第207話 一方的な交渉


 ☆★☆★☆★



 「姉御、『久遠』か『海蛇』どっちから攻めやすか?」


 「『海蛇』です。ここはなるべく生かしたまま確保したいですね。情報収集や交渉に特化してる組織みたいですから。うちはまだまだそういう人員が不足してますし、なんとか引き入れたいところです」


 「って事は、制圧は簡単すかね? そこまで武闘派を揃えてるって訳じゃないんでしょ?」


 「ええ。しかし『ネイビー』のドナルドが言うには、一人ずば抜けて強い用心棒みたいなのがいるみたいです。その用心棒と情報を駆使して、このスラムでもそれなりの地位を築いてるみたいですね」


 スラム制圧を任されたカタリーナは、『久遠』の情報がまだ集まってない事もあり、次の標的を『海蛇』と決めていた。


 『聖域』は『スティグマ』がやって来るまではとりあえず放置する予定だ。しかし、いつ『スティグマ』がやって来ても良いように、スラムでは自由に動けるようにしておく必要がある。


 理想は『海蛇』『久遠』を『スティグマ』が来るまでに制圧して、万全な状態で迎え撃つ事。その為に領主サイドや既に制圧した『ネイビー』からの情報もある『海蛇』を狙う事にしたのだった。






 「交渉で話が済めば楽なのですが」


 「どうすかね。向こうにもこのスラムで支配者として生きてきた矜持があるんじゃないすか?」


 「話を聞いた限りでは、利益最優先の様な人間らしいですよ。うちが『ネイビー』を吸収してる事の意味を理解していれば交渉は成功すると思いますが…。情報を絞り過ぎたのが仇になりましたかね。向こうがうちの事をどれだけ知ってるかで交渉の成否が分かれます。それに領主が私達の為に『海蛇』相手にアポを取ってるんですよ? その意味も考えるはずです」


 『海蛇』を傘下に収めるべく動き出してから数日。カタリーナ、マーヴィン、チャールズ、アハムは堂々と『海蛇』の縄張りを歩いてアジトに向かっていた。


 領主が少しながら『海蛇』に伝手があるということで、面会のアポが取れたのだ。戦わずに済むならそっちの方が人員確保の面でも、こちらの消耗を考えても良いだろうという事で、一応交渉するつもりでいる。


 まあ、交渉と言っても、こちらから一方的に条件を突きつけるだけなのだが。


 「かなり警戒されてますね」


 「見張りの数が凄いっす」


 『海蛇』のアジトに到着した一行は、かなりの数の護衛に警戒を強める。武闘派の人間が少ないとはいえ、それなりの人員は揃えているらしい。


 この様な少人数で乗り込んで来たのには理由がある。一応交渉という事で警戒されない為、そして万が一戦いになった場合、少人数ならカタリーナの転移で逃げられるからだ。


 この場で戦っても勝つ事は出来るだろうが、手加減が出来ない。なるべく人員を確保したい『クトゥルフ』側としては、それは無しである。


 戦うなら万全な状態で、しっかりと生け捕りが出来る状態で戦うつもりだ。


 応接室の様な場所で待つこと数分。


 「お待たせしました」


 飄々とした胡散臭い顔の狸獣人が情報にあった用心棒であろう男と他数名を連れて現れた。


 「私、『海蛇』を率いさせてもらってます、ポルカと申します」


 「『クトゥルフ』のカタリーナです。お見知りおきを」


 「いやはや、まさかエルフの女性が出てくるとは思いませんでしたな。あなたが『クトゥルフ』のトップなのですかな?」


 お互い軽い自己紹介から始まり、早速ポルカが話し始める。『海蛇』側はまず『クトゥルフ』の情報を探ろうと、ジャブを入れてくるが。


 「ポルカ殿。私達は無駄話に付き合うつもりはありません。『クトゥルフ』の傘下に入るか、私達と抗争するか。今すぐ決めて頂きたい」


 カタリーナは話をぶった切って本題に入った。


 「物騒ですな。話し合いの余地は無しですか」


 「私達としては、なるべく無傷の状態で『海蛇』を手に入れたいと思ってます。ここの情報収集能力は魅力的です。しかし、どうしてもという訳じゃない。『クトゥルフ』と『海蛇』の実力差はうちが『ネイビー』を短時間で滅ぼした事である程度理解してるはず。ここで変に意地を張るような組織なら、状況が見えてなさすぎでしょう。私からすると選択肢は一つしかないように思えますが?」

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