26 魔法少年は準備済み

3学年も3ヶ月を過ぎ、就職組は早めに希望を出したり面接が始まったりしていた。


コーディは、まずは同時発動の方法をまとめて論文として発表した。魔法技術登録については、その論文を元にして手順をまとめ、申請する予定である。

とりあえずは、その論文がちょっとしたセンセーションを起こしているのを遠くから確認している段階だ。まだ学園生なので、研究所などから直接話がきたりはしていない。

体を鍛えることと魔力の器の大きさについてはまだ検証中である。実のところ、単に鍛えるだけではなく、瞑想や体術の研鑽、魔法の研鑽も関わっているようなので、気長に続けるしかない。


そんなある日、コーディは通知を一枚受け取った。

教師からの呼び出しだ。




指導室、と書かれた部屋に入ると、コルトハードともう一人別の教師がいた。

「失礼します。コーディ・タルコットです」

「あぁ、そこにかけてほしい。悪いことじゃないから、気楽にしてくれ」

コルトハードが着席をうながすので、コーディは会釈してから腰を下ろした。


「ここを利用するのは初めてだね?私は進路指導も担当しているポール・イーデン。馬術科の教師だ」

「はい」

「コルトハード先生はタルコットくんを推薦した教師として付き添いだ。実は、タルコットくんにスカウトの話がきていてね」

「スカウトですか?」

イーデンは、机の上に置いた紙をコーディの方へ向けた。


「卒業後の進路として、だね。青田買いみたいなもんだよ。ここに書いてある通り、以前数人まとめて少し話があったね?ただ、今回は事務官としてでも魔法使いとしてでも、ちゃんと指名したうえで君の希望を聞くと書いてある」

ざっと見た限り、イーデンの言う通りだ。


「ルウェリン公爵家からのお話は、お受けしないといけませんか?」

へにょりと眉を下げ、コーディは教師たちを見た。


「え?断るのか?」

イーデンは驚いたように聞き返した。

コルトハードは、何となくわかったのか、うんうんとうなずいて口を開いた。


「魔塔を目指すのか?」

その言葉に、コーディは笑みを向けた。

「魔塔はベストではあります。国の研究所か、魔塔か、とにかく魔法の研究をしていきたいんです。魔法使いとして使われるのではなく、魔法を使う側でありたいので」


「なるほど。公爵家に仕えるなら、使われる側になるのは確かだね。ただまぁ、向こうも急ぐわけではないようだから、当面は保留でもいいんじゃないかな?向こうからオファーがあった時点で、タルコットくんの要望を聞いてもらえる可能性が高いし」

にこやかにイーデンが言い、コルトハードも同意した。

「そうだな。研究の時間を持たせて欲しいとか、条件をつけることができるだろう。保留というか、キープしておいてもいいだろうな」


生徒の可能性をできるだけ広げておいてくれようとしているのを感じて、コーディはほっこりと嬉しくなった。


相談した結果、とりあえずは保留という形で、ルウェリン公爵家へは「まだ就職に関して考え中」という返事をしておくことになった。

これに関しては、間に人を挟んで伝えるだけでは失礼になるだろうと、コーディがきちんと直筆で手紙を書くことになった。元のコーディの知識には手紙に関することはなく、だからといってお手本通りの手紙を書くのも良くないかもしれない、とコーディは友人に相談した。

