなかなかの出来栄えですね」


「うーん、まあ。箸置きくらいには見えますかね?」


 お世辞にも完璧に羽根というところまでは至っていない。羽根っぽい木細工ってところかな。


「MPの消費は100ですか。まあまあですね。それではもう一度。次はこの羽根と木片を手に取って、両方とも『構造把握』をしてみてください」


 なるほど……『構造把握』ね。

 ああっ、そういう使い方をするのね!

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