106 魔法青年は待機する
興味を持ったヴェヒターたちに、五行を元にした魔法の相関関係を教えた。水は火に強く、火は木に強く、木は土に強く、土は風に強く、風は水に強い。地面に五芒星を描いて見せると、彼らは面白そうに見入っていた。
もちろん魔法に込める魔力量も関わるが、傾向として風は水に強く、土に弱い。威力が同じくらいの魔法なら、土魔法が一番効くのだ。
「なんと、そのような関係が……。わかった、ほかの魔法を使える者には土魔法を習得させよう。土魔法を使える者は、そのまま腕を磨くべきか?」
そう聞かれて、コーディは少し考えた。
「そうですね、同じように魔力を纏う練習をするだけでも、魔法の威力は上がるはずです。ほかの属性も使えれば便利ですが、今回は急ぐので土魔法の習熟度を上げる方をおすすめします。それから、もしもリーベルタスと対峙することになった場合、火魔法だけは避けてください」
「あいわかった。しかし、火魔法か?相関関係はないようだが」
「隣り合う関係の属性は、お互いに増幅し合うか抑制し合うのです。まぁ、火は扇ぐと大きくなりますので」
「……危険だな。火魔法だけはやめさせる」
「お願いします」
次の日、ヴェヒターの戦士たちとの訓練中に、手紙の通知を受け取った。霊峰で調査しているときには夢中になりすぎて気づかなかったので、通知方法の改良が必要かもしれない。
コーディは、鞄から出した風を装って手紙と転移石を取り出した。
「それは?」
「師匠からの手紙です。この赤い石は、対になった石同士で手紙を転送できます。霊峰にあった魔法陣を書き写して知らせたので、その結果かもしれません」
そう言ったコーディは、長に断って手紙を開いた。
はたして、一枚目の内容は魔法陣と石碑のことであった。岩で押さえつけるもの以外は、強制睡眠などほかの魔法陣と似たような内容だったという。
コーディが読み取ったのと同じだと考えながら二枚目の手紙を読み、思わずため息をついてしまった。
「なるほど、体を鍛えるのも良いのか」
「ただ鍛えるのではなくて、魔法を使う直前のような状態を意識するんです」
「む……しまった」
「なかなか難しいが、できそうだな」
コーディは、この場に残っていた戦士たちに魔法の手ほどきをしていた。一人はそのまま魔法を発現してしまったようだが、それでも一瞬は魔力だけを纏うことを成功させていた。
やはり訓練を重ねた上に実践的に使っているからか、理解が早いし習得も早そうだ。
上位3名も残っていて、やはり彼らが一歩抜きん出ている。いつ封印が解けるかわからないので、最大戦力はこの場に残しておいたようだ。
「おぉ!できたぞ」
最初に安定して魔力を纏えたのは、ウドだった。彼はヤンよりも魔力の器が大きく、土魔法が得意なのでそれをより高める方向で鍛えている。
土塊を飛ばせばほぼ百発百中だという。そこで、コーディは飛行する魔獣の羽に土塊をくっつける方法を教えた。
それだけでは飛べるのではないかと聞かれたが、基本的に飛行型の魔獣といえど自力で飛ぶ。魔法で飛ぶのは非効率なのだ。
飛行には軽さと絶妙なバランスが必要になる。つまり、片羽ではろくに飛べない。
羽を使えなくして落ちてきたところを地上戦が得意な戦士が仕留めれば、どちらも消耗が抑えられて効率的である。
風魔法を使えるヤンには、風魔法を使って自分の前に障壁を作って強風を遮る方法を教えてみた。彼は意外にも、ほかの属性を使うのがあまりうまくなかった。
もっと時間があれば訓練して身につけられるだろうし、そうすればさらにレベルアップできるだろう。しかし、今は時間がない。
ついでに、飛行魔法も教えてみた。こちらは使えれば便利なのだが、魔力消費量が多いので実践に使えるかは別である。
数日かけて色々と教える中で、戦士たちと親しくなっていった。
「しかしコーディ、急がなくていいのか?まだ霊峰のような場所があるんだろう?」
夜、食事を摂りながらヴィリが聞いた。彼はこれまで魔法をほとんど使ってこなかったようだが、体を鍛えていたおかげか覚えてからは早かった。
