第7話 破竹の進撃

この、「フィギュア4回転キック」を選んだのは、実に正解だった。




 これが、5回転なら、多分、スペルマ大王や、精子A以外は、使用は不可能であったろう。




 だが、スペルマ総統は、この、予想外の裏切りに、激怒した。



 

「全軍、出撃せよ。




【アタック・オール・アタック】(注:これは、レイテ沖海戦で、戦艦大和に向かって行く戦闘機に、アメリカ軍から発せられた電文そのものです)。生きて返って来なくて良い!




 カミカゼ・アタックだ」




 しかし、一度、信頼関係が壊れると、いかに大軍とも言えども、それほど強くは無い。




 スペルマ大王も、次のように、言い放った。




「【この私を止めるなら、この私を殺せ】」(原文:「余を止めるなら、余を殺せ」。ナポレオンボナパルトの名言。エルバ島脱出時の言葉!)




 何と、この言葉ひと言で、約100万匹の一大隊が、全員、一瞬で、スペルマ大王と精子Aの側に付いたのである。これで、百数十万匹となった。




 悠々と、二匹の精子は進撃して行く。正に、破竹の進撃だ。




「何と、ここまでやって来るとは!




 よし、こうなったら、私自身が、出撃しようではないか!!!」




「いや、スペルマ総統自身の出撃は、まだまだ危険です。もう少し、様子をみましょう」




「では、もう少しだけ、待っていよう。しかし、事態が改善しなければ、この私が出撃する」




「分かりました、総統閣下、いずれ最終決戦の時が来ます、その時が、勝負でしょう」




「ともかく、スペルマ大王が邪魔じゃのう……」




「スペルマ総統。スペルマ大王は、既に三日前に生まれています。そして、この、謎の洞窟に放出されたのは、どう言う訳か、一番最後でした。




 つまり、余命は短いかと存じます」




「なるほど、スペルマ大王が先に死ねば、この私が、先にあの黄金の物体に、最初に辿り付けるのだな。ハハハ……」




「そうなのです、スペルマ総統。ご心配は入りませんよ。悠々と、あの黄金の物体に辿りつけるのです」




「そうか、それは、良い事を聞いたぞ。これで、私の勝ちの確定だな。




 何しろ、スペルマ一族は、たった一匹しか、生き残れないのだからのう……。




 ここは、ともかく高見の見物、お手並み拝見と行こうでは無いか?」




 しかし、スペルマ総統に反乱した精子の数は、約百数十万匹であるが、実は、スペルマ軍団の中でも最強を誇る、スペルマ総統突撃隊(SA)だったのである。




 この一番、重要な事実が、スペルマ総統の耳には、届いていなかったのだ。




 それは、また、不必要なレクチャーをして、スペルマ総統の逆鱗に触れる事を、上官達が畏れた事がその、最大の理由であったとは、力だけで約一千万匹の「ファースト・バタリオン」を指揮してきた自負のある、下手をすればスペルマ総統の最大の誤算になるかも知れないのだが……。




 これでは、太平洋戦争中、「勝った、勝った」と、偽の情報を流し続けた、日本の大本営発表の様子にも、良く似ているでは、ないか?




 この情報の誤伝達が、如何に、このスペルマの戦いに、どう言う大きな影響を与えるかは、歴史を見れば、実は、明らかだ。




 そして、いよいよ、物語は、最大の戦いへと向かって行くのである。


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