第一話⑦
「馬車で送ろう」
【サロン・ド・モニカ】を出るとレオラートがリルの背に声をかけた。しかし、リルは首を横に
「いえ、乗り合いの荷車がありますので」
「荷車? 女性ひとりで?」
レオラートは
「来るときも荷車で来ましたし、平気ですよ」
リルがあっけらかんと話すと、レオラートはリルの姿を改めて見つめた。黒い
そのリルが足をとめて、じっと通りを眺めている。さきほどまでの雨が
「建国祭の準備だろう。街を
大工たちが作った木製アーチに白のペンキが
「初代国王は白薔薇を愛したと言われている。ああやって白く
「お
「建国史はアカデミーで
リルはレオラートの言葉を聞きながら、ペンキが塗られるアーチを見ていた。
──「白薔薇を愛した初代国王」と「初代王妃をあらわす赤い薔薇」。
リルが遠目に眺めていると、
「それで君は? 花売りにでもなりたいのか?」
リルの
「白薔薇を売りに来るなんて……魔女への依頼は少ないのか?」
レオラートの問いかけに、リルは押し
「わたし、
大きな
「ですから、領……いえ、あなたの依頼もお受けすることはできません」
ごめんなさい、とリルはレオラートの方に向きなおし、
「お菓子やパンはとてもおいしかったし、レモネードも初めて飲みました。でも、わたしではあなたの願いを
これはお返しします、とリルはさきほどシドウから
険しい表情を
──魔力が弱いというならば、なぜ、雨が降りつづく?
反射的に思ったが、レオラートは自制するように息をひとつ
翌日──
郊外のあばら家でリルは薬草の調合をしている。
庭で白薔薇とは別に育てているカモミールやペパーミント、セージなどを
「リルちゃんの薬草
「アンさん、いつもありがとうございます。今日は娘さんの薬湯はいりませんか?」
「ああ、それ! リルちゃんの薬湯を飲むとぐっすり
「じゃ、いまある五包分、持って帰ります?」
「そんなにはお金がないの。パンとたまごだけじゃ申し訳ないし」
「つぎに来たときでかまいませんよ」
「本当? 秋には畑で
近くに住む農家の婦人アンが
「それにしても、今日は朝から雨が降らなくていいね~」
今年ぐらい降ると
「じゃあ、またね!」と
アンが扉を開けてすぐ──庭先に男が立っていた。「わ! びっくりした」とアンが目を丸くさせると、上品な身なりをした男は「これはマダム、
「失礼する」
そのアンに入れ
「今日もなにか
レオラートはその様子を目に映しながら、
「花売り以外にも
「生活をしていかないといけないので、それなりには」
アンにもらったパンとたまごが入ったバスケットを
「昨日の【サロン・ド・モニカ】でマドレーヌを買ってきた」
ハーブが置かれたままのテーブルに紙袋をのせた。「焼きたてを買ってきたから、馬車のなかが甘い
「きょ、今日のご用件は……?」
「
「い、いえ、昨日もご
口では断りの弁を唱えながらも、目は紙袋から外せない。く、と
「君が食べないなら、私とザシャで食べてしまうが?」
「た、食べないとは言っていません!」
リルは胸に抱えたバスケットを隣にあるキッチンへ置きに走り、
「レモネードは? これも【サロン・ド・モニカ】で買ってきた」
レオラートのうしろに
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