次期男爵のチェルシーが、色々と教えてくれたので非常に助かった。




そうして一息つけたと思ったときに、面倒が向こうからやってきた。


「……召喚状?」

一通の、穏やかとはいえない文書が届けられた。




◇◆◇◆◇◆




召喚の日時までには3日しかなかった。


呼び出されたのは、学園の中でも通常使われない部屋である。

理事たちが使う客室のような会議室に、現在所属する理事7人が席についていた。

そのほかに、学園長、3人の騎士、そして文官らしい人物が少し離れたところに座っていた。


「さて、呼び出したのはほかでもない、コーディ・タルコットくんの不適切な行いについてのことだ」

口火を切ったのは、ルーク・ナッシュ公爵その人である。

元は美丈夫だったのではないかと思える金髪に青い目の、二重顎をひげで隠したお金持ちそうなおじさんだ。

どこか困ったように眉を下げて見せているが、その目には嘲りが多分に含まれていた。


「前魔法歴史科の教師、オリオーダンの話では、少なくとも不正はないということだった。まぁ、たとえ不正があったとしても、結果を残しているのだからそこは不問で良いと思う。……汚いと思うかね?しかし、大人だからこそ結果を大切にするのだよ」

ナッシュ公爵は、鷹揚にうなずきながらコーディに向かって言った。どうやら、勝ったという結果を重視するから不正があったかどうかはどうでもいい、という言い方で、まるで不正が事実であったかのような言い草である。


コーディは、黙って続きを待った。


「嘆願書をいくつか受け取ってね。その内容に間違いがないか、学園内で調査してもらったのだよ」

ひらり、とナッシュ侯爵が数枚の紙を机の上に置いた。

「試験の不正――こちらは、カンニングが行われたという証言だ。まぁこれは注意で済む程度だ、これだけであればね。それから、こちらが本題の越権行為――これは、冒険者ギルドでの行為だな。貴族としての権力をふりかざし、平民のギルド員たちを従わせ、戦わずして金銭を巻き上げていたと書いてある。冒険者ギルドは国とは別の機関なのでね、そんなことをする貴族は国から排除しなくてはならないのだよ。当然、学園は退学となる」


ふぅ、とコーディはため息をついた。

「それから?」

「は?それから、とはなんだ。冒険者ギルドは、いわば他国と同等。そこへ圧力をかけて従わせていたとあれば、戦争になりかねないのだぞ」

「いえ、ほかにもあるのかと」

「ふてぶてしいやつだな!これだけで、充分売国奴だ!戦争のきっかけを作っているようなものだからな!」

ナッシュ公爵は、バン!と机を両手で叩いた。


それを冷めた目で見たコーディは、議長を担当しているらしい学園長に向かって言った。

「僕の方の証言を出してもいいですか?」

「あぁ、弁明の機会を与える」

ナッシュ公爵は忌々しそうに口を開こうとしたが、隣りに座る美丈夫にやんわりと止められていた。その男性が、いつか図書館で見かけたイケオジだと気づいたコーディだったが、それをおくびにも出さずに戸口の方へ向かって声をかけた。

「どうぞ!」


がちゃり、とドアを開けて入ってきたのは、防具を着けた3人組と、冒険者ギルドの制服を着た男性であった。

3人組は、ビルたちである。制服の男性は、ギルドに出入りしているときに何度か見かけたことのある職員だ。どういう内容で糾弾するのか、闇ギルドを使って調べておいたので、証人を準備しておいた。


「無関係の者を学園に入れるとは!」

ナッシュ侯爵が激昂したが、学園長は片手を上げてそれを止めた。

「彼らは?」

「現役の冒険者の方たちと、冒険者ギルドの職員の方です。僕は、冒険者として登録したギルド員ですので、ご協力願って来ていただきました」


それを聞いて鼻白んだナッシュ公爵を横目に、コーディは宣言した。

「冒険者の方、冒険者ギルドの職員の方は他国民と同様ですが、我が国としてはあくまで『来ていただいている』賓客と同等です。したがって、彼らに証言を強要することは先程ナッシュ侯爵がおっしゃった通り越権行為となります。たとえ冒険者登録している僕でも、それは同じことです」

ナッシュ公爵を除く理事達は、それは当然だとばかりにうなずいた。


コーディは、笑顔になった。

「では、それを踏まえて証言していただきますね。僕が名ばかり冒険者なのか、貴族という権力を用いて金銭を要求したのか」


ナッシュ公爵は、不快そうに眉をしかめた。

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