第5話 夢じゃない

「社長、琴菜さんの様子が!」

「お、おい、琴菜ちゃん? 失神か、これ? しっかりしろって!」

 その時、機械扉の開く音がした。

 振り返った4人の目に、自分たちへ向けられる何十もの銃口が映る。

「動くな!」

 警備隊長が、凛とした声を張り上げる。

 その目が、エイロックの抱えた琴菜を捕らえた。

「その者を降ろせ! そして全員両手を頭の後ろに組んで地に伏せろ!」

「あのっ、ボクたちはあの……」

「言った通りにしろ!!」

「……」

 4人は命令通りに琴菜を降ろし、そして地面へ伏せる。

 駆け寄った警備隊が素早く4人の両手を背後に捻り上げ、電子手枷を手首へ取りつけた。





「う……、ん……」

 瞼を開くと、目に映ったのは白い天井とカーテンだった。

(……あ!)

 自然保護区での記憶がよみがえり、私は慌てて身を起こす。

(どうして私、こんなところに? エイロックさんたちは?)

 その時、カーテンがサッと開き、医療スタッフが顔を出した。

「伊部さん。目が覚めたのね」

「あ、あのっ」

「血圧確認するから、もう一度横になって。体温は……、うん、平熱。倒れたって聞いたから、驚いたわよ」

「……倒れた?」

 どこでだろう?

 ひょっとして、あれは夢だったのだろうか。

 空が割れ、そこから宇宙船が現れたのも。

 獣頭人身の「男」が現れて、私を抱き上げたのも。

(そうよ、夢よね。あんな非現実的な出来事……)

 絶滅種に興味を持ちすぎたあまり、そんな夢まで見るようになってしまったかと、自嘲的に笑う。

 本当に私は、普通じゃない……。


「伊部さん、眩暈はない? 痛むところは?」

「いえ、特には」

「それなら良かったわ」

 医療スタッフはニコニコしながら器具を片付ける。

「でも驚いたでしょ。空から異星の船が降ってくるなんて」

(え!?)

「幸いぶつからなかったから良かったものの、一歩間違えばあなた命を失っていたわ」

 医療スタッフは慣れた手つきで書類を取り出す。

「ショックで気絶したようだけど、特に外傷は見当たらないし、不幸中の幸いと言ったところかしら。でも精密検査を一応しておくわね。これに目を通してサインをしてくれる?」

「あ、の……」

「そうそう。しばらく自然保護区は立ち入り禁止ですって。あなたよくあそこに出入りしていたらしいから伝えておくわね」

(夢じゃ……、ない!?)


 私の心臓は早鐘を打ち始める。

「あの……っ」

 カラカラにへばりつく喉に、唾を送り込む。

「獣の頭をした人たちは、今どこに?」

 医療スタッフは、軽く眉間にしわを寄せる。

「彼らなら、輝夜様の元へ連行されたわ。取り調べだって」

「!」

 わなわなと手が震える。

(地球上から絶滅した「男」が、今、すぐ近くにいる!)


「伊部さん、今夜は念のためここで休んでね。容体が急変した場合……」

 私は彼女の言葉を最後まで聞かず、ベッドから滑り降り医療ルームを飛び出す。

「伊部さん!? どこへ行くの? 待ちなさい!」

 背後から焦った声が聞こえてきたが、私はそのまま廊下を走り続けた。



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