第206話 帝都の人材


 「あれ? ダンとカイルじゃん。こっちに帰って来てるのは珍しいね?」


 「あ、お疲れっす」


 「お疲れ様です」


 食堂でご飯を食べてると、勇者アーサーのお供をしてるダンとカイルが秘密基地に戻って来ていた。ほとんどアーサーと一緒に行動してるから、こっちに帰ってくる事は滅多にないんだけど。


 「帝都に『クトゥルフ』のメンバーが到着して、とりあえずの拠点が出来て転移装置も設置出来たんで。一旦こっちに帰ってきたんすよ。宿に泊まるより、こっちの方が居心地が良いっすからね」


 「ほー。そうかそうか。でもアーサーに怪しまれない?」


 「あいつは今日、帝都で行きつけの娼館に行ってるんで。夜明けまで帰ってこないですよ。一応見張りも付けてます」


 サラに見限られてどうなるかと思ってたけど、ダンとカイルのフォローもあってそれなりに異世界を堪能してるみたいですな。アーサーからの情報ポロリはそれなりに役立ってるし、これからもポロリして欲しいもんである。


 「それで? 帝都はどう?」


 「今まで行った都市や街で一番栄えてるのは間違いないっすね。でも、やっぱり上層部の権力闘争が激化してるせいか、ピリピリした雰囲気はあるっす」


 「ゴドウィンがいなくなった影響は大きいか」


 「中立派の頭でしたからね。ゴドウィンのお陰で水際で止まってたものが、溢れ出してる感じです」


 「なるほどなー」


 帝国は良い感じに内輪揉めをしてるらしい。他国が攻めるのは絶好のチャンスだなぁ。フレリア王国の開戦派が鼻息荒くしてるのも仕方ない。


 武の象徴だったゴドウィンがいなくなり、上層部は内輪揉め。それでも他国が開戦に踏み切れないのは、帝国が強いからだろうか。


 てか、俺が教会勢力の人間ならこれを機に帝国の力を削ぎ落とすけどなぁ。教会やその総本山である神聖王国に領土的野心はないのね? 強欲なあいつらの事だから、大陸統一とか考えてそうなもんだけど。


 「あ、そういえば恩恵持ちの情報とかない? アーサーが気にしてる人物とか」


 「ああ、その報告書ならこれです。丁度今日報告しようと思ってたんですよ。アーサーが気にしてる人物、それに帝都に滞在しているSランク冒険者の情報です」


 「優秀で助かる」


 物語の主人公であろう勇者のアーサーが生まれた国の中心に恩恵持ちがいない訳がない。絶対に何人かめぼしい人間がいると思ってたぜ。


 「Sランク冒険者は二人…『竜殺し』と『雷帝』ね」


 「ええ。戦ってる所は見た事ありませんが、二人とも直接見た事はあります。アンジェリカの姉御みたいな雰囲気を漂わせてたので、ただもんじゃないかと」


 気になるなぁ。特に『竜殺し』。そろそろ不老薬作製の為に、秘密基地の更に奥に踏み込みたいと思ってるんだ。竜の素材がいるからさ。本当に異名通り竜を討伐した事があるなら、是非話を聞かせて欲しいもんだ。


 『雷帝』はどっちでも良いや。勿論欲しいけど、異名通りなら雷魔法でも使うんだろう。俺が知る限り、魔法の属性に雷なんてのはない。


 恐らく恩恵に『雷魔法』ってのがあって、使えるんじゃないかなと思ってる。まあ、カタリーナは精霊と意思疎通して、擬似的雷魔法を使えるから。そこまで興味が湧かない。科学知識を覚えた魔法使い程恐ろしいもんはないと思ったね。


 「で、アーサーが気にしてる人物は三人。全員女なのが、いかにもアーサーっぽいな。それとも本当に帝都には女の恩恵持ちしかいないのか」


 「どうでしょうね。最初の頃に比べたらアーサーもだいぶマシにはなってきてますが」


 「そんな簡単に人は変わらないよ」


 まあ、サラに捨てられて改心した可能性もワンチャンあるかもしれないが。娼館に走ったりしてる時点で、大した心境の変化はないだろ。


 別に娼館に行くのが悪いって訳じゃない。俺だって男だし、エロスは大好きである。でも本当にサラの事を考えて、自分の過ちを理解してれば、今は娼館に行ってる暇はないと思うんですよ。


 「これ、この三人のうち、二人はなんとかなるかもしれないけど、一人は接触するのが難しいよね?」


 「はい。アーサーがどうやって接触するつもりなのか、探ってる途中です」


 アーサーが気にしてる、恐らく恩恵持ちであろう三人。二人は平民だしなんとか会おうと思えば会える。なんなら、アーサーが行動に移す前に、こっちから接触して掻っ攫いたいところだ。


 まあ、これは後で人員を送り込むとして。


 もう一人は帝国のお姫様である。どう足掻いても一般人が接触出来る相手じゃない。


 「『姫騎士』ねぇ。帝国のお姫様でありながら、軍人になった変わり者。しかし、その実力は本物でゴドウィンも目を掛けて育ててたと。色んな意味で仲良くなるのが難しそうだな」


 『姫騎士』さんはゴドウィンを師として尊敬して慕ってらしい。行方不明の報告を受けた時はそれはもう荒れ狂って、ペテス領に殴り込もうとしてたくらいには。


 姫という立場的にも、俺達がゴドウィンを殺したって事でも、仲良くなれそうにない。


 どうしたもんかな。とりあえず確保出来る人材から確保する為に動くべきか。俺も時間を作って、一回帝都に行く必要があるか。


 姫騎士のくっ殺とか興味あるんだけど。どうにかして見られないもんか。


 

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