第14話 宣伝

(どうしよう、宣伝なんて。『変人』の私の言葉をまともに聞いてくれる人なんていないのに)

 そんなことを考えながら、大通りに出た時だった。

「ねぇ、伊部さん」

 私の進路を妨げたのは、千財さんと池逗さんだった。

(あれ? どうして二人が昼間からこんな場所へ?)

 一瞬考えた後に、今日が休日であることに気付く。退職してから、曜日の感覚を失っていた。

「今、あの獣男どもの店から出て来たわよね」

「どうだったぁ? 憧れの男の体、触らせてもらったぁ?」

 二人はニヤニヤと嫌な笑いを浮かべている。

「あそこはそういう店じゃないよ。それに私は彼らをそんな目で見てない」

「よく言うわよ」

 千財さんはゲラゲラと笑う。

「原始的で動物的な繁殖に興味津々のくせに。頭の中、男でいっぱいなんでしょ?」

「……!」

 なぜそんな下衆な言い方をするのだろう。

(女同士で愛し合うあなたたちだって、ずっと行為のことを考えてるわけじゃないでしょう?)

 言い返したいのを、グッと堪える。

 数少ない顔見知りだが、宣伝のできる雰囲気じゃなかった。

「良かったじゃない、夢にまで見ていた『男』が目の前に現れて。私たちには到底理解できない世界だけど」

 私は、彼女らの嫌味を聞き流しながら、何とかカフェへ誘導できないか必死に考える。

 ――異星を回る移動カフェとして営業をしていますが、これでなかなか盛況なのですよ

 ――ボクこれでも、どこ行っても可愛いって褒められるのに

「あ、あのっ」

 話の流れなどぶった切り、私は情報だけでも伝えようと試みた。

「彼らのカフェ、他の星では人気があるみたい。猫カフェとかそんな感じで……」

 私の言葉に、二人は顔を見合わせる。

「猫カフェぇ? あぁ、猫っぽい人もいたよねぇ」

「でも、『男』が接客するんでしょ?」

「そ、そうだけど。スイーツもお茶も他の星から取り寄せてるもので、とても珍しくて、美味しくて……」

「どうでもいい」

「!」

 千財さんは興味なさげにサッときびすを返すと、歩き去ってゆく。

「行こう,池逗。男好きが感染うつっちゃう」

「やだぁ、無理ぃ」

(あ……)

 遠ざかる二人の背中を見ながら、私はがっくりと肩を落とした。




「何が猫カフェよ。あんな不気味で大きい猫なんか、可愛くないし」

 千財の言葉に、腰巾着の池逗はこくこくと頷く。

「あの怖ぁい低い声で、オーダー取りに来るんでしょお? キモぉい」

「そうよね」

「あ、でもぉ、他の星で人気だってぇ。自分たちで言ってるだけとは思うけどぉ」

「……」

「他の星から取り寄せたスイーツやお茶かぁ」

 二人は足を止め、しばし口をつぐむ。

 やがて言葉を発したのは千財だった。

「……まぁ、見世物小屋程度には楽しめるかもね」

「ふふっ、悪趣味ぃ。行くぅ?」

 二人は忍び笑いを漏らし、細い小径へと入って行った。


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