第92話 溺愛生活始まる!?

 今、私の目の前では至極ご機嫌な旦那様がいい笑顔で手を差し出して待っている。


 朝食を食べ終えたばかりの食堂には当然使用人達もいて、マリーや古参の領地の使用人達が心なしかニヨニヨこちらを見ている状態なのにもかかわらず、だ。

 

 むうぅっ、これは恥ずかしい!……が背に腹はかえられぬ。


 私が旦那様の手に手を重ねると、とびきりの笑顔が返って来るのである。


 要は私はその笑顔が見たい。


 くっ、笑いたくば笑え! 愛する旦那様の笑顔の為なら私は道化にもなる覚悟は出来ている!!


 私が決死の覚悟で旦那様の手を取って立ち上がると、旦那様はそれは嬉しそうに微笑んで指を絡めて手を繋いで来る。


 やっている事は積極的この上ないのに、実は耳は真っ赤になっているのが旦那様の可愛い所だ。


『『『いやぁー、アツアツですなぁ』』』


 精霊トリオが声をハモらせ冷やかして来る。


 もう! そんな事言ってると、次からパンケーキ分けてあげないんだから!



 件の試用期間終了宣言をしてからというもの、旦那様の私に対する溺愛ぶりはとどまるところを知らない。


 移動中に手を繋ぐのもそうだし、2人でお茶を飲む時なんて、私を膝に乗せようとするものだからさすがに驚きで仰け反った。


 私が真っ赤になって抗議すると、恋愛結婚の貴族はみんなこんな物なのだと教えられた。

 お、お貴族様って凄いな。

 

 郷にいれば郷に従えだ! とばかりに思い切って旦那様のお膝にお邪魔したところ、お次はケーキをアーンとされて意識を飛ばしかけた。


 上級貴族への道のりは厳しい。



 さて、こんなデロ甘な生活になってしまった私達だが、もちろんやるべき事はやっている。


 旦那様は領地経営について大分理解が追いついて来た様子で、今までマーカスに任せきりだった書類仕事もする様になった。


 お陰でマーカスにも少し時間のゆとりが出来たらしくてダリアにも感謝された。


 ……まぁこれが本来あるべき形なんだけどね。

 今までごめんね、マーカス。


 マーカスに関しては激務すぎて婚期を逃した説もあるので、今後は私と旦那様もしっかり仕事をするから安心して所帯を持って欲しいと思う。

 もちろんダリアと。



 そして、今日の午後にはいよいよ伯爵領にお義兄様とカーミラ王女殿下がやって来る。


 私が伯爵家に嫁いで来てから領地のゲストハウスにお客様をお招きするのは初めてなので、おもてなしの準備には細心の注意を払ったつもりだ。


 お義兄様とカーミラ王女殿下には、是非楽しんで頂きたい。


「旦那様、いくら何でもお義兄様とカーミラ王女殿下がいらしたら邸内で手を繋ぐのはナシですよ?」

「そうなのか!?」


 ……繋ぐ気だったんかい! 危なかった!


 


 そして午後。


「アナーーー!」


 私と旦那様が邸の前で2人の到着を待っていると、馬車の中から元気に手を振るカーミラ王女殿下の姿が見えて来た。


 馬車から降り立った王女殿下は、何とフェアランブルではまだあまり見ないパンツスタイルだった。

 大きめフリルのキャバリアブラウスに、サスペンダー付きの黒いハイウェストのズボンが凄く良く合う。


 か、可愛い! オシャレ!!

 カーミラ王女殿下いつ見てもセンスいいなー。


 今回のカーミラ王女殿下のご訪問は、公式な物ではないがお忍びでもないので、しっかり護衛や侍女達も付いてきている。

 結構な大所帯なので、私の伯爵夫人としての手腕も試されるってものだ。実に腕がなる。


「アナ! 会いたかったー! すぐに王都から領地に戻っちゃうんだもの。もっとお話したかったわ!」


 カーミラ王女殿下にまたキュッと抱きつかれた。


 はぁ、王女殿下可愛い。早くこの方をお義姉様とお呼びしたいので、お義兄様には早く王女殿下を口説き落として欲しい物である。


「はは、大人数でごめんね。ハミルトン伯爵、アナスタシア、一週間お世話になるよ」

「パレード、とても楽しみだわ! それに、話に聞いてた通り本当に凄い数の精霊ね。驚いちゃった」


 そう。今回王女殿下が自ら是非にと希望してここまで来られたのは、パレードの為以外にも、沢山の精霊がいるハミルトン伯爵領を見てみたかったかららしい。


『アナ様、ユージーン様、わらわもお世話になります』


 相変わらず礼儀正しいリアちゃんは、この前の晩餐の時に見たのとはまた別の服を着ていた。


 やっぱり精霊も服を着れるんだ!


 この事も後で是非カーミラ王女殿下に聞いてみよう。

 国家機密に触れない内容ならば、だけど。


 フォスやクンツやカイヤにも服を作ってあげられるなら、きっと凄く可愛くなると思うんだ!

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