第7話 共鳴

 そして現在、俺とティアが出会ったあの日から一年、俺たちは高校二年生になっていた。

探偵の協力を得るのに一年もの期間が必要なのは予定外だったがその間何もしていなかったわけじゃない。ティアはいつに間にか星蘭高校に入学しており、俺の隣の部屋を借りて一人暮らしを始めていた。入学できた理由を聞いてもティア自身もあまり分かっていないらしく、名前を伝えただけで入学できたというのだからこれも不思議な話だ。猛勉強して入学した俺の努力を返してほしい。

それと、この世界でティアは星名天愛と名乗っている。俺の苗字の名鳥の名と星蘭高校の星からとったらしい。こういうところはちゃんとしてるんだよな。

ある程度生活の基盤が出来上がったら、聞き込み調査もした。異世界から来たのならティアのように目立つはずだからだ。さらに町が眩い光に包まれたあの日のことに関しても聞き込みを続けた。日に日に捜査範囲を広げ、休日には少し遠出をしての調査も行ったが結局これといった成果を得られなかった。光を目撃した人も学校の近辺では見られたがある一定の範囲を超えると途端に目撃者が減少してしまう。その結果捜査範囲が縮小してしまい手掛かりがなくなるのだ。

結局この日も操作による寝不足で遅刻し、朝から教師からの説教を食らい、ボーっと授業を受けて放課後を待った。ティアには友達と呼べる存在ができたらしく、休み時間に教室の前を通るとその友達と談笑している姿が目に入る。ティアが大衆の中でも目立つ見た目をしているだけでいちいちティアを探しているわけでは断じてない。

ちなみに俺は二年三組に所属しており(つまり変わっていない)、五組のティア(やっぱり変わっていない)とはクラスは違う。今更だが、星蘭高校では一組から順に優秀な生徒が振り分けられている。つまり俺はちょうど真ん中のクラスというわけだ。ティアをはじめとする五組の生徒はまあ、言うまでもあるまい。

何はともあれティアに教室で一人でいる姿を見られずに済むのはありがたい。どうせ馬鹿にされるのがオチだからな。教室の真ん中のほうの席で文庫本を読んでいれば一人もそんなにつらいものでもないしな。こういう時アニメの主人公みたいに窓側の席にならないかなーなんて考えたりもする。

放課のチャイムが鳴ったので俺は席を立ちすぐに教室を出た。ちょうど奏人も部活に向かうらしく教室を出るタイミングが重なる。


「お、じゃあな。俊介」

「ああ。部活がんばれよ」


軽くあいさつを交わして奏人とは別の方へと歩みを進めた。奏人は憎いくらいのイケメンスマイルを残して下の階へと去っていった。

サッカー部に所属している奏人は三年生の最後の試合に向けた練習で毎日遅くまだ練習をしているようだ。奏人は二年生の中では唯一のレギュラーメンバーらしく、放課後少しでも多く練習時間を確保するためにいつも終礼後はすぐに教室を出る。三年生の最後の大会だろうが関係なく自分事のように部活動に励む姿は正直かっこいい。俺もあんな風に熱心になれることがあればいいのにといつも思う。まぁ、もともと集団行動が苦手なので部活動に入るつもりはないのだが。

教室を出た俺は、二つ隣の一年五組の教室に向かった。どうやら終礼は終わっているらしく、教室内には喧騒がこだましている。すぐに教室の後方にティアを発見した俺は教室へと足を踏み入れた。

ティアはこの学校に来てからできた友達と楽しそうに談笑している。あれは確か福島灯といったか。別に仲が良いわけではないがティアはだいたいいつもこいつと一緒にいるため何度か顔を合わせたことがある。くりんとした目にショートボブのどこにでもいるカワイイ系の女子高生だ。


「ティア、予定の時間だ。行くぞ。切りのいいところで来てくれ」

「俊介あんたねぇ、空気読めないの?こんなに楽しそうに話してる私たちの空気が。だから友達がいないのよ」

「ばれてたか……」

「天愛ちゃんいいよ。それに私今日塾だから行かないと」

「そう?灯がいいならいいんだけどさ」

「また明日ね。天愛ちゃん」

「うん。また明日!」


 教室を出る灯を見送ったティアは俺に向き直り話し終わらせたから早く行くわよと視線で合図した。それに従って五組の教室を後にする。

今日があれから一年。ティアのお姉さん探しに何も当てのない俺たちに残された最後の希望。

俺たちは今日、探偵に会いに行く。

 俺たちは渡り廊下を渡った先の特別棟にある家庭科室を目指していた。特別棟には家庭科室や音楽室など特別な授業で使われる教室が集まっている。放課後のこの時間は特別教室を部活で使用する生徒の姿が見られ、音楽室からは吹奏楽部の楽器の音が響いていた。

 四月の少しひんやりとした空気の特別棟の三階にある家庭科室を目指す。実は俺たちが毎日探し回っている探偵は部員一人の探偵部に所属しておりその変わり者ゆえに学校でも探偵と呼ばれている。部員一人では正式な部室が与えられないらしく、家庭科室を仮の部室として活動しているというわけだ。

 三階へと続く階段を上り家庭科室に近づくにつれなにやらいい匂いがしてきた。その匂いをいち早く反応したティアは一段と歩く速度を上げて家庭科室へと向かったのだった。そして勢いよく扉を開け放ち叫んだのだった。


「いい匂い~!」

「いい匂い~!」


 そしてその声は偶然にも家庭科室にいた先客と共鳴したらしかった。

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