第94話 精霊の洋服作りと、一方その頃の男子トーク

「それはまた……効きそうですね……」


 何となくだけどあの王太子、金髪にこだわりありそうだったもんなー。


 私の髪もやたら見てたし。


『君のその黄金の髪は本当に美しいね。私と並んだら対の人形の様に映えると思わないかい?』とか気持ち悪いことのたまっちゃってたし。


 元王太子殿下のあのいやらしい粘着質な視線を思い出して、思わずブルッと身震いをする。


「凄かったわよー? 『美しい私の髪が! 髪がーー!!』とか絶叫しちゃって。幽閉もなにも自分から引き篭もっちゃったから、あれはもう表舞台はもちろんのこと、人前には出てこないわね!」

「しかしまた、毛根死滅とは凄いですね。何か特殊な毒物とか? あ、呪いの魔道具とかですか?」

「そんなの使わないわよー。これはね、リアの得意技なの」


 おう、リアちゃん!

 こんなに可愛らしいのに随分エゲツない技をお持ちですな。グッジョブです。


「光魔法の応用みたいよ? 凄いわよね、こんな微細な魔力制御、人間には絶対無理だわ。アウストブルクうちの凄腕の宮廷魔導士でも、こんな事しようとしたら頭ごとボンッていっちゃうって」


 アウストブルクでは魔法研究も進んでるって聞いた事があるけれど、そんな国の宮廷魔導士でもそうなのか……。


 精霊恐るべし!


『凄ーいリア! 僕たちにも教えてー』

『いいけど貴方達、光魔法は使えますの?』

『知らなーい、ピカピカなら出来るよ!』

『うーん……まず契約精霊としての基礎から教えて差し上げますわ。3人とも、お外へ参りましょう』


『『『はーい!』』』


 え? うちの子達にもそんな事できるの?

 い、イタズラには使わないでねー!?


 仲良くふよふよ飛んでいく4人の精霊を見送っていると、ふと洋服について聞こうと思っていた事を思い出す。


「カーミラ王女殿下、以前から気になっていたのですが、精霊も洋服は着れるものなのですか?」

「ええ、いくつか注意点もあるけれど着れるわよ」


 着れるんだ! それは是非詳しくお伺いしたい。


「詳しく教えて頂く事は出来ますか? 私も私の精霊達に服を作ってあげたいのです」

「そうね、加護付きとか特別な衣服となると少し機密事項が混ざっちゃうから教えられないけど、普通のお洋服に関してなら大丈夫よ!」


 加護付き……! 何とも惹かれる響きだが、機密事項に触れる訳にはいかないからなー。残念だ。


 とりあえずカーミラ王女殿下から普通の服について教えて貰う。


 精霊は、服を着れると言っても何でも着れる訳ではなく、自分と魔力の波長が合う物しか身に付けられないらしい。


 普通に服を着せたら服だけふよふよ飛んでる様に見えちゃわないかとか心配したけど、そもそも着れないのか。


 魔力の波長が合えば服も精霊の魔力と同化して周りから見えなくなるんだそうだ。


「手っ取り早く言うと、アナが縫った服ならあの3人は着れるはずよ。手作りの物には大なり小なり作り手の魔力が宿る物なの」


 そうなのか! 私は貴族女性の嗜みである刺繍は残念ながらそこまで上手くは無いのだが、平民時代に繕い物をよくしていたので、縫うのは得意だ。


 精霊の服は小さいし、今から急げばパレードの時にあの子達にも可愛い服を着せてあげられるかも!


「ありがとうございます、王女殿下。私、早速あの子達の服を作ります!」

「もしかして、パレードに間に合わせたい感じ?」


 おお、王女殿下鋭い。


「そうですね。もし間に合えばですが、折角のパレードなので素敵なお洋服を着せてあげたいのです」


 みんなには精霊は見えないけれど、陰の功労者である精霊トリオを労いたい気持ちは大きい。


「やっぱりそうなのね! じゃあいい考えがあるわよ? ねぇハミルトン伯爵、今晩アナを貸してくれないかしら? ゲストハウスでお泊まり会をして、一緒に精霊のお洋服作りをするの」


 え、楽しそう! 


 お泊まり会とかやった事なさ過ぎてワクワクする。

 なんせ私、友達いないもんで。


 旦那様からの許可も出た私は、その日の夜、大量の布やらレースやらの裁縫道具とともに沢山のオヤツも抱えて、ウキウキとカーミラ王女殿下の部屋へ向かったのだった。




 一方その頃、ユージーンとアレクサンダーもまた隣の部屋でワインを片手に男子トーク? を始めていた。


「はぁー、ジーンはいいなぁ。すっかりアナスタシアとは仲良くやっているみたいだね」

「ええ、相思相愛です。アレクサンダー殿も一緒に伯爵領まで来られる位ですから、カーミラ王女殿下とは順調なのでしょう?」

「……だと、いいんだけど」


 はぁー、と溜息を吐くアレクサンダー。


 これはカーミラ王女殿下を口説くのに難航しているのか? と思いながら、ユージーンはアレクサンダーのグラスにワインを足す。


「実は、結婚して欲しいとはもう何回も言ってるんだ。でも、『その言葉からアレクの気持ちは伝わらないわ』って、ダメ出しされちゃってさ」


 うんうんと頷きながらも、首を捻るユージーン。


「私なりにその、態度にもきちんと出しているつもりなんだけど、それじゃ足りないのかな」


 側から見ていても、どう見てもカーミラ王女殿下はアレクサンダーの事を好いている様に見えるのだが、一体何が足りないのだろうか。


「態度には出している。結婚して欲しいとは言っている。……もしやアレクサンダー殿、はっきり自分の気持ちを伝えていないのでは?」

「いや、だから結婚して欲しいって言ってるんだけど……。

もしかしてそれじゃダメなのかな?」


「何故結婚したいのか、の気持ちの部分を言葉にしていないのでしょう」


 実はつい最近、ユージーンも同じ様なミスを犯したばかりだ。


「そういう事かぁぁ……!」


 そう言うと、アレクサンダーはグラスのワインをグイッと飲み干し、テーブルに突っ伏す。


「……だってさ、一生言っちゃいけない事だと思ってたんだよ。カーミラ王女殿下を、好きだなんてさ」


 それはそうだろう。何せカーミラ王女殿下は、自国の王太子の婚約者だったのだから。


「今は、もう言っていいんですよ」

「……そっか、そうだよね。……ありがとう、ジーン」


 ここ最近の怒涛の様な展開に、実は一番疲れているのかもしれないアレクサンダーが机に突っ伏したまま寝てしまったのを見て、ユージーンは立ち上がる。


 後の事は、アレクサンダーの侍従に任せるべきだろう。



「頑張れよ、アレク」



 久しぶりに呼ぶ幼馴染の愛称に、少し照れ臭そうにしてユージーンは部屋から出て行った。




 アウストブルクのカーミラ王女殿下と筆頭公爵家の若き当主アレクサンダーの婚約内定の報がフェアランブル国内を駆け巡るのは、この2週間後の事だった。

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