18 魔法少年は闇ギルドを探す
闇ギルド、と聞いたところでどこにあるか知らないし、誰に聞いたらいいかもわからない。
例の小さな男は、伝令が来て依頼を受けるだけだと言っていたので、末端には具体的な名称はもちろん場所を教えてもいないらしい。
さすがの読書家の元のコーディでも、闇ギルドの情報は知らなかった。
しかし、調べるアテはある。
人を隠すなら人の中だ。
つまり、王都のどこかにアジトなり依頼所なりがあるのだろう。
初めは目を白黒させていた騎士たちだが、機械を見てあまりに高価な魔道具だと驚き、動かしてみると動画(彼らは動く絵と呼んでいた)が再生されて驚き、コーディが襲われて返り討ちにしているのを見て驚いていた。
「ほ、本当に学園の生徒だった」
確認のために、と常に持ち歩くよう言われている学生証を見せた。小さな魔法陣の仕込まれたそれは、偽造ができない仕組みになっているらしい。
どうやら、魔法陣に学生番号などの情報を混ぜ込んでいるようだ。
それを確認した騎士が、唖然としながらその場にいる同僚に伝えた。
暴漢たちは、牢の中である。
大きな詰め所を選んだので、牢には無断進入禁止と無断脱出禁止、自殺禁止と暴力停止、建物保護の魔法陣が敷かれていた。非常に高度な魔法陣である。
小さな所だと、普通の鍵で閉めるだけだ。
きちんと法でもって裁かれるべきだと考えたコーディは、情報漏えいを恐れて彼らが殺されるのを防ぐ目的で、わざわざ大きな詰め所まで運んだのだ。
風魔法で浮かせて運んだので、魔力こそ少し消費したが、彼らに必要以上の怪我は負わせていない。
「タルコットくん、君が強いことは動く絵でもよくわかった。けれど、危ない場所をわざわざ通る必要はないんだ。万が一ということもあるんだから、次からは安全な道を選ぶように」
詰め所から帰されるとき、この詰め所の総まとめらしい壮年の騎士から注意を受けた。
単純に心配されているとわかったので、コーディは素直にうなずいた。
「はい、気をつけます。あと、機械の持ち主がわかったらお返ししてください。彼らが買えるものじゃないでしょうから、きっとどこかの貴族の家から盗ったんだと思います」
「あぁ、そうしよう。……本当に、返礼などは不要なのかね?」
壮年の騎士は、もう一度返礼について聞いてきた。
高価な落とし物を拾って届け出た場合、基本的に持ち主は貴族なので、返礼を要求すれば気前よく支払ってくれることが多いそうだ。
もちろん、あくまで相手の貴族の考え次第なのだが、そういったところで見栄をはるものらしい。
逆に、返礼をケチると経済状況が良くないらしい、などの噂がたってしまう。
しかし、コーディは返礼は不要と伝えていた。
その代わり、コーディが拾ったことを相手方に言わないよう頼んだのだ。
「そういうのが苦手なんです。きっと高位の貴族のお方だろうし、お会いするだけでしんどいと思います。後から探されてやりとりするのもちょっと怖いので、僕が拾ったことはお伝えしないでおいてもらえると助かります」
コーディも、先ほどと同じ答えを少し言い回しだけを変えて伝えた。
壮年の騎士は、諦めたようにうなずいた。
「わかった。望まないことはしないのが騎士団だからな。親切な市民が拾って届けてくれた、と持ち主が現れたら伝えておくよ」
「お願いします」
頭を下げたコーディは、その足で王都の一番賑やかな通りへ向かっていった。
◇◆◇◆◇◆
自分の魔力の器をほんのりと感じられるようになってきたコーディは、最近他人の魔力の器の気配もわかるようになってきた。
これは、仙術で「自分の気」を感知できるようになると「他人の気」の存在がわかってくるのと同じようなものなのだろう。
だから、賑やかな通りの中でも、貴族の従僕やメイドが出入りしてもおかしくなさそうな、けれども貴族だけが利用するわけではない、それなりに商売も成り立っている店舗を探しては魔力を探った。
あの暴漢たちの依頼主は高位貴族のはずだから、本人ではなくその使用人が来るはずだ。
従僕やメイドなどが来るのだから、彼らが入ることが不自然でない店でないと困るだろう。
とはいえ、闇ギルドの顧客が貴族だけとは限らない。
だからこそ、貴族もその使用人も平民も入れる店である必要がある。
次に、魔力を探る理由は簡単。
普通の平民は、魔力の器が小さいうえ、特に制御などしていないので魔力が常に自然と流れ出ている。
貴族の場合は、魔力の器が大きく、きっちり制御しているので体に魔力が留まっている。
探すのは、魔力が平民の中でも少し大きく、しかし制御は自己流で微妙に留まり一部が漏れ出ているようなもの。
もっとも、冒険者もそういった人が多いので一概にはいえないが、冒険者なら見れば分かる。つまり、冒険者に似たように魔力を扱う一般人っぽい人が店員をしている店が怪しい。
ゆっくりとそぞろ歩きをするふりをしながら、コーディは怪しい店を探して回った。
空の色が変わってきたのに気づいた頃、その店を見つけた。
男性用の雑貨小物店。
一見普通の店で、ショウウィンドウにはそこそこ値の張る宝石のカフスから、平民でも手の届きそうな刺繍のハンカチまで様々な商品が並んでいた。
そろそろ店じまいになる時間だが、まだ数人客がいて、その客層もバラバラだ。
どこかの貴族のメイドと思しき女性、商人らしい格好の男性、連れ立って来ているらしい若いカップル。
注目したのは、その店の店員らしい2人の男性だ。
彼らは、黒いシャツに黒いズボンをはき、白いネクタイをしめていた。
身のこなしの端々に手練であることが匂わされているが、基本的には優雅な立ち振舞いなのでよっぽど武芸の理解が深くないと気づかないだろう。
そして、店員たちの魔力は貴族には足りないものの平民にしては多く、若干制御は甘いもののそれなりに留まっていた。
体のさばき方に気づかなければ、どこかの貴族と平民の間に生まれた子だと解釈しただろう。
―― 多分ここじゃろうな。しかし、程々の場所、程々の店、程々の見てくれの店員。なかなか上手い擬態じゃのぅ。
コーディは関心しつつも、今日は直接の接触をするつもりはなかったので、そのままのスピードで通り過ぎて学園へと帰っていった。
◇◆◇◆◇◆
ぎゅい、と皮のソファが鳴った。
背もたれに沈み込んだ男は、細くため息をついた。
「ふぅぅー。まったく。全滅どころか全員留置所。しかも中央。始末しようにもあの依頼金じゃあ足が出る。やっぱり断っておけばよかった」
側に立っている別の男は、呆れたように返事をした。
「面白そうだ、と引き受けたのはあなたでしょうが。動く絵を撮る機械まで預かったのに、それすら騎士団の手の中ですよ」
言われた男は、すねたように口を尖らせた。
「依頼人は、コーディ・タルコットをちょっと魔法ができるだけの学園生だと伝えてきていたんだ。あいつらを全員倒せるやつが『ちょっとできるだけ』なはずがない。依頼者側の情報の隠匿もあったってことで、最低限の違約金を払って終わらせるよ」
「それが良いでしょうね」
そんな会話をしていた彼らは、次の日になって表の店にコーディ・タルコット本人がやってくるとは露ほども予想していなかった。
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