27 魔法少年は追い詰める
ギルド職員の男性は、ブレットと名乗った。
「私は王都にある冒険者ギルドの副支部長です」
「来ていただいてありがとうございます。今回は、僕の冒険者としての成果について、忌憚のない意見をお話いただけますか?」
ブレットはゆっくりとうなずいた。
話の内容をまとめると、ギルドへの所属試験は充分余裕のある実力で合格したこと、コンスタントに王都近くの森や南の森で魔獣を仕留めて素材を持って帰っていること、それから学園の出張所ではグラスタイガーを100体以上収めていることなどだ。
「グラスタイガーを2ヶ月あまりで100体倒せる実力者ですから、南の森での活躍も理解できますね。また、南の森へ行ける冒険者は一定以上の実力者ばかりです。たとえばどこかの高位貴族であろうと、普通は彼らを脅してどうこうすることはできません」
言いながら、ブレットはちらりとナッシュ公爵を見やった。つまらなさそうに聞いていたナッシュ公爵は、不快そうな表情を隠しもしなかった。
「では、次に冒険者の方ですね。彼らは南の森を中心に活動されています。一度森でお会いしたこともありますから、僕のこともご存知です」
「はっ!知り合いに証言を頼むなど、不正しているのと同義ではないか!」
ナッシュ公爵は、ダン!、と机を叩いてそう言った。それを見て、コーディは小さくため息をついた。
「そう言われるだろうと思いましたので、決闘の担当教師の方を呼んでいただくようお願いしています」
「は?」
コーディが頼むと、学園長がうなずいて別の扉を開けた。
そこには、以前オリオーダンとの決闘を担当した決闘立会の資格を持つ教師、マッケイがいた。
「一体何をするつもりだ」
ナッシュ公爵はイライラとひげを撫で付けながら言った。それを横目に、コーディはマッケイに向かって軽く頭を下げた。
「授業と関係ないことでお呼びして申し訳ありません。冒険者の方が嘘を言っていないかを判別するのにご協力願いたいと思いまして」
「はぁ。しかし私は、決闘の契約ならできるが、どうするつもりなんだ?」
マッケイは、決闘の契約を使うらしいことはわかったようだが、それ以上のことは理解できないようだった。
「別に、実際に決闘する必要はありません。チームごとの決闘もあるんですよね?」
「もちろん」
「では、片方はこちらの冒険者の3人をチームとしてください。もうおひと方は、契約を正しく行使していることが分かればいいので、理事の方のどなたかにお願いします。契約を行使した時点から、虚偽の証言ができなくなります。マッケイ先生も虚偽の証言ができなくなりますので、発言に間違いがないと言えますよね」
コーディがそう言うと、学園長のほか、理事の何人かもなるほどとうなずいた。
決闘の契約をわざわざこういった風に使うことはないようだが、理解してくれたようだ。それは、マッケイも同様だった。
「なるほど、わかった。決闘を途中で終わらせる権限も立会人にはあるから、証言が終われば私が契約を終わらせればいいというわけだな」
「はい、そうです。……では、理事の方のどなたかに」
「ここは私が対応するのが筋だろう」
ナッシュ公爵が椅子の背にもたれながら言った。
「決闘の契約魔法以外を使うことはないだろうが、確実にそうだと把握することは重要だ」
「では、ナッシュ公爵にお願いいたします」
コーディの言葉の後、マッケイはビルたち3人とナッシュ公爵を対戦させる形で決闘の契約を行使した。
「では、以降は虚偽の証言は認めない」
マッケイが宣言すると、ふわり、と魔力が動いたのがわかった。
「……ふん、間違いなく決闘の契約魔法だ」
「そのとおりです」
ナッシュ公爵の言葉をマッケイが肯定した。
すでに契約が行使されているので、この言葉も虚偽はないということだ。
「では、冒険者の方に証言をお願いします。内容は、コーディという冒険者が正しく冒険者として魔獣を討伐して金銭を得ていたのか、ほかの冒険者を貴族の権力を振りかざして脅して金銭を得ていたのか、ですね」
ビルもチャドもアルマも、困惑はあるようだが堂々とした態度である。
「冒険者が貴族に脅されたら、よっぽど後ろ暗いことでない限りギルドに駆け込めば保護してもらえます。コーディがそんなことをしているとは聞いたことがありません」
チャドが口火を切った。次にアルマがうなずいて言葉を続けた。
「えっと、そもそもコーディって貴族の当主じゃなくてただの子息ですよね?それなら、不当な要求なんかは冒険者の権限で普通にはねのけられます。南の森に行ける実力があるなら、自分で狩ってきた方がよっぽど稼げると思いますね」
ビルはアルマの言葉にうなずいた。
「それに、コーディはいろんな魔法をかなり高度に使えますし、実力は間違いありません。というか、実力が高すぎて荒稼ぎしてるくらいですね。そこらへんの冒険者よりよっぽど稼いでいますよ。脅し取っているとは思えない金額になると思います」
ナッシュ公爵はぎりり、と奥歯を鳴らした。
マッケイが彼らの言葉に虚偽がないと宣言したからだ。
「どうせ裏でわからないようにしていたに違いない!こちら側の証人もいるんだ、観念しろ!」
ナッシュ公爵はつばを飛ばしながら叫び、奥の扉を開けさせた。
「……ん?」
「これは、どういうことだ」
扉の向こうには、誰もいなかった。
「っぐ、な、なぜ?!あいつら……貴族に逆らうのか?!国無しのくせにっ」
国無し、とは冒険者の
「それは私が説明しましょう」
前へ出たのは副支部長のブレットだ。
「昨日のことです。ギルド所属のとあるパーティが助けを求めてきましてね。彼らはそれなりに実力のある冒険者で、トリフォーリアムの平民の方と家庭を持つメンバーもいるんですよ。聞けば、どこかの貴族にその家族の安全を人質に取られて嘘の証言を強要されていると言うではないですか。冒険者ギルドとしては見過ごせませんのでね、ご家族ごとギルドに保護しました」
「それがなんだというんだ!」
ブレットは、目を眇めてナッシュ公爵を見やった。
「虚偽と思える証言をしろという命令があり、大したことのない金銭の提示のほかに、『お前の家族を王都から追い出し、商売できないようにしてやってもいい』といった脅しがあったそうなんですよ。断ろうとしたものの、すでにご家族が経営されている店まで知られていて、どうしようもなかったとか。そうなさったんですよね、ナッシュ公爵?」
「はぁ?私がそれをしたというのか?!ばかばかしい!」
ナッシュ公爵は、つばを飛ばしながら大声で反論した。
「そんなことはしていないと?」
「していない!当たり前だろう!言いがかりもいい加減に――」
ナッシュ公爵が顔を真っ赤にして叫んだところで、マッケイが口を開いた。
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