第93話 それぞれの処分
2人とも長旅でお疲れだろうからゆっくり休んで貰おうと早速ゲストハウスに案内したのだが、元気いっぱいのカーミラ王女殿下はお茶でも飲んでいけと勧めてくれる。
お義兄様からも是非にという事だったので、案内に行ったはずのゲストハウスで逆にアウストブルク産の美味しい紅茶をご馳走になってしまった。
「え? クリスティーナが?」
「うん、アナスタシアに言われた事を自分なりに考えたんじゃないかな」
始めは馬車での旅の話や伯爵領の事など和やかな話題でお茶を楽しんでいたけれど、段々と話はクリスティーナ達の処分についてへと変わっていった。
クリスティーナは、公爵家から除籍されたそうだ。
それが厳しい処分なのかどうかは私にはわからないけれど、確かにあそこまで問題を起こしてしまってはもう貴族令嬢としては致命的だろう。
それより私が驚いたのは、クリスティーナが本当に自分の髪を平民街へ売りに行ったと聞いたからだ。
私が言っていた通り、随分高値が付いたらしい。
……と言っても、公爵令嬢のクリスティーナにしてみればほんの小銭だっただろうけど。
それをクリスティーナがどう思ったかを私が知る事は、きっとこの先も無いだろう。
お義兄様いわく、髪を短く切ったクリスティーナの姿は審議官達にかなりの衝撃を与えたらしく、それは彼女の減刑に少なからず貢献したらしい。
反省して自ら髪を切ったと思われたんだろう。
実際は違うけど。悪運の強い奴め。
今まで筆頭公爵家の令嬢として何不自由なく暮らしていたクリスティーナが、突然1人で生きていけるはずなど無い。
こういったケースでは修道院へはいったり、どこかの労働施設へはいったり……どこにも受け入れ先が無い場合は、あまり言いたくはないが娼館へ身を落としたりする。
恐らくお義兄様が手を回すだろうからそこまで悲惨な事にはならないと思うのだが、ちょっと心配もある。
……って、私が心配してどうする、お人好しか!
ちなみに公爵は爵位をお義兄様に譲り、病気療養という名の幽閉となった。
詳しくは知らないが、決して良い環境での幽閉にはならないそうなので、まぁしっかり反省して欲しい。
「正直、国の筆頭公爵家の当主がこんな若造じゃ問題あり過ぎだからね……。アルフレッドお祖父様に一度爵位を戻す案もあったんだけど、結局私が当主として立ち、アルフレッドお祖父様に後見人になって頂くという形に落ち着いたんだ」
そして、虐待の被害者である私には多額の賠償金が支払われるそうだ。正直お金には困ってない上、これって結局お義兄様が払うんだよね?
辞退とか出来るならその方向でお願いしたいなぁ。
公爵家の財政が周りが思っている以上に良くない事も知っているし、これからお義兄様が背負う事になる物の重さを考えると
思わずお義兄様の未来を悲観して暗い顔になってしまったが、隣に座るカーミラ王女殿下が私にだけ見える様にそっとウィンクしてくれた。
おおっ! た、頼れるー!!
なるほど。お義兄様が公爵になるのも、フェアファンビル公爵家自体が降爵されなかったのも、恐らくカーミラ王女殿下との婚約問題があったからか。
こんな状態のお義兄様を見捨てず寄り添おうとしてくれてる訳だから、カーミラ王女殿下って絶対お義兄様の事好きだよね……。
お義兄様! ファイト!!
ちなみに、私のドレスの窃盗に関してはクリスティーナの侍女や取り巻きの下級貴族の子息も何人か捕まったらしい。
謹慎中のクリスティーナに代わって実際に動いていたのは彼らだったそうだ。
「あ、そういえば元王太子殿下ってどうなったんですか?」
廃太子はされたが、処分自体は保留だったはずだ。
話の流れで何となく気になって聞いてみると、王太子と聞いただけでカーミラ王女殿下とお義兄様の顔が不快そうに歪んでいく。
あれ? 何かまずい事聞いたかな?
「廃太子になっても王家には残して貰えてた訳だから、そのまま大人しく病気療養という名の幽閉でもされときゃ良かったのに……。あの男、性懲りも無くまだアナの事を狙ってたのよ」
げっ!!
「おかしな連中と連絡を取ろうとしてたのをリアが気付いてね。これは相当懲らしめないとアナにまた何かするかもしれないと思って、キツめのお灸を据えといたわ!」
知らない所で王女殿下とリアちゃんに守って貰ってたのか。これは本当に感謝しかない。
しかし、キツめのお灸とは一体……?
「王女殿下、キツめのお灸とは?」
私と同じ疑問を抱いたらしい旦那様が恐る恐る尋ねると、カーミラ王女殿下はそれはそれはいい笑顔でこう答えた。
「ご自慢の金髪を、毛根から死滅させてやったわ!!」
……キッツい!!
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