第3話 君よ、狂え

 こうして、再び、勇気を取り戻した、若き精子Aは、「ドルフィン泳法」で泳ぎ始めた。




 そのスピードは、予想外に早い。

 隣にいる数々の、精子の群れを、軽々と追い越していく。




 その直後を、スペルマ大王は、悠々と、平行して泳いで着いていく。




 しかし、物事は、そうそう簡単な物事ではない。




 実際、仲間だと思っていた、隣の精子の群れが、次々と襲って来る。初めは同情の気持ちがあったものの、ここは非情になりきって、尻尾を使って反撃するしかない。




 剣道で言う、面打ちのような正面攻撃を行う。また、胴打ちや籠手打ちのような動きで、相手の尻尾を叩き切っていく。




 これによって敗れた精子らは、ゴボゴボと謎の洞窟の底に沈んでいった。そこには、死んだ精子らの大群によって、やがて、小高いゴミ山のようになって行ったのだった。




「中々、やるではないか!若き精子Aよ。さすがは、私の、一番弟子だけの事はある。偉いぞ、その調子で頑張れ。




 おお、見よ。あともう少しで、先頭集団に追いつけるぞ!!!」




 しかし、物事はそう簡単には、行かないのだ。




 何と、精子Aの、周囲全方向をぐるりと取り囲むように、数百匹の精子の軍団が、静かに、近づいて来るでは無いか?




 ここで、特筆すべきは、皆、尾っぽを、槍のように伸ばしている事だ。このまま、ある瞬間に、一斉に、自分に向かって突進して来るに違いない。




 逃げ場が全く無い。平面では無い3次元の全方向からの、攻撃の瞬間を、ジッと待っているのは、ただ、自らの死を待っているに、違い無いのである。




「スペルマ大王。この状態では、逃げ道はありません。僕は、一体、どうしたら良いのでしょう?」




「若き精子Aよ、ペニス王子から放出される時に、フト、聞いたように思うのだが、ペニス王子の住む世界では、フィギュア・スケートと言う物があるらしい。


 


 で、そこでは、4回転、4回転半を飛ぶ技術があると言う。




 それを、今回、利用するのだ。




 つまり、「フィギュア5回転キック」で、ここを乗り切るしかない」




「しかし、「フィギュア5回転キック」など、誰も成功した事がありませんと、そう聞いたように思います。この僕には、自信が全く無いのです」




「では、かってペニス王子の住んでいた世界にいたと言う、「吉田松陰」の名言を授けるぞよ。良いか?」




「一体、何です?」




「【君、狂いたまえ】、だ!」(注:原文は「諸君 狂いたまえ」です)




「えっ、この僕に、狂えと、先生は言われるのですか?」




「さよう。若き精子Aの、君自体が、狂わなければ、この事態は突破できん。




 狂って、狂って、狂いまくるしかない」、そう、スペルマ大王は、断言した。




◆ ◆ ◆




 しかして、ここは、依然、Z大学の研究室である。




 超天才を唄われる田中均教授と、つい先ほど婚約し合体したばかりの助手の明智美桜の二人が、下着にガウン着のまま、スパコン「エベレスト」の画面に食らいついている。いや、凝視していると言ったほうが、適切かも知れない。




 ここで、若干、紹介が送れたが、このアインシュタイン以来の超天才を唄われる田中均教授は、Z大学で、理学博士号と工学博士号を、留学先のハーバード大学で哲学博士号をも貰っている。高校時代はサッカー部員だったから、体力も精力もある。




 もう一人の登場人物の、明智美桜も、Z大学の理学部卒で、現在、当該大学の大学院生である。二人の年齢差は15歳程度あるものの、明智美桜は、Z大学でも歴代最高クラスの美女の誉れ高く、才色兼備とは正に彼女の為にあるような言葉なのである。




 で、超天才を唄われる田中均教授は、無類の性欲の持ち主で、先ほど、明智美桜と合体する時など、ピルを飲んでいる事を告げられて、




「わーい、生まれて初めての、生だ、生だ、生で入れれるのだ、嬉しいなあ……」と、大声を上げて喜ぶ始末だ。




 明智美桜は、

「こ、こ、これが、ホントに、アインシュタイン以来の超天才なの?」と、疑問に感じた程だ。




 しかし、世界中の超一流大学でも、田中均教授の発明したスパコン「エベレスト」の演算処理能力の高さのみは、続々、証明されているのだ。




「やはり、天才と○○は、紙一重なのか?」と、思うしか無いのである。




 だが、このスパコン「エベレスト」の液晶画面や、AIスピーカーから漏れてくる情報に、フト、明智美桜自体が、何故か漠然とした疑問を感じ初めたのも事実なのだが……。




◆ ◆ ◆




 謎の洞窟内では、全方向を取り囲んだ、精子の集団が、尾っぽを、全員、槍状態にして、一斉に襲来して来た。




◆ ◆ ◆




「先生、パターン:ミッドナイトブルーです!!!この、色は、今までと違います」




「恐らくだが、途轍も無い戦いの最中なのだろう。だが、そこは、美桜チャンの体内での話だ。私らには何もできんよ。ただ、結果を待つしかね……」




◆ ◆ ◆




 そして、若き精子Aは、今まで誰も成功した事の無い、「フィギュア5回転キック」を連続的に炸裂。




 ほぼ、一瞬で、勝負は付いた。




 約数百匹の精子の集団が、ゴボゴボと、沈んで行った。





まるで、天一号作戦(菊水作戦)に敗れ、九州沖で沈没していった、日本が世界に誇った戦艦大和の最後のように……。








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