「あぁ。それが、師匠から連絡があって。次の場所へ行くのに少し待たなくてはいけないんだ」
「神聖な場所だから、許可がいるのか?」
ウドが肉を飲み下して聞いた。ザシャは、ほかの一族の所へ伝言を持っていったのでこの場にはいない。
「神聖だからというだけじゃなさそう、かな。その場所がロスシルディアナ帝国にあるから、魔塔にいる帝国出身の研究者の人を通じて訪問と研究の許可を願い出たんだ。そしたら、色々手続きが必要になって。準備があるし、もう少ししたら一度魔塔に戻るよ」
「大きな国は色々と手続きだのなんだの、時間がかかるようだな」
頷きながら言ったヤンは、今日になって少しだけ風魔法で浮くことができた。あとは、それぞれの研鑽だけで十分強くなっていけるだろう。
ヴェヒターのテント群は、最初に見たときから半分ほどに減っていた。あまり戦えない人たちは、ここから離れた別の一族の所へ身を寄せるために移動した。ほかの一族に知らせに行ったザシャのような人たちは、さすがにまだ帰ってきていない。
全員にお礼を言えなかったのは残念だが、そろそろ戻って準備をするべきだ。
「長、どうかこれを」
「これは……手紙の?良いのか?」
コーディは、作っておいた手紙転移の石を一つ渡した。
「はい。僕は呼ばれればすぐに来ます。もし、霊峰に何かあったら知らせてください。それ以外に、何もなくてもぜひ手紙をください。僕も出します」
「そうか、わかった。しかし、これでは貰いすぎだ。何か礼をせねば」
「僕はかまわないんですが……そうですね、この辺りの魔獣は魔塔としては珍しいので、素材をいくつか分けてもらえませんか?」
そうして、コーディはアップドラフトホークの羽やソイルディアの皮を受け取った。
ヤンたちと固く握手を交わし、コーディはゲビルゲを後にした。
目指すは、久々の魔塔だ。
ハイブリダ大公と評議委員たちの前に立たされたコントレーラス伯爵は、顔面を蒼白にしながらもぎりぎり両足を突っ張っていた。
「この契約は現行のものだな。そして、こちらが国に提出されていた収支報告書。では、その差額はどこへいったのかね?そういえば、領地の屋敷を
証拠を揃えて言い訳もできない状況に追い詰められた伯爵は、黙秘もできず質問に答えることしかできなかった。
その場には、ロスシルディアナ帝国の大臣という人物も同席していた。どうやら、輸入元について改めて確認したところ不審点が見つかり、今回の発覚につながったのだという。
ハイブリダ大公国と比べ物にならない大陸最大国の大臣だ。大公や評議委員たちの表情がぎこちないのも仕方がない。万が一、帝国が本気で大公国を取りにくれば短期間で帝国の飛び地ができあがることだろう。
それほどに、戦力差がある。
立たされたまま、契約が古いままであった理由、使い込みの理由などを根掘り葉掘り聞かれて記録された。契約のあり方も販売価格も、すべて父から引き継いできただけなので、理由を言えないことも多く、失笑をかうことになった。
そして処罰が言い渡され、伯爵領と爵位は一旦大公預かりとして身分が取り上げられることになった。伯爵家の親族は財産を没収して平民として放逐。伯爵本人と、不正に直接関わった部下たちは一般牢へ収監し、強制労働罰を下すこともついでのように告げられた。
次に大公国とゲビルゲ間の契約のやり直しを検討する段階で、帝国の大臣が前に出てきた。こちらの契約に立ち合うだけにとどまらず、一部取引項目についてはゲビルゲ側の希望に応じて、大公国を介さず直接契約するという。
もちろん、それはあまりのことだと大公は抗議しようとした。しかし帝国の大臣に、自国内のことに何十年も気づかず利益を享受してきたことを当てこすられて何も言えなくなった。さらにゲビルゲの一族はそれぞれが非常に戦闘力に優れた者たちなので、「今回のことを説明するときに、力を持つ帝国が間に入った方が安全だろう」と説得されてしまっていた。
コントレーラス元伯爵は、調停者という皮を被った
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