第一話③
シュッとマッチを
テーブルのうえの
「ご用件は? ……とは言っても、最近はほとんどお断りしているのですが」
外で『アレクシア』と名乗った女は、部屋の入り口に立ったレオラートとザシャをふり返る。
金色の髪が背中のなかほどまで伸ばされていて、
前髪の奥の
レオラートは灰色の眼で女を
「私の名はレオラート。《雨の魔女アレクシア》にこちらのネックレスの
ジャケットの内ポケットから
「持ち主は私の姉エレノア。──三年前に
レオラートの声は
「姉にこのネックレスを贈った主を捜したい」
レオラートが言葉をつづけると、一度はネックレスに視線を向けた《雨の
「わたしには捜すことはできません。お引き取りを」
「なぜ?」
「なぜと言われても。失礼ですが、『灰公爵様』──いえ、エクター公でいらっしゃいますよね」
「……ああ」
レオラートはちらりと目だけで女を見た。名は名乗ったものの、今日は自身の身分を明かす物をなにひとつ身につけていない。黒のシンプルなジャケットに雨よけのレインコート。タイはしていないし、
女はレオラートの視線に気づいているのかいないのか、
「名のある公爵様が魔女に
「笑われたところで、なにが減るわけでもない」
レオラートは
「エクター公の名声でもってすれば、それこそ王都中を捜せますよね?」
「それはしたくないから、ここに来ている」
もっともな言い分だった。
「……
一段と声を低くした。「お、おい、ここまでいらっしゃった閣下に失礼だろ!」と、うしろに
「では、どうすれば引き受けてもらえる?」
「……」
レオラートからのまっすぐな問いかけに女は
彼女の背面に目をやれば、一枚の絵画が
──王家に対する忠誠心はまだあるとみていいのか。
レオラートが視線を女に
「……とにかくお引き取りを。あなたからの依頼はお受けできません」
「どうしてもか?」
「ええ」
レオラートはしばらく女を
「か、閣下! あれが魔女ですか!? ただの無礼な女じゃないですかっ」
「……」
「閣下の頼みを断るだなんて、あの女、まったくなにを考えてるんだっ。きっと
ねぇ閣下もそう思いませんか! とザシャがひとしきり悪態をついたところで、「《雨の魔女アレクシア》は
馬車での帰り道、朝から降りつづいた雨は
レインコートを
「魔女の力は一代限り。遺伝はしないそうだ」
窓の外の景色を見ながら、つと、口を開く。
「遺伝はしない? それじゃあ代替わりってどういう……」
「どこかで生まれた赤子が女で、
淡々とした様子で言葉をつづけたレオラートに、ザシャは首をひねった。「ってことは、あの女……」
「《雨の魔女アレクシア》を
レオラートは
──この天候不順は《雨の魔女》たる彼女の
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