22 魔法少年は進級する
明日は入学式と進級式が行われる。
先週くらいから少しずつ生徒たちが寮に帰ってきていたが、今日中に全員が揃うだろう。
静かだった寮が、新入生も加えてにぎやかになっていく。
友人たちもほとんど戻ってきた。
このところ大人と魔獣ばかり相手にしていたので、なんとなく新鮮な気分だ。
コーディは、毎朝のトレーニングを終わらせて、自室でゆったりとあぐらをかいて瞑想を行っていた。
自分の魔力をたどって、奥へ。
すでに、この半年ほどの間に魔力の器は元のコーディの10倍近くになっていた。もっとも、器の大きさに関しては体感であって、計測したものではない。
少し前から、器の外側のようなものを感じていたのだが、その存在がはっきりと見えてきた。
「……」
ぼんやりとそれを感じていて、突然俯瞰したように切り替わり、そして理解した。
―― あの光の玉は魂。その大きさが、器の大きさに通ずるとな。
ゆっくりと息を吐き出したコーディは、瞑想の姿勢を解いた。
どうやら、魂の大きさが魔力の器の大きさと連動しているらしい。そのルールを決めた者が何なのかはわからないが、間違いはなさそうである。
それが事実だとすれば、魂が傷ついて欠けていた元のコーディは、魔力の器が割れており、本来よりも溜められる魔力が少なかったのだろう。
その元のコーディの魂を修復したのは、仙人の
あの不思議な場所には、魔法も仙術も存在しなかった。
魂の修復に使ったエネルギーは、鋼の魂の力だったのだ。
とはいえ、使ったものはあくまで魂の力であって、魂そのものではない。
水風船の水が魂の力であれば、風船こそが魂である。
通常は、常に満タンまで水風船の中に水(魂の力)を溜めているので、普通は魂が風船のようにもっと膨らむと気づくこともなく、魂を研鑽して大きくしようとはしない。
仙人は、その風船を膨らますために様々な修行を行っているのだ。
魂の力は、日々生活する中で少しずつ溜めていく。
入りきらない力は、元からあった力が出ていくことで入れ替わっていくらしい。
そうして循環するものが、人の本質となっている。
優しい人には温かい力が巡っているし、人を
覚えている限り、あの光の玉には大きさの違いのほかに、透明感や色のような違いがあった。
一つとして同じものはなかったから、あれこそ人の本質が反映された魂だったのだろう。
そして、今のコーディの魂の
魂の力は、生活する中で少しずつ溜まっていくものらしい。
元に戻るだけだが、まだまだ大きくなる。そうすると、魔力量が今の倍ほどになる。
今のコーディは、体も神仙武術も魔法も、まだまだ未熟である。
つまり。
「……研鑽を積めば、仙人の域も超越できそうじゃのぅ」
目を細めたコーディは、にんまりと口角を上げた。
◇◆◇◆◇◆
進級式の後は、今年度履修する授業を決めるための資料を受け取る。
一週間ほど期間を設けられており、履修する授業を登録すれば完了である。
大学と似たような仕組みだ。
少し違うのは、途中から履修したり途中でやめたりするのも手続き一つで可能だというところだろうか。
途中でやめるのはともかく、途中から履修できるのはなかなかフレキシブルだ。
昨年度はコーディも魔法実践科を途中から履修したが、きちんと点数を取って合格した。成績さえクリアすれば、途中からの履修でもちゃんと合格できるのだ。
卒業には、30科目以上の合格が必要である。
元のコーディは2年間のうちに24科目履修しており、途中履修の魔法実践科も合わせて今年度はすべて合格したので、実はあと5科目でいい。
事務関連の上位科目がまだいくつかあったので、元々はその授業を取る予定だったようだ。
もちろん、今のコーディはそのつもりがない。
取るのは、魔法関連の授業ばかり、10科目ほどだ。多い分にはいくつ合格してもいい。
魔力関係はもちろん、魔法陣の授業も面白そうなので選ぶ予定である。教師であるオリオーダンが気になるものの、授業そのものに興味があるので魔法歴史科も取るつもりだ。
また、最高学年にのみ、研究室が与えられる。
実のところ名ばかりの研究室で、学園内の休憩室としてのみ利用する生徒が多い。
しかし、きちんと研究する生徒も中にはいる。
コーディの友人たちはどちらかというと研究する方だろう。
ここで研究成果を出せれば、国の魔法研究所に勧誘される可能性が出てくるのだ。
そうでなくても、名前を売れるので就職には有利である。
逆に、貴族として跡を継ぐ予定の人にとっては、時間がかかるばかりでほとんど旨味のない制度だ。
必須でないが故に、研究をしない生徒が多くなるというわけである。
コーディは、魔法に関して研究することにしていた。
前世の五行の考え方を元に、この世界の魔法について比較するのだ。
実験はしたので、ほぼ間違いはなさそうであるが、まだ細かい検証ができていない。そのあたりを系統立ててまとめることができれば、充分研究たらしめるだろう。
また、魔力の器を増やす方法についてもまとめるつもりだ。
こちらは、仙人の修行で行った魂の研鑽がそのまま使えると予想している。ただ、コーディ一人だけの結果では参考にならないので、誰かに協力を仰ぐ予定である。
共同研究という形にさせてもらえれば、どちらにも美味しい結果になると踏んでいるので、友人に声をかけようと考えた。
「え、それはもちろん、願ってもないことだけど」
「僕もぜひ協力させてほしい!もしもそれで魔力が増えるならすごく嬉しいし」
コーディが声をかけた友人は、伯爵家次男のスタンリー・ディーキンと、男爵家次男のヘクター・カトラルだ。
スタンリーは土属性の魔法使いで、この国の魔法研究所への就職を目指しているという。のんびりしているように見えて、結構周りを見ているので意外と抜け目のないタイプだ。
一方のヘクターは、魔法陣への造詣が深い。魔法陣の研究については隣国であるトリッリウム・ズマッリ共和国が進んでいるので、将来的には向こうの商家の魔法陣開発所に行きたいらしい。
共和国というが、どちらかというと商人と工業の国で、魔法陣を使った商品をたくさん開発しているそうだ。
ズマッリ共和国はナッシュ公爵家が麻薬を売り込んでいるのとは逆にある国で、貴族が存在しない代わりに各都市に代表がおり、彼ら彼女らが地域の代表として国の運営に関わる形になっている。
前世の民主主義に近い感じがするので、コーディ個人としては親近感の湧く国だ。
逆に、貴族主義なナッシュ公爵家からすれば鼻持ちならない国だと想像できる。
どうやら、そういったナッシュ公爵家の態度がズマッリ共和国にも届いていて、簡単に言えば嫌われているそうだ。
取引先である商人に嫌われては、商売がうまくいくはずもない。
商人ギルドの本拠地はズマッリ共和国にある。つまり、商人はすべからくズマッリ共和国の影響を受けるのだから、ナッシュ公爵家の事業がカラ回る要因の一つになっているのだろう。
改めて、コーディは金銭の絡む人付き合いは礼節をもってしようと心に決めたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます