11 魔法少年と同級生たち

今日の放課後は、ダンジョンには潜らず魔法訓練場に行く。


ブリタニーが、昼休みにやってきてコルトハードの了承を得たと伝えてくれた。

そのときに、ブリタニーの友人が4人ほど一緒に来るとも言っていた。



そういえば、コーディがイジメられていたことを同級生は知らなかったのだろうかと疑問に思っていたのだが、実際知らなかった可能性が見えてきた。

アーリンたちがコーディに暴力を振るうときには、必ず空き教室など誰も来ない場所を選んでいた。目立つところに怪我をさせるようなことも避けていた。

ちょっとした嫌味程度は挨拶代わりだし、下位貴族を従えることは貴族同士ならままあること。学園内ではそういった風潮があった。


教師に見つかれば何らかの注意を受けることもあることを考えると、どうやらアーリンたちはうまく隠しながらコーディをイジメていたようだ。

そうでなければ、さすがに命の危険があるダンジョンに、いじめっ子たちと一緒に行く許可を出したりしないだろう。

アーリンたちとグルでなければ、だが。


もちろん、貴族社会の縮小図のような身分制度を持ち込まない生徒も一部存在した。

しかし、彼ら彼女らは往々にして変人扱いだった。

将来的には貴族の身分社会からは遠ざかる予定で、現時点から身分制度を無視して勉学に励むような者たちがほとんどだったからだ。


そして、ブリタニーの友人たちのグループは、その貴族的には変人扱いなタイプだった。




◇◆◇◆◇◆




「ナッシュ公爵子息の取り巻きを決闘してまでやめるなんて、すごいね!」

「まぁあの、見た目より意外とかなりケチンボ公爵だもんね」

「あの同時発動、すごく楽しみ」

「事務官目指すのはやめたの?」


ブリタニーが連れてきた友人たちは、かなり自由な発言を重ねていた。

そして、どうやらコーディはアーリンの取り巻きをしていたという認識だったらしい。

呼ばれればすぐついて行っていたようなので、外からはそう見えたのだろう。


「ちょっと!事実を表現していても言い方ってものがあるでしょ!なんかこう、対人経費に関してだけはコストパフォーマンスを重視するとか、使用人に対してだけは細かく金銭管理してるとか、誤魔化しなさいよ。ナッシュ公爵家とトラブルになったらめんどくさいわよ、親が」

「ふわっとしてるようで酷くなってる」

ブリタニーは一応注意したが、友人たちはどこ吹く風だ。その注意も、庇っているようだがしっかり蔑んでいる。


この魔法訓練場にいる人たちが、信頼できるという表れでもあるのだろう。



「事務官以外を目指してもいいかな、と思って」

コーディは、質問してきたスタンリー・ディーキンに答えた。

スタンリーは、伯爵家の次男らしい。


「いいね。事務官は安定職ではあるけど、面白みがなさそうだし」

「それもあるけど、もっと可能性を広げてから選んでもいいだろうから」

「あぁ、あの魔法があるならそう考えても当然かもしれないわね」

話に入ってきたのはブリタニーだ。



みんな、魔法の同時発動について聞きたそうだったが、コルトハードがまだ来ていないので我慢していた。

将来の話で盛り上がっているところに、コルトハードがやってきた。


「待たせてすまんな!」

「コルトハード先生。お忙しいところありがとうございます。皆でタルコットくんから教わりたかったので助かりました」

「ははは!構わんよ。勉強熱心なのは良いことだ」


コルトハードは、からりと笑って答えた。

「しかし、将来の展望は大事だな。うん。タルコットなら、頑張れば魔塔に入ることもできそうだ」

「魔塔、ですか?」


コーディの記憶では、確か魔法使いだけが所属する、どこの国にも所属しない機関である。各国から優秀な魔法使いが集まってきて、自分たちで運営している独立機関だ。

各国からの寄付で成り立っており、魔法技術を還元することで対価としている。魔塔に関してのみ、多くの国が不可侵条約を結んでいるらしい。

塔のように見える細長い建物がその研究所なので、魔塔と呼ばれているようだった。


しかし、それ以上の情報はない。


「我が国にある魔法研究所もなかなかのものだけど、魔塔の最新研究は数段上だし、予算も違うからね」

ブリタニーたちは、コーディよりも魔塔について知っているらしい。

「なるほど」

「トリフォーリアムからは、10年以上誰も行ってないんだっけ」


正式には、トリフォーリアム・プラーテンス王国。我が国の名前だ。

確か、ムラサキツメクサの学名がそんなものだった。実際、国を象徴する花は赤のクローバーっぽい花である。



どうにも前世と繋がりのありそうな名称が気になっていたのだが、ゆっくり考えてみるとヒントがあった。


話す言葉を一音ずつ分解し、ゆっくり組み立てると、意味がわからなかったのだ。一音ずつ並べたものは、まったく未知のはずの言語だった。

話すとき、読むときには意味のわかる単語として認識しているのに、何故だろうと思っていたのだが、どうやら元のコーディの記憶が活躍しているらしかった。


魔法の本の内容や家族のこと、アーリンのことなどは、思い出そうとしなければ出てこなかった。

しかし言葉の方は、思い出そうとするまでもなく表に出ている。というより、身についているような感じだ。


そもそも、通常母国語で会話するときに、言葉を一つ一つ確認して組み立てる、という、初めての外国語のような理解の仕方はしない。

つまり、この体に染み付いた本能的なものに近い。


自然と理解するときに、コーディの頭の中で、鋼の知識と結びつけているのだ。

そのため、どうやら『こうのときに聞いた花名と同じ』といった現象を引き起こしているようだった。


疑問さえ解決されれば、仕組みはともかく便利で理解しやすいのでそのまま受け入れた。


もしかしたら、こちら特有で鋼の知識にない単語が出てきたときには、まったく意味のわからない音として入ってくるかもしれない。

コーディは、別のところで少しワクワクしていた。




◇◆◇◆◇◆




「そこで、発動した魔力の周りに、ピッタリのカバーを全体にかけるような、肉串のタレをまんべんなくかけるような、そんなイメージで魔力を纏わせながら『その状態で待機』することを念じます」


まずは、複数発動の前段階、そのまま魔法を待機させる方法を教えている。


これができれば、8割方成功だ。

あとは、命じたときに発射さえすればよいのだから。



「待機……っぁ!」

「あああ、霧散したぁ」

「っと、一瞬だけ待機できた!」

「これ両手それぞれとか無理すぎるんじゃないかな」

「魔力を纏わせて……まとわせ……?」

みなそれぞれに、コーディの説明を聞いて実践してみていた。


さすがに、コルトハードのようにすぐできるようにはならなかった。

このあたりは、学生と教師の経験の差ももちろんだが、コルトハードの地力がかなり高いことも要因になっているだろう。


聞くばかりではなく、自分で工夫して進もうとする生徒たちに、コーディは好感を持った。

「纏わせるときには、魔法を発動する直前みたいに、魔法として存在させる前の魔力だけを動かして広げるイメージなんだ」

コーディの中で実際にイメージしているものは、○ランラップである。

しかし、今世にはラップのようなものは存在していない。石油系の素材がないのも理由だが、そもそも作り置きをする文化がないので、似たようなものすら作られていない。


前段階でそれなりに苦戦していたが、みなそれぞれとても楽しそうに訓練していた。



これが、後に学園内で一大派閥を築く放課後魔法クラブの前身である。

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