10 魔法少年と同級生の邂逅

コーディが見たところ、優勢なのは女生徒の方である。

もっとも、一人で最奥に入ってきているので、普通に考えれば腕も伴う人物だろう。


大きめの杖を構える女生徒は、どうやら風魔法を使うらしい。グラスタイガーが魔法で生やす草木を風でなぎ倒しており、さらにはうまくグラスタイガーにもダメージを与えている。

テンポよく攻撃を続けることで、グラスタイガーに攻撃する隙を与えない作戦らしい。



あれくらいの魔力量なら一発で倒してしまわないらしい、と戦闘を参考にしていると、順当に女生徒が勝利して戦闘が終わっていた。

終わったことで、女性とは気を抜いていた。


これもこのダンジョンの仕様のようなのだが、一度魔獣が出ると、しばらくその周辺には魔獣が寄ってこないのである。

なんとも親切だ。


どう声をかけたものかと考えたが、見ていたと知られるのは気分の良いものではないだろう。

コーディは、静かに後ろの通路へと下がっていき、適当なところから普通に歩いて近づいていくことにした。


さも、今来ましたよ、という体を装ったのである。



角を曲がると、ちょうど女性とがグラスタイガーの皮を剥いでいるところだった。

使い込まれたナイフを慣れたように動かしており、非常に手際がいい。


「ああ、ごめんなさい。通るならお先にどうぞ。……あ、二属性同時発動の人」

コーディに気づいた女生徒は、元々端に寄っていたので通路の空いている方へ目線をやってから、もう一度コーディを見た。

どうやら、アーリンとの決闘を見ていたらしい。


よく見ると、女生徒の顔には見覚えがあった。

同学年の彼女は、いわゆる真面目グループにいたような気がする。図書館で勉強していたり、委員をしていたりするイメージの生徒たちの集まりだ。

実際、生徒会という学校を代表する役員になっている生徒もグループの中にいた気がする。


「あれは、実際には同時発動じゃないんですよ。……では」

「えっ?同時発動じゃないの?」

茶色のサイドテールをひょこりと揺らして、女生徒は首をかしげた。

可愛らしい所作だが、手元は血まみれである。


「えぇ。実は一つずつ発動させて一端留めておいて、適宜放出しているだけなので」

質問されたので、コーディはうっかり足を止めてしまった。

女生徒の手元も止まっている。

「へぇ、そうなのね。え、じゃあ私も二属性使えたら同時発動的なことができるってこと?」


興味深そうに聞いてくれたが、コーディとしてはグラスタイガーが気になってしまう。

「あの、別に急がないんで話してもいいんですが、グラスタイガーは早めに剥ぎ取ったほうが」

「あ!そうだった!大事なお小遣いが」


グラスタイガーに向き直った女生徒は、話を聞きたいので待ってほしいとコーディに頼んできた。

今度は手元もきちんと剥ぎ取りを進めている。

請われれば断る理由もない。


そういえば、仙人のときにも興味を持った若者に学問や自然科学、経済などいろんなことを指南していたな、と思い出しながら、コーディは岩に腰掛けて待つことにした。




「同じ学年なんだけど、名前は知らないよね?あたし、ブリタニー・ウェイレット。ウェイレット子爵家の次女なの」

「あぁ、知らなくてすみません。僕は、コーディ・タルコット。タルコット男爵家の三男です」


解体が終わり、さてどこで話そうかとなったのだが、ダンジョンの中でそのまま話し込むのは危険が大きい。

ブリタニーは必要数狩り終わっていたし、コーディも訓練を急ぐわけではないので2人でダンジョンの外に出て、学園の敷地にある適当なベンチで話すことにした。


外に出て分かったのだが、ブリタニーは子爵家の出身にしては色素の薄い見た目をしていた。薄茶色の髪に水色の目なので、侯爵家の出身と言っても通るかもしれない。

ダンジョンに潜るくらいなので、魔法実践科を受けていそうなのに見たことがなかった。

そう聞くと、ブリタニーはうなずいた。


「魔法実践科は週に6枠くらい授業があるの。どこの時間を取ってもいいから、結構皆バラバラなのよ。あたしも友達とは違う時間に取ってるし」

「確かに、そうですね」

大学形式に授業を選択するというカリキュラムなので、組み合わせやすいよう教師は週にいくつも授業を開講しているのだ。


「っていうか、敬語やめない?同じ学年でしょ」

そういえば、教師と話す要領のまま敬語で話していた。じじい言葉が出そうという懸念もあったからだが、クラスメイトにそう言われて断る理由もない。

なるべく気をつけよう、とコーディはうなずいた。


「うん、わかった」

それに満足そうにしたブリタニーは、早速二属性を発動させることについて質問してきた。


「それで、順番に発動させて留めるってどういうことなの?」

興味津々といった表情は、過去の誰かの中にも見たものだ。

向学心と希望。

コーディは、久しぶりにほっこりとした気分になった。



コルトハードにしたのと同じ説明をしたところ、疑わしそうな目を向けられた。

「発動させた魔法にカバー?して留めるの?そんなことできるかしら……」

試してみたそうだったが、学園内で魔法を発動してよいのは許可の出ている場所だけである。

そういう意味では、アーリンの取り巻きたちはギリギリアウトなことをしていたわけだ。


「コルトハード先生は少し試して留められたみたいだから、聞いてみたら良いと思うよ」

「うーん……あの先生、なんかこう伝えようとしてくれるのはわかるんだけど、あの説明で実践できた試しがないのよね」

ブリタニーが眉を潜めて言うので、コーディも同意した。


「確かに、ボーンとか、ドカンとかで済まされそう」

「でしょ?逆に難しくなるわ」

それでも試してみたそうなブリタニーを見て、コーディは提案してみた。


「それなら、コルトハード先生に頼んで、訓練場を開けてもらう?」

「あ!それいいわね。なら、ついでにほかの子も呼んでいい?あ、でもあたしは気になるだけだからいいけど、普通は一属性しか使えないからあんまり来ないかな」

後半は独り言のようだったが、コーディは思いついたことを口にした。


「一属性でも、やりようはあると思うよ。同じ属性でも、二種類の魔法を準備できるだろうし」

「あぁ!風弾と切り裂き風の両方とかもできるかも?!」

「そうそう」

コーディがうなずくと、ブリタニーは瞳をキラキラと輝かせて笑顔になった。


「面白そう!きっと皆来るわ!そうね、明日の放課後とかどうかしら?」

「うん、僕は大丈夫。コルトハード先生の都合だけかな」

「多分大丈夫よ。あの先生、熱血指導とかそういうの大好きだから」


確かに、とコーディとブリタニーは2人で笑った。

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