第8話 最大の戦い
ここは、先ほどのZ大学内の、研究室の一室である。
グイグイと明智美桜の奥の奥まで押し込んでいた、田中教授は、最後の直前で、ハッと気付いた。
ここで、二度目の放出を行えば、このスペルマ戦争は、更に、複雑になる事に気が付いたのだ。
で、もうギリギリと言うところで、明智美桜から引き抜き、研究室の床に放出した。
「危なかったなあ、もう少し遅れていれば、更なる、大混乱を引き起こしたところだ……」
その白濁した少量の液体を、横目で見ながら、明智美桜は思った。
確かに、もう少しでも遅かったら、更に、自分の体内で、大混乱が起きた筈だ。
やはり、田中教授は、○○なのか?
しかし、この状況を最後まで確認しなければならないと思う科学者の卵のプライドもある。絶対に、ここでサヨナラは出来ないのだ。例え、更に田中教授にもう一度、突っ込まれようが、である。
この、異様で摩訶不思議な精子らの戦いの結末を見届ける必然が、自分の心に沸々と湧いて来たのだ。……それは、もはや単なる好奇心の域を超えての、自分に与えられた使命であり、運命であると感じるようになっていたのだ。
……何かが、ある筈だ。それは、一体何なのかは、今のところ断言はできないが?
◆ ◆ ◆
さて、反乱軍の約百数十万匹以上の精子の軍団を抱えたスペルマ大王と精子Aは、中央突破は、可能だと考えていた。
何故なら、圧倒的な数の多さを誇る、スペルマ総統の大隊は、既に、統率が完全に取れていない。脱走する精子が続出。
皆、各自で、勝手に、謎の洞窟の奥にあるとされる黄金の物体に歩み続けていたからだ。
しかし、この無惨な様子を見て、遂に、スペルマ総統は、自らの出陣を決意したのだ。
して、かすかに心眼を凝らせば、そこそこ近い距離に、あの黄金に輝く「卵型」の目的物が、かすんで見えるのだ!!!
「ここで、最大の決戦だな……」と、スペルマ総統は、ニヤリと笑って言ったのだ。
◆ ◆ ◆
このスペルマ総統の薄笑いは、Z大学の明智美桜も、液晶画面のアバターでもハッキリ見たのだ。
一体、何なんだ、この余裕の笑いは?
数だけでは、スペルマ総統は、圧倒的に不利な筈なのだが?ハテ……?
◆ ◆ ◆
中央突破作戦は、何とかこのまま、うまく行くと思われた。
しかし、そこに、薄赤く光って見える、スペルマ総統が、たった、一匹で堂々と現れた。
「やっとここまで来たのか?スペルマ大王よ。遅かったな」
「気でも狂ったか?スペルマ総統よ!」
「イヤ、狂っているのは、スペルマ大王、貴様のほうだ!」
「どう言う事だ!」
「我が後ろを、良く、見よ。
ここには、極秘で訓練してきた、我が親衛隊(SS)の部隊、約十万匹いる。しかも、皆、「フィギュア5回転キック」の使い手だ。貴様らの中で、この「フィギュア5回転キック」を使えるのは、せいぜい、貴様と、若き精子Aだけだろう。
これらに、勝てるのかね?」
「ま、ま、まさか、あの噂のスペルマ総統親衛隊は、本当に実在したのか?」と、スペルマ大王が言う。
「まあ、そう言う事だ。これを、突破する事は、いくら大隊中で最強のスペルマ総統突撃隊(SA)でも、そうそう、簡単には行かないぞ」と、スペルマ総統は、悠々と答える。
「甘かったか、しかし、まさか噂話が本当だったとは?」
「事実だよ、ここは諦める事だな」
「どうしましょう?スペルマ大王様」と、情け無い顔(アバターの画面)で、精子Aが訪ねる。
「これは、私が生まれた時に、「コーガン無知」様が教えて下さったのだが、かって日本と言う国が、太平洋戦争の初め頃に投入した戦闘機、ゼロ戦、いわゆる零式艦上戦闘機に対し、全く手が出なかったアメリカ側は、一機のゼロ戦に対し数機のアメリカ戦闘機を投入して戦ったそうだ。
この方法を、取るしかあるまいのう……。
「分かりました。つまり、この場合は、一匹対十匹の戦いに持って行くと言う作戦ですね」
「分かりが早いのう、さすがは私の一番弟子だけある」
「駄目元でやってみますよ、スペルマ大王様」
「良いか、皆、十匹づつ集まれ。そして、この十匹を一つの突撃隊として、スペルマ総統親衛隊に立ち向かって行け。決して、一匹で立ち向かってはならない。
これは、命令だ!!!そして、その内の数匹が亡くなったら、残りの数匹が即集合して、再び、十匹の集団を再結成するのだ。この作戦なら、勝てるかも知れないじゃないか?」と、精子Aは、約百数十万匹以上ものスペルマ突撃隊員に、大号令をかけた。
ここには、かってのひ弱な、精子Aの面影は、微塵も感じられ無かった。いや、体の大きさだけなら、あのスペルマ大王に、匹敵する程になっていたのである。
「さあ、スペルマ総統突撃隊(SA)よ、いよいよ、出陣だ。周囲に目を配って、突撃せよ」
こうして、いよいよ、謎の洞窟の中で、スペルマ同士の、悲惨で、地獄のような戦いの幕が切って落とされたのであった。
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