第13話 対決!クリスティーナ⑴
扉を開けてくれたセバスチャンの後ろに付いて応接室へと入ると、向かい側のソファーにクリスティーナが座っていた。
目を見開いて私を見ているその表情には、驚きと憎しみの様な物が混ざっているのがすぐに見て取れる。
驚きでつい素が出てしまったのだろう。
普段外面を取り繕うのが劇的に上手いクリスティーナが、セバスチャンやミシェルが居るのに悔しげに私を睨み付けて来た。
「お久しぶりですね、フェアファンビル公爵令嬢。本日は突然の事で驚きました。一体どういった御用向きですか?」
こちらは敢えて余裕たっぷりに笑顔でクリスティーナに挨拶をする。
ハッとして我に返ったクリスティーナはいつもの外面用の可憐な笑顔を浮かべて言った。
「突然ごめんなさい、お姉様。どうしてもお姉様にお会いしたくなってしまったの。フェアファンビル公爵令嬢だなんて余所余所しい呼び方しないで? 嫁がれてもお姉様は私のお姉様よ?」
よくもまぁこれだけ取り繕えるものだと毎度感心するが、これが生粋の貴族令嬢というものなのだろう。
「お手紙も何度も出したのよ? お茶会のお誘いもしたのだけれど、全て断られてしまって……」
ショボン、という効果音が聞こえそうな程肩を落として話すクリスティーナ。
ここだけ見れば完全に『姉を慕う妹と冷たい義姉』の構図が出来上がりだ。
「ごめんなさいね、私はまだ貴族の社交に慣れていないから旦那様が心配して下さっているの。特定の方だけとお会いする訳にもいかないから、皆様のお誘いをご遠慮させて頂いてるのよ?」
私は私で外面用の奥様モードを貼り付けて応戦する。
ちなみにこれは本当の話で、私に来たお茶会のお誘いは全て丁寧なお断り状を書いて辞退させて頂いている。
……ミシェルが。
一見和やかな会話に見えるかもしれないが、今このテーブルでは手に汗握る攻防戦が繰り広げられていると言っても過言ではない。
お互いの腹の探り合いだ。
「まぁ! ユージーン様はお姉様を大切にして下さっているのね。良かったわ。ほら、ユージーン様には公爵家の都合で無理を聞いて頂いたでしょう? お気持ちを心配していたの」
うんうん、
『旦那様的には結婚相手が私でさぞかし不服だったでしょう? 大丈夫だった?(ニヤニヤ)』
て事ですね、分かります。
まぁ実際かなり不服そうだったよ! 初夜なんか特にな!!
「旦那様にはとても良くして頂いているわ」
「でもぉ、新婚なのに毎日出掛けていらっしゃるんでしょう? 私心配で……」
「うふふ、旦那様はお忙しい方だから。でも、そんなにお忙しいのに御夕食はいつも私ととって下さるのよ? それで十分だわ」
うん、嘘は言ってない。
クリスティーナの口元がちょっとヒクッとしているわ。もう少し揺さぶったら被った猫が逃げてくかもなー。
「ほら、顔色も良くなったでしょう? 嫁ぐ前は色々不安な事や婚礼の準備の忙しさもあったから……。今は伯爵家の皆に良くして貰って、本当に毎日幸せなのよ?」
ヒクヒクッとクリスティーナの顔が引き攣っていく。この子、ほんとに私の幸せ話嫌いだな。
「恥ずかしい話、少し太ってしまった位なの(公爵家で過ごした2年間でギスギスに痩せちゃってたからね!)。私が今幸せに過ごせているのも、旦那様との縁を結んてくれたクリスティーナのお陰よ。ありがとう」
そう言ってニーッコリと微笑むと、クリスティーナがバンッと机を叩いて立ち上がった。
「……お姉様、実は家の事でご相談があって今日は来たの。
……人払いをお願い出来る?」
しまった。やり過ぎたか?
正面切って人払いを要求されるとは思わなかった。
「まぁ、私なんかに何のご相談を? ここにいるのは信用出来る者だけだから、私なんかに話せる様な内容ならば聞かれても問題無いと思うわ?」
暗に、私に話せる事ならここで話せ、とクリスティーナに促すが
「ごく個人的な相談なのです……。しかも公爵家の内情にも関わる事なので、人前では……ちょっと……」
「まぁ、でも私も既に伯爵家の人間だもの。そんな公爵家の事情に踏み込んだお話を聞く訳にはいかないわ」
「そんな……お姉様はお姉様なのに……酷いです」
ウルウルと目を潤ませるクリスティーナ。これをやられると、いつも問答無用で私が悪者になるんだよねー。
セバスチャンとミシェルもどうしていいか困ってるみたいだし、仕方ない。
「……分かったわ。セバスチャン、ミシェル、少しの間下がって頂戴」
「「かしこまりました」」
そうして2人はサッと頭を下げると応接室から出ていった。部屋を出て行く際にセバスチャンが心配そうにこちらを見てくれていたけど……公爵家とのゴタゴタに伯爵家の使用人を巻き込む訳にはいかない。
さて、ついにクリスティーナと2人っきりになっちゃったけど、大丈夫かなこれ?
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