第8話 取引

「社長! えっ? 何? なんなの?」

(まさか、電子手枷から電流を!?)

 凶悪犯の動きを封じるため、電子手枷に備わっている機能だが、今の彼に必要だっただろうか?

「てめぇら。社長に何を!」

 怒りを漲らせ、シラフェルさんが管理局の職員たちを怒鳴りつける。

 目の合った者たちが悲鳴をあげ、警備隊が柵越しに銃を構えた。

 構わず、シラフェルさんは警備隊に向かって突進しようとする。

 しかし。

「あがぁあっ!?」

 今度はシラフェルさんが、ビクンと身をのけぞらし、その場に膝をついた。

「シラフェルさん!」

「クソが……!」

 口端からよだれを垂らしながら、シラフェルさんがもう一度ギャラリーに迫ろうとした時だった。

「堪えろ、シラフェル」

 いきり立つシラフェルさんを押しとどめたのは、エイロックさんの苦しげな声だった。

 エイロックさんはふらつきながらもゆっくりと身を起こし、立ち上がる。

「だが、社長!」

「俺は平気だ」

 エイロックさんは、壇上の玉座に胡乱な目を向ける。

 冷たく見下ろす輝夜様をじっと見つめ、やがて彼は皮肉めいた笑みを口元に浮かべた。

「よくわかんねぇが、そういうことなんだな? OK、OK、理解した」

(そういうこと?)

「その代わりと言っちゃなんだが、ちっと取引しねぇか、輝夜さん?」

「取り引きだと!?」

 眉をひそめた輝夜様に代わり、警備隊長が声を荒げる。

「貴様、無礼だぞ!! 輝夜様に直に口を利くばかりか取引を持ち掛けるとは!」

 照準をエイロックさんに合わせ、警備隊長は言葉を続ける。

「輝夜様、銃殺のご命令を! この場で直ちに遂行いたします!」

(銃殺!?)

 謁見室にざわめきが広がる。

 面白がるような笑いを浮かべる者、当惑した表情をする者、互いに目配せし合いながら。

 けれど、獣人たちは怯まなかった。

「おや、故意に起こしたわけでもない事故で裁判もなく処刑とは」

 タロクさんが冷ややかに笑い、肩をすくめる。

「ここは、ずいぶんと野蛮な文化圏なのですね」

「我らを侮辱するか!」

 警備隊は柵越しに構えた銃のロックをはずす。号令一つあれば、即座に発砲する構えだ。

「では、罪状は何になるのでしょう?」

 タロクさんの叡智に溢れた瞳が警備隊長を見返す。

「この地に我々の船が墜落したことは、すでに多くの人々に知られています。我々の処刑について、皆が納得するだけの理由はつけられるのでしょうか」

「問題ない。貴様らはテロリストだ」

「ハッハ、なるほどなぁ!」

 電撃のショックから立ち直ったエイロックさんが、陽気に笑う。

「俺らは船で、輝夜さんの元へ特攻した不穏分子ってことか。だがその説明じゃ、違和感を抱く者がそのうち出てくるぜ」

「なんだと」


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