第10話 アリシア、本音を語る

「アリシア。あなたの人生に必要な能力を授けましょう」


 ドキドキ。

 どんなチート能力をもらえるのかな。

 玉の輿に乗るには……やっぱり相手を洗脳する必要があるよね。相手の心を意のままに操って……ふっふっふ。


「それは愛の女神として許すわけにはいきませんよ。愛は気持ちを確かめ合い、双方向の関係であることこそが尊いのです。一方的では片方に負担がかかってしまいますし、ましてや洗脳で相手の気持ちを無視するなどあってはならないことですよ」


「ちぇー。じゃあやっぱり札束で叩いて心を向かせるしか……」


「自分自身の魅力で振り向かせる、とは言えないんですか?」


 あらあら、またため息。

 これで3回目ですよ。


「わたし、背も低いし、やせっぽちでおっぱいも小さいし……。平民だから良い服も着れないし……」


「アリシアは外見にコンプレックスがあるのですね。たしかに外見も大切なこと。外見を磨くことを疎かにしてはなりません。私のようになりたければ努力を怠らないことです」


 ミィシェリア様が立派なお胸を反らしながら説教垂れてくる……。

 それは持つ者目線の物言いであって、持たざる者の気持ちなんてこれっぽっちも考えられていない……。


「ミィちゃん。そんなんじゃ信徒たちの心には響かないよ……」


「おかしいですね。私、今とても良いことを言ったつもりなのですが」


「そうじゃないんだよー。努力をして外見を磨く。そんなのはよーくわかってます。それを放棄したらすべて終わりだからね。放棄した人はそんなことそもそも考えないから、結果どっちの立場の人にも刺さらないよ」


「アリシアは努力しているほう、と」


「そう、日々努力してる! 筋トレだってしてる! でも、最初のステータス見たでしょ? ダメなものはダメ。人間じゃ他の種族の同世代の……巨乳のやつらには追い付けないの」


 生まれ持った才能、種族、親ガチャ、その他諸々当人の努力ではどうにもならない部分で、人生のほとんどは決まっちゃってるんだと思うのね。


「だからさー、外見にコンプレックスを持って、どんどん性格も歪んでいって、結局中身も見た目もブスな人生になるんだよね……」


「さすがにそれは悲観しすぎでは……。アリシアはまだ10歳ですよ。これからの努力で――」


 そう言いかけたところで、ミィシェリア様は口を噤んだ。


「努力、努力、努力。がむしゃらにやれば絶対結果がついてくるんですかー? どう努力したらいいかは誰が教えてくれるんですかー? それも努力で努力の仕方を見つけろってことですか? たいした努力もしないやつが才能だけでポンポン追い抜いていくこの世界でー。んー、それは前世の時も一緒かー」


 わたしがいただいたギフトスキルは『交渉』『構造把握』。レア度も高いし、すっごい運がいいし、とってもうれしい。

 でもね。このスキルたちを活かして生きていく自信はぜんぜんないんですよ。


 この世界でもきっと前世と同じことを繰り返すんだろうなって……。

 

 前世に後悔がないなんてウソ。両親以外ボクの死を悲しむ人なんていなかったんだなって思うと未練がないのはホント。でもやっぱりウソだ……。


「わたし、友だちがほしい……」


「アリシアの物怖じしない、社交的な性格なら友だちはたくさんいるのではないですか?」


「そうじゃない。そうじゃないんですよ……」


 そんなうわべだけの友だちは友だちなんかじゃない……。

 わたしがほしいのは――。


「苦楽を共にして、ケンカしたりもするけれど、お互いの足りないところを補い合うような……わたしが死んだ時、本気で泣いてくれるような……そんな友だちがほしいんです」


 そんな話、他人に話しても、しょせん夢物語で理想の話だろうって言われて笑い飛ばされるだけかもしれない。

 でもね、ここは神殿。女神様になら、本音を言ったっていいよね……。わたしがこれから一生崇拝していく女神様にこそ、本当のわたしの気持ちを知ってほしいの。


「アリシア……」


「なんて言ったら、ミィちゃんわたしの友だちになってくれたりする?」


 まじめに語りすぎちゃったら女神様といえども引いちゃうよね。

 危ない危ない。


「私は女神なので、友だちになることはできませんが……アリシアが迷った時や困った時、あなたが前に進むためにいつでも相談に乗りましょう。女神の前では皆平等です。虚勢を張る必要はありませんよ」


 心の声が聞こえるんだもん。何もかもお見通しだよね。


「ありがと。ミィちゃん大好き♡ これからもちゃんと礼拝するね。あ、でも、礼拝する度にこの神殿に来るのはちょっとだるいなあ。なんか、ほら、簡易的なお祈りとかないの?」


「だるいってあなた……簡易的なお祈り、ですか?」


「前世の記憶だと、どの家庭にも神棚や仏壇があって、そこで祈ってたなあ」


「女神がもっと身近なほうが信徒が増えるでしょうか……」


「そう思うよー。いつでもあなたのそばにいますーみたいな。ご本尊様的な……そうだ、ミィちゃんのフィギュアを作らない? なんか、この神殿にある女神像ってぜんぜんミィちゃんに似てないし、ぶっちゃけかわいくないよね」


 もっとリアル志向で、大きさも1/1から1/12くらいまで色々出したら、用途によって使い分けもできるしいいんじゃないの?


「フィギュアですか……。さすが転生者ですね。私たちにはなかった発想です」


「わたしの構造把握スキルのレベルを上げて、ミィちゃんの構造を丸裸にしちゃうぞー」


 まずはスリーサイズはちゃんと把握して、質感も再現して、なんなら髪の毛とか詰めてご利益があるようにしたりして……。


「お手柔らかにお願いします……」


 自身の体を抱くようにわたしから身を隠す。

 そんなことしても、このスキルの前には無抵抗なのだ!


 お、レベル2になった!

 意外とスキルのレベルアップ早いね。


「それは女神ボーナスで――」


 わーお。スキル成長にも女神ボーナスが!

 やっぱり一家に一台ミィちゃんがほしいなあ。


「あなたに与える追加のスキルですが、今決めましたよ。これこそがアリシアの人生を楽しく、豊かなものにしてくれるでしょう」


 ミィシェリア様が白く輝くスキル玉をわたしの前に差し出してきた。


 わたしの人生を楽しく豊かに?


「玉の輿に乗れる? ハーレムも作れる?」


「もしかしたら、そういう使い方もできるかもしれませんね。なんにせよ、あなたのやりたいことをする、その手助けとなるスキルです」


 マジで⁉

 玉の輿でハーレムなチートスキル⁉

 やほほほーい!

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