第7話 伯爵家の使用人⑵

 私が美味しいお茶を飲んで寛ぎながら待っていると、トントントントン、とドアが4回ノックされた。


「どうぞ」


 奥様モードで入室を許可すると、セバスチャンを先頭にぞろぞろと使用人達が入って来る。


 ……多い。


「下働きの者達も含めるとこれで全員ではございませんが、主だった者達は連れて参りました。これだけの人数を一度にご紹介する訳にも参りませんので、まずは奥様と直接関わる機会の多い者から紹介させて頂きます」


 セバスチャンがそう言うと、ずらっと並んだ使用人達の中から数人がスッと一歩前に出た。


「右から順番に侍女長のミシェル、侍女のダリア、アイリス、デズリーでございます」


 名前を呼ばれたであろう女性達が、順番に頭を下げて行く。


「その隣がコック長のハリスとメイド頭のオードリーでございます」


 先程紹介された侍女達の隣にいた恰幅のいい調理服の男性と、この中では一番年長と思われる女性が頭を下げる。


「後の者達は、家の中を整えるメイドや御者に庭師等です。直接奥様と顔を合わせる機会もあるかと思いますので連れて参りました」


 セバスチャンが後ろに控えた使用人について説明すると、ずらっと並んだ使用人達が一斉に頭を深く下げた。


「他にも調理場や洗濯場での下働きや厩番等がおりますが、直接奥様のお顔を見させて頂く様な事はございませんので、この者達の顔だけ覚えて頂ければ十分でございます」

「そうなのね、ありがとう。皆さんもよろしくね」


 私は顔面上は如何にもお貴族様風な微笑みを浮かべながら、ガッツリと使用人達を見定めさせて貰った。


 初対面時に得られる情報というのは、あながち捨てた物では無い。


 例えばメイド頭のオードリーさん。あれは要注意だ。

 表面上はにこやかだが、目が笑っていない。表面上の取り繕い方の上手さから見ると恐らく王都暮らしの貴族の出。けれども詰めの甘さからして下級貴族の次女以下と見た!!


 うん、後で誰かに聞いてコッソリ答え合わせをしてみようっと。


 侍女長を始めとする侍女達は、みんな表情が読みにくい。恐らくこれまた貴族の出だろう。


 まぁ、これだけ裕福な伯爵家の侍女ともなれば平民がなれる物でもないので、当然といえば当然か……。


 一方後ろの列に並んでいる使用人達からはかなりの緊張を感じる。まだ慣れていない行儀見習いの下級貴族の子女もいるけど、大半は上位層の平民って所かな?


 マリーの様に分かりやすく好意的な人間もいないが、あからさまに私を見下したり敵意を見せたりする人間がいない事に胸を撫で下ろす。


 ムダな争い事はしたくないからね、平和が一番!


「本来であれば家令のマーカスもご挨拶させて頂くべき所なのですが、生憎と本日は旦那様の外出の付き添いをしております。その後、急ぎ領地に戻らなければならないとの事ですので、奥様にくれぐれも宜しくと申しておりました」

「そう。構わないわ」


 マーカス……さっき旦那様の話に出て来た、お仕事丸投げ疑惑の家令か。

 この人も要注意だな。


「それでは、皆は仕事に戻る様に」


 セバスチャンが言うと、使用人達は来た時と同じ様にぞろぞろと退室して行った。


 うん、名前が聞けた人達に関しては顔と名前は一致させたわ。他の使用人達についても、後々顔と名前を一致させていこう。


 セバスチャンはそこまで必要ないという口ぶりだったけれど、私は出来れば邸で働いている使用人は全員把握しておきたい。


「奥様、この後はいかが致しますか?」

「そうね、旦那様からそうしていいと言われているし、お邸の中を案内して貰えるかしら?」

「かしこまりました。それでは早速ご案内致します」


 よっしゃー! 伯爵邸探検だ!


 この家、珍しい物や高価な物、最新鋭の魔道具何かがゴロゴロありそうだから是非色々と見て回りたかったのだ。


 私は先導してくれるセバスチャンについて、ウキウキと部屋を出たのであった。

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