第5話 中央突破・迂回路
さて、まだまだ道のりは遠いのだ。
「大王様、僕らは、一体どれほどの距離を泳いで来たのでしょうか?」
「さあ、数えてはおらんが、まず千里はくだらないないだろう」
「で、目的の黄金色の物体は、あと、どれだけなのでしょう?」
「多分、今の倍の距離だろう」と、素っ気ない返事が返って来る
「ええっ、まだ、この倍もあるのですか?
これは、よほど覚悟しないと、とても辿りつけ無いですね」
「馬鹿を言え。ここで、諦めたら今までの苦労が全て水の泡だぞ!!!」
「遠くにいる、あの最後の精子の集団、「ファースト・バタリオン」は、それはそれは強力な軍団だ。
あのスペルマ総統が語った言葉を知っているか?
多分、知らないであろうから、この私が、教えてあげよう。
【余は夢遊病者の確信をもって我が道を行く】、と、このような狂気に満ちた言葉を吐いた人物なのだ。
この一言を持ってしても、いかに、最後の集団「ファースト・バタリオン」が、狂気じみているかは、分かるだろう。
しかもだ。スペルマ総統は、約一千万匹以上の大群の精子の軍団を、百万匹単位に分け、これに第一大隊から第十大隊に分けて統率していたのだが、その内、最後の第十大隊長が、ミスをした時に、全員の前で、
赤色に輝く自分の尾っぽを、第十大隊長の体に巻き付けて、絞め殺したと言う噂話を聞いている程だ」
「そう言う強敵を敵にして、どうして、ここから前に進めば良いのでしょうか?」
「二通りの道がある」と、スペルマ大王は、なおも語るのだ。
「まずは、正面突破だ。
次なる方法は、この一千万匹を避けて、迂回路を通って、つまりこの「ファースト・バタリオン」を避けて通って行くかだ。
しかし、この迂回路作戦は、更に、距離が伸びる事になる。
これ以上、時間をかける訳にはいかない。やはり、正面突破が一番の近道だろう。
しかし、ここで、気を付けるべきは、決して、スペルマ総統以外に、あの、一子相伝の秘術『スペルマ鞭毛(べんもう)百連発打』を、決して使わない事だ」
「何故です?」と、精子Aは聞く。
「あの一子相伝の秘術でしか、スペルマ総統と、互角に戦えるワザは無い!!!」
「うーん、退路は無いのですか?」
「そういう事だ。【精子の置かれた立場とは(原文:人間の一生とは)深淵に架けられた一本の綱である。渡るも危険、途上にあるも危険、後ろを振り返るも危険、身震いして立ち止まるのも危険。だが、勇気を振り起こして前に進もうではないか!】と、有名な哲学者ニーチェも、ペニス王子の住んでいた世界で語っていたのだ。
そう、もはや、正面突破しかあり得無いのだ!!!」
◆ ◆ ◆
しかし、ここまでの話を、スパコン「エベレスト」の、液晶ディスプレイと、AIスポイーカーで聞いていた明智美桜は、ついに、ある疑問を、田中教授にぶつけてみる事にしたのだ?
「先生、私、フト思ったのですが、人類が大きく発展するようになったのは、人間の大脳に、軸索細胞や樹状細胞等のいわゆる大脳新皮質の元になる脳細胞が発達したからでは無いのですか?
そして、それら神経細胞シナプス同士が繋がって、各種の物事を考える事ができるようになったからでは?
そして、やがて、文明が生まれた筈です。
しかし、これらの精子らには、この大脳細胞に該当する物が、一切、ありません。一体、どうやって彼らはこのような高度な知識を得る事など、できるのでしょうか?
この、私にはどうしても理解出来ません」
「では、美桜ちゃんは、テレパシーを信じるかい?」
「いえ、全く信じません。科学的に証明されていないからです」
「私は、片方では世界最高峰のパソコンの開発者だ。それは、認めてくれるね?
だが、かってのニュートンもそうであったが、物理学者の面も持ちながら、ニュートンは錬金術の研究もしていた事は、歴史的事実でもある。
この私は、最先端の科学者でありながらも、強烈なオカルト信者でもあるのだ。
だから、例え、精子やアメーバーのような微生物も、「生きている」限り「共通的無意識」により、最終的には「宇宙意識」へと繋がっているのだ。
だから、何も、これらの微生物自信が考え無くても、「心」の奥底で、我々、人類とも繋がっていると思えば良いのだ。
この説は、フロイト博士のまな弟子の、カール・グスタフ・ユング博士も、それに近いような学説を、発表されている。
そのオカルト的事実を証明するためにも、このスパコン「エベレスト」を作り上げ、最新型のAIで、その音声や画像を見れるようにしたのさ……。
何か、これ以上、言う事はあるかい?」
ああ、これ以上、何を言っても無駄だろう、と、明智美桜は思った。
現実に、スパコン「エベレスト」からは、精子同士の会話や、そのアバターの画面が、次々に、映しだされているからなのだ。
ここは、大人しく引き下がるしか無い。
心の中に、大きな疑問を抱えながらも、明智美桜は、なおも液晶画面を見続ける。田中教授もだ。
二人とも、微動だにせずに、この話の続きを追い求めるのであった。
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