第42話 精霊に愛されし国 フェイヤーム

 

「ところで、私が精霊が見える様になった訳は分かったが、何故アナは生まれつき精霊が見えるのだ? 体質か遺伝か何かか?」


 旦那様が不思議そうに首を傾げる。

 そう、実は私もそれは聞いてみたかった。


『ええっアナそれも知らなかったの!?』

『アナがターニャのこどもだからだよ』

『ターニャはカロリーナのこどもだからだよね』


 ……遺伝?


「アナ、そのターニャとかカロリーナとかいうのは?」

「あ、ターニャは私の母です。本名はタチアナですが、町ではターニャと名乗ってました。カロリーナは私も初耳ですが、話の流れからすると私の祖母……ですかね?」

「……」


 旦那様は、何だか難しい顔をして考え込んでいる。


「それは、アナスタシアが特別な血筋だという事か?」


 中々に切り込んだ質問をする旦那様にドキリとしたが、精霊達はそんなものはどこ吹く風で、相変わらず飄々としている。


『うーん、いっぱい話してつかれちゃった!』

『ひめ様の事話すと、王様に怒られちゃうしねー』

『こんど精霊王様に、アナになら話していいのか聞いてみようよ!』


 それがいい、それがいいねー、そうしよう! と精霊達は自分達だけでキャッキャと盛り上がり、


『それじゃ、まったねー。クッキーありがとー!』


と言ってパタパタ飛んで行ってしまった。


 飛んで行ってしまった、のだが……、一つ凄く気になる事を言ってなかった??


 姫様って何だ。姫様って。

 精霊王がいる位だから、精霊のお姫様って事?

 それとも、精霊と仲が良い人間のお姫様がいたとか?

 

 確かに昔、あまりにも人と何かが違うお母さんに対して『実はどこかの王女様でしたー、とか言われても信じそう』なんて思っていたけど、まさか精霊のお姫様でしたとか無いよね? ……無いよね!??


 自分の母親のあまりのポテンシャルの高さに頭をクラクラさせていると、旦那様と目があった。


「……大丈夫か?」

「は、はい。ちょっと私も、初めて知る事や聞く事が多くて」

「アナはあまり、自分の事について両親に尋ねたりはしなかったのか?」

「そうですね、あまり聞かなかったです」


 答えた後に、自分がまだ幼かった頃の事を思い出す。



『どうしてアナにはおじいちゃんやおばあちゃんがいないの?』

『どうしてアナには精霊さんが見えるの?』

『どうしてアナはいつもペンダントしてないといけないの?』


 そう聞くと、お父さんはいつも困った様な笑顔を私に向けた。だから、子供ながらにそれは聞いちゃいけない事なんだと思う様になった。

 ちなみにお母さんは


『うふふ、な・い・しょ!』


としか言わないので全てを諦めた。



「私が自分の出自について尋ねると、父がいつも困った顔をしていたんです。子供ながらに父を困らせたくなくて、いつの間にか聞かない事が当たり前になってました。今考えるともっと聞いておくべきでしたよね……」


 まさかこんなに謎と秘密がてんこ盛りだとは思ってもみなかった。


「いや、子供というのは存外親の顔色を良く見ている物だからな。親が困ると思えば言えないし、聞けないだろう。……私にも少し覚えがある」


 旦那様にも色々あったのだろうな、と思う。20歳の若さで伯爵家を継ぐなど、通常起こりうる事態ではない。


 ご両親の仲もあまり良いとは言えない……というか、旦那様のお父様は女癖が悪い方だったらしい。


 私の耳にもうっかり入ってくる位だ。詳しくは知らないが、恐らく相当な物だったのだろう。


 しばらく2人無言でお茶を飲む。


 精霊達もいなくなった寝室は静かで落ち着かないな、と思っていると、旦那様の方から話をきりだしてくれた。


「今日時間をとってもらった要件は2つあってだな。1つはあの光の事についてだったのだが、それについては理解した。後もう一つの要件は、アナのそのペンダントを見せて欲しかったのだ」

「このペンダント、ですか?」

「ああ、この前少し見せてもらってから自分でも少し調べたのだが、さっきの精霊の話も気になってな」


 さっきの精霊の話と、このペンダントがどう繋がるのだろうか?


「あの時は、あまり見た事のない物だから新種の魔道具かとも思ったのだが……むしろそれは、とても古い物ではないか?」

「そう、ですね。古い物だとは思いますが、これもどういった由来の物なのかは知らないのです。ただ、母から渡されただけで……」


 私、ほんとに何も知らないな。


 何だか自分が情けなくなって来て、自然と眉が下がってしまう。


「アナは、『フェイヤーム』という国を知っているか?」

「? いえ、初めて耳にしました」

「そうか。フェイヤームというのは、実在したかどうかも定かでは無い、伝承上にだけその存在が残っている国だ。別名を『精霊に愛されし国』という」

「!!」


思わずハッとして、旦那様の顔を見た。

旦那様も、とても真剣な顔をして私を見つめている。



「もしかしてアナの母君は、そのフェイヤームの関係者なのではないか……?」

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