第6話 謁見室の虜囚

(輝夜様の元へ連行されたって言ってたけど……)

 私は息を切らせながら、中央センターへと飛び込む。

(謁見室? それとも審問室? それとも……)

「ねぇ、見た? 異星人」

 その時、誰かの声が耳に飛び込んできた。

「見た見た、不気味。あれ『男』なんでしょ?」

「!」

 通り過ぎてゆく二人の、今来た方向に目を向ける。

 謁見室の前に人だかりができていた。

 皆、中に足を踏み入れず、扉の陰から覗き込んでいる。

 その表情は、見世物を見ているかのようであった。

(あそこだ……!)

 私は謁見室に入ろうとした。

 けれど幾重にも重なる人垣に阻まれ、前に進めない。

「すみません、通してください!」

「無駄に大きいよね。あの生物、絶対にかさばって邪魔でしょ」

「わかる。それに声、聞いた? 怖いし野蛮」

 大袈裟に身震いする彼女らの横をすり抜ける。

「ねぇ、あいつら『男』なら、足の間にオガエルの総排出腔みたいな器官あるの?」

「キッモ。原始的! もはやエイリアンじゃん! あ、異星人エイリアンか」

「すみません、通してください!」

 私は強引に、二人の間に体をねじ込ませた。

「ちょっと、なに?」

 咎める声を聴き流し、私は謁見室へ足を踏み入れた。

(な……!)


「おい! この扱いはどういうこったよ!」

 室内には、見覚えのある4人がいた。

 ただし服は引き剥がされ、下着1枚の姿にされている。

 その上、背後に回った両手首には電子手枷が装着されていた。

(エイロックさん! みんな!)


 謁見室の最奥の玉座には、金の縫い取りが見事な赤い衣をまとい、蒼いアイラインを隈取のように施した女性が座っている。

 壇上より全てを冷たく見下ろす彼女こそ、この世界の頂点に立つ存在、第13代輝夜様だ。

 部屋の壁際には、中央勤務の職員と警備隊がぐるりと立ち並ぶ。

 皆、一様に、惨めな姿をさらす闖入者たちへ蔑みの目を向けていた。

 4人の虜囚は、可動式の柵で囲まれていた。


「事故ったことは謝ったし、賠償金もきっちり支払うって言ってんだろ!」

 怒りをあらわにしたエイロックさんは、先ほどの雰囲気とはまるで違っていた。

 壇上の輝夜様をねめつけ、大きく開いた口から鋭い牙を覗かせている。

「いきなりひん剥いて縛り上げて身体検査たぁ、まるっきし犯罪者扱いじゃねぇか!」

「何あれ。野蛮すぎ」

 近くから、嘲りの声が聞こえて来た。

「絶対に野放しにしちゃダメな生物でしょ」

 その言葉に、憤りを覚える。

(あんな扱い受ければ、誰だって怒るに決まってる!)

「……ねぇ。伊部が来たよぉ」

 人混みの中から、よく知る声が聞こえて来た。

(! 池逗さん、それに隣にいるのは千財さん!)

 私と視線が合うと、千財さんは口元を歪めて笑った。

「早速オスのにおいでも嗅ぎつけて来た?」

「……!」


 その時、部屋の中央から声が飛んで来た。

「あんたはさっきの、琴菜ちゃん!」

「! エイロック、さん……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る