第2話 スペルマ大王
さて、ここは、闇の洞窟内である。
もっと、適切な表現に言い換えれば、絶世の美女の明智美桜の体内の中での事である。
しかし、スパコン「エベレスト」の液晶モニター画面には、何と、数々の精子のアバターが写しだされ、各々の音声すら、ハッキリと聞こえて来たではないか!!!
◆ ◆ ◆
「大王様。僕は、もう駄目です。僕らは、一体どこに向かっているのですか?」
「何を言うか、若者よ、精子Aよ。弱音を吐くで無い。そのために、この私が、ここに君臨しているんだぞ」
「でも、僕は、生まれてまだ数時間後の子供です。せめて、何処に向かっているのかだけでも御教示下さい」
「だったら、私の言う事を聞いて、はるか彼方を見てみなさい」
「大王様。お言葉を返すようですが、私ら精子らには、目がありません。どうやって見る事ができるのです?」
「目は無くても、心眼があるじゃろうが?極、簡単に言えば心で見るのだよ」
「はあ、そうですか?しかし、何も感じられません……」
「ホントに見えぬか?」
◆ ◆ ◆
この時、「エベレスト」の液晶画面に、巨大なオタマジャクシに似たアバターが現れたのだ。これこそが、いわゆる、スペルマ大王のアバターなのだろう。
◆ ◆ ◆
「ああ、そう言えば、何か、ずっとずっと奥の奥に、金色に輝く物を感じます」
「そうだ、その金色の物体こそが、若き精子A、君の最終的に辿り着くべき場所なのだよ」
「大王様、大王様は、どうして、そう博識なのですか?」
「ハハハ、私は、生まれて既に三日間も経っている。で、私には、残された時間がもう無いのだからだのう」
「どう言う事です?」
「若き精子Aよ。聞いて驚くなよ。
我々、スペルマ一族の平均寿命は、実は、この私も直面している事でもあるのだが、たったの三日間程度しか無いのだ。例え、もう少し生きれたとしても、5日間が限度だろう。
この知識は、私らの生みの親の「コーガン無知」様から、直接聞いたのだから、間違いが無い。
良いか、平均で、たった三日間で、我が、スペルマ一族は、滅亡するのだ。わずかのたった一人を除いてだよ。
つまり、スペルマ一族にとっての、ハルマゲドンがやって来るのだ!!!
だから、まずは【権力への意志】を持て!これこそが、生き残れる最後の心構えなのだ」
◆ ◆ ◆
「先生、先ほどから、この精子の画面のアバターは、聞くに堪えない事を言っていますが、これは、本当に、スパコン「エベレスト」が、現実にAI解析した結果なのでしょうか?
それとも、AIの異常暴走による、単なる人工的な妄想なのでしょうか?」
「将来の妻の明智美桜ちゃん。このような結論は、私が、以前から予想していた事なのだよ。私は、この話を、心より信じるのだ。
つまり、単細胞生物や微生物にも、それが「生き物」である限り、「心」や「会話」がある事が科学的に解明されたに違いない。
だって、ついさっき、美桜ちゃんの体内に、この私が放出したのは事実なのだからね……」
「じゃ、先生は、この話は真実だと……」
「勿論だよ!」
「しかしですよ、先生。
【権力への意志】は、哲学者「ニーチェ」の言葉ですし、著書名ですよ。こんな微生物が、どうして知っているんでしょうか?実に、素朴な疑問ですが?」
「それは、私が若い時に読んだ本の記憶が、回り回って、自分の精子に乗り移ったからだろうよ……だからこその「共通的無意識」なのだ」
◆ ◆ ◆
謎の洞窟(明智美桜の体内)の中では、なおも禅問答のような、問いかけが、繰り替えされていた。
「ほんの少しだけ、少しだけですが、理解ができました。でも、もはや、あの黄金色に輝く、神々しい物体にまで泳いでいく体力が、ありません。
僕は、まだ、あまりに若過ぎます」
「では、一つの言葉を述べよう。若き精子Aよ。
【世界には、きみ以外には誰も歩むことのできない雄一の道がある。その道はどこに行き着くのか、と問うてはならない。ひたすら歩め】(注:ニーチェの名言の一つ)
どうだ、これでも元気が出て来ぬか?」
「駄目です。言葉だけでは、もはや立ち直れません。僕は、ハルマゲドンの渦に飲み込まれる運命なのでしょう。
もはや、僕の、運命もここまでです」
「私の一番弟子の精子Aよ。私と君とは、ペニス王子から、最後の収縮時に同時に放出された、いわば運命共同体では無いのかね?
ならば、残り少ない、私の生命だ。
とっておきの泳法を教えてあげよう」
◆ ◆ ◆
Z大学の、「エベレスト」の液晶モニターに、大きなオタマジャクシのようなアバターが、再び出現した。
ここで、大きなオタマジャクシ風のアバターは、長い尻尾を体にギリギリに引きつけて、急に、ピンと跳ねた。
液晶画面から急に消える。
それをまた、「エベレスト」の液晶画面は、急いで追跡するのだ。
◆ ◆ ◆
「いいか、これが、「ドルフィン泳法」だ。これを使えば、最小の体力で最大のスピードが出せる。今からでも、先頭集団に追いつけるぞ。さあ、行こう……。
若き勇者の精子Aよ」
「分かりました。これが、我ら、スペルマ一族に与えられた宿命なら、受け入れるしかありません。
僕は、今から、行きますよ。
そして、あの黄金色に輝く物体に、一番先に辿り着きますよ」
こうして、瀕死の精子Aは、スペルマ大王と、共に再び泳ぎ始めた。
果たして、この二人のどちらかでも、無事に、あの光り輝く物体に辿り付けるのであろうか……。
いよいよ語は佳境に入って行く。
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