第4話 大王からの伝授

「良いか、精子Aよ。




 ここで、私は、いかにスペルマ大王と呼ばれるようになったかの、その経緯を説明しよう。


 


 そして、「一子相伝の秘伝」も伝授しよう……」




「ありがとうございます。大王様。謹んでお受け致します。しかし、スペルマ大王様はそのような膨大な知識を何処で、一体、得られたのですか?」




「それは、三日前に私が、この世に生まれた時に、私らの生みの親の「コーガン無知」様から、直接聞いたのだ!」




 だが、その時、薄黄色い色の一匹の精子が、チョロチョロと近づいて来た。




「ヒャハハハ……、精子Aよ、ここは通さねえぜ!!!」




「フフン、一体、何処の誰だ?」




「見よ、俺様の尻尾は二つに分かれている。この二本の尻尾でお前を串刺しさ……」




「じゃ、後ろを見てみろよ」と、落ち着いて、精子Aは言った。




「ヒエー、スペルマ大王じゃ無いか?」と、大声を上げて泳いで逃げて行った。




「逃げ方、カスじゃん!」と、精子Aは鼻で笑った。




◆ ◆ ◆




 この画面は、明智美桜は、確かパチスロ台のテレビのCMで、数年前に見た事があった。お笑い芸人「かまいたち」が、テレビCMで演じていた記憶がある。




 また、毎日、勉強ばかりしている彼女を心配して、同じ大学の女性の友人に誘われて、ストレス解消にと、実際に、パチンコ店へ連れて行かれて、そのパチスロ台を打った記憶もある。まだ、コロナが流行っていた時だったにもである。




 しかし、こんな精子のような小さな微生物が、どうして、かってのテレビCMや、パチスロ台の演出画面までを知っているのだろうか?




 明智美桜の疑問は、更に深くなって言ったのだ。この一連の話が終わったら、田中先生に聞いてみたい、と強く思ったのだ。




◆ ◆ ◆




「良く言った精子Aよ、さて、本題に入ろう。




 我々、スペルマ一族は、哲学者のニーチェの唱えた如く「心」の【三段の変化】を遂げて、この私のような存在になるのだ。




 まず、いかに【「心」が駱駝となり、獅子となり、最後に子供となる】のかだよ!」




「スペルマ大王、私には、駱駝も獅子も、全く理解出来ません」




「そりゃそうじゃの。それらの物は、この謎の洞窟の中には、一切存在しない物ばかりなのだ。

 あくまで、ペニス王子の住んでいる世界の生き物だ。だから、まずは、とりあえずは想像だけで良い。




 良いか、我々、スペルマ一族は生まれた時から、最も重い物を求める癖がある。つまり、苦労を自ら背負う駱駝だと、解釈してもらってもいい。




 しかし、最も重い物を背負うと、今度は、「心」はここで変化して、最も強い獅子となるのだ。




 しかも、ここで「心」は、更なる変化を欲するのだ。




 獅子のような強い物でも手に入れる事の出来ない、新たな価値を自由に想像する事ができる物、それが、「子供」のような自由な「心」なのだ。




 これが、「心」の【三段の変化】なのだ。




 この境地に至った時に、初めて、極普通の一精子が、スペルマ大王と呼ばれるようになるのだ。


 この私は、年は取ってはいるが、「心」は既に自由であって、如何なる事態にも対応できるようになったのだよ」




「イヤ、スペルマ大王、あまりに超哲学的過ぎて、僕には、とても理解不能です」




「そう、これは、頭で考えて理解できる物では決して無い。【考えてはいけないのだ。ただただ感じるんだよ!】」




「うーん、【あまりに、スペルマ的、スペルマ的な】、って心情ですよね。


 しかし、もっと時間をかけて、いつかやがて、その境地に至りたいと思います」




「それが、良いじゃろうのう……。そなたの「心」の問題は、そなたの自身が考えるべき問題なのだからじゃからのう。




 しかし、「一子相伝の秘伝」は、この場でしか、伝授できないのだ。


 良いか、「一子相伝の秘術」なのだぞ。




 これを、若き勇者、精子Aに、今のうちに、伝授していくのが、この私の、多分最後の仕事だ。




 良いか、良く見ておくが良い!秘術その一だ。




 『スペルマ鞭毛(べんもう)百連発打』だ。




 アチャ、チャ、チャ、チャ、チャ、と、怪鳥音を心で発しながら、精子の尾っぽを、息つく暇も無い間に、つまりわずか一秒間の間に、100連続のキックを連発するワザなのだよ。



 しかも狙う点は、脳天や胴体の中心、尾っぽの元など、全てが、我々、精子にとっての急所ばかりだよ。




 若き精子Aよ、果たして、できるのかのう?」




「一応、やってみますが、どうして、かような自分にとっても危険なワザが必要なのですか!この前の、「フィギュア5回転キック」だけでも十分なのでは?」




「それは、今まで言って無かったのも悪かったのだが、実は、私と君、精子Aは、ペニス王子の、何回かにわたる最後の収縮で、放出されたのだ。




 逆に言えば、この私らの前には、もっと先に放出された、スペルマ一族がいるのだ。




 それを統率しているのは、我がスペルマ一族一の悪党、スペルマ総統なのだ。


 部下の数は、ざっと見て、約一千万匹以上だ。




 このスペルマ総統は、この一千万匹以上の精子の軍団を、「ファースト・バタリオン」と名付けて、全てを従えている。




 一説には、赤く輝くオーラを有しているらしい。


 そして、あの黄金色に輝く目的物の、一番乗りを目指していると言う。




 多分じゃが、この私と戦っても、互角じゃろうな?」




「スペルマ大王と互角なら、この僕では、絶対に勝てないじゃ無いですか?」




「だからこそ、一子相伝の必殺ワザ、『スペルマ鞭毛(べんもう)百連発打』を伝授するのだよ」




「しかし、大王様、お言葉を返すようですが、一千万匹以上の、大群に向かって行く勇気は、僕には、ありません」




「情けない事を言うな!




 かって「孟子」と言うペニス王子の世界に住んでいた人は、【自ら省かえりみて縮(なお)くんば 一千万人といえども我いかん】と、語ったと言うでは無いか。




 若き、精子Aよ、どう考える?」




「少し、考えさせて下さい」




 さて、物語は、いよいよ佳境に入って来るのであった。








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