第208話 海蛇陥落


 ☆★☆★☆★



 「確かに。選択肢はありませんなぁ。あっさり『ネイビー』を壊滅させて吸収したそちらと、うちでは自力の差がありすぎます」


 領主から使いの者が来て、『クトゥルフ』が話をしたいと聞いて驚いた。領主が裏組織の仲介をするという意味も当然考えた。


 『クトゥルフ』の情報を得ようと、何度も旧ネイビーの縄張りに人員を送り込んだが、ほとんど情報を得られなかった。『ネイビー』の連中なら、潰された不満から何かを漏らすと思っていたのだが。


 この短時間で一体どういう教育をしたのか、酒を飲ませても、女をあてがっても情報は一切漏らさない。


 なんの情報も得られないまま、色々な推測だけで今日の『クトゥルフ』との会談に臨んでいる。


 ディエルのスラム一番の武闘派組織だった『ネイビー』をあっさり壊滅させる武力。情報収集能力に自信のあった『海蛇』を入り込ませない防諜力。そして、領主とのコネ。


 うちも領主とは多少の面識はあるが、裏組織同士の仲介を頼める程ではない。『クトゥルフ』のボスは、領主とかなり近しい存在なのだろう。『海蛇』が勝ってるところなどないんじゃないだろうか?


 「ポルカ殿。御決断頂けますか?」


 「返事は今日この場でするしかないと?」


 「ええ。急いでますので。この後『久遠』攻略にも着手しないといけまけんから」


 やはり…。このままディエルのスラムを制圧していくつもりなのだろう。なぜ急いでるのかは分からないが、ここで断ったら明日にでも攻めて来そうな雰囲気を漂わせている。


 「仕方ないですな…。代々続いてきた『海蛇』を私の代で潰してしまうのは心苦しいですが。こんな私でも慕って付いてきてくれる者も居るのでね。抗争になって無闇に命を散らさせる事は避けたい」


 「それでは?」


 「ええ。構成員300名『海蛇』は『クトゥルフ』に降伏致します」


 「ポルカ殿のご賢明な判断に感謝します」


 こうするしかない。争った『ネイビー』達の今の様子を見てみても、傘下に入ったところで無碍な扱いはされないだろうと思っている。


 それなら早い事恭順の意を示して『クトゥルフ』内でのしあがった方がいい。余所者がどれだけ厚遇されるかは分からないが。


 「明日またこちらに伺いますので。それまでに部下への説明をお願いします」


 「分かりました」




 カタリーナ殿達は、そう言って去って行った。俺は去って行ったのを見て、その場で姿勢を崩して大きくため息を吐く。


 「はぁ。すまんな。お前達」


 「オヤジが決めた事に異存はありません。それに…」


 「なんだ?」


 「あのカタリーナという女性。強さの底が全く見えません。戦って勝てるイメージが微塵も湧きませんでした。それに護衛の男達も…。拙者じゃ倒せても一人ですね。あれらはドナルドと同等以上の実力者でしょう」


 「お前がそこまで言うか…」


 私が『海蛇』を継いだ時からの用心棒であるサエジマ。東の島国からやって来たサムライという武人だ。


 この男がいるお陰で、うちは武力面で劣る中、なんとか今日までやって来れたのだ。その男が、カタリーナ殿には勝てない、護衛の男達もせいぜい一人が限界。


 「変に欲を出さずに降って正解か」


 「武人を自負している拙者も、恥ずかしい限りですが、交渉が拗れてその場で戦闘になったらどうしようかとヒヤヒヤしていたぐらいです。他の部下達の説得は拙者も手伝いましょう。あれは正面から戦って良い相手ではない」


 「そうか」


 結局聞けずじまいだったが、カタリーナ殿が『クトゥルフ』のボスなのであろうか? あれでただの使いっ走りというレベルではあるまい。


 ボスや幹部の情報もほとんど手に入れられてないのだ。明日になれば分かるのだろうか? 


 もしカタリーナ殿がトップではないなら…。『クトゥルフ』のボスはどれだけ恐ろしい存在なのであろうな。


 「ふぅ。よし。他の部下達の説得に向かうか。大半は理解してくれると思うが」


 「向こうも全員がいきなり素直に従うとは思ってないでしょう」


 「それはそうだけどな。納得出来ない奴に、明日変な行動されてしまったら、私の面目が丸潰れだ。いきなり悪印象を持たれる事は避けたい。悪いがお前達にも手伝ってもらうぞ」

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