第205話 天才とやら
「ふぅ。疲れた。暴力を使わない交渉って、本当に疲れるなぁ。今までどれだけ暴力に頼り切ってたか分かるよ」
親方は少し考える時間が欲しいっぽかったから、今日のところは引き上げて秘密基地に戻ってきた。
慣れないなんちゃって敬語を使って、なるべく穏便に事を進めたけど、中々に苦痛だった。俺にはあんまり向いてないのかもな。
でも裏社会の王を目指す人間としては、かっこいい交渉ムーブもかましたいところ。葉巻を咥えてふんぞり返ってさ。
俺がダンディな見た目ならまだしも、中性的な容姿がいかんともし難い。今の俺が葉巻を咥えてもサマにはならないだろうな。
「ボス。早速試作品を作ってみた」
「仕事が早いな」
「今日は良い刺激になった。色んな案がどんどん浮かんでくる」
俺が執務室でだらけながらも書類を捌いてると、エリザベスが船の模型を抱えてやってきた。前世基準でお風呂に浮かべるようなおもちゃみたいな見た目だけど、それでもやる事が早すぎる。
てか、案外小さい方が作りにくかったりするんじゃないのかな? 細かい部品とか。かなり技術がいりそうなもんだけど。
「こっちは木造船。こっちは魔導エンジンを搭載した鉄製の船」
「よし。早速走らせてみるか」
そんな面白そうなモノを見せられたら、仕事なんてしてる場合じゃないよね。カタリーナがスラムの方に詰めてるから、今の秘密基地での書類仕事は俺の仕事なんだけど。
ちょっと残業すれば良いっしょ。『クトゥルフ』はホワイトな裏組織を目指してるけど、上の人間はまだまだ仕事が多い。人材育成が急がれる。
そしてやって来たのは小さい人工な池。一応プール的なのを目指して秘密基地内に、小さく作ったんだけど、あんまり使ってない。今では子供の遊び場として活用されている。
「おお。浮いた」
まずは木造船を浮かべてみた。
「でもちょっと不安定。これじゃあ、強い風が吹いたら転覆しちゃう」
そう言って、エリザベスがうちわで仰ぐと、ゆらゆらと船が揺れて最後に転覆した。
「軽すぎるんじゃないの? 実際は船員とか荷物もあるじゃん?」
「その分の重しも載せてる」
その後も何度か水に浮かべては転覆。その度にエリザベスは紙にレポートを書いている。
「大体分かった。次はこれ」
次は鉄の船。これもしっかり浮かんでいる。それに木造船より安定してるようだ。
「で、これに魔力を流すと…。おお!」
鉄の船が動き出す。が…。
「遅いな」
「やっぱりこの大きさじゃ出力が足りない」
最初は動き始めだからかなと思ってたけど、そんな事はなかった。普通に遅い。なんなら大きめの波にぶつかると後退してしまうぐらいだ。
「蒸気で走らせる方は?」
「まだ。蒸気機関がまだ完全じゃないから」
俺が魔法以外にアテにしてる動力である蒸気機関。これは結構早い段階でエリザベス達に蒸気の事を教えて、研究してもらっていた。
それでもまだ実用段階には至ってないらしい。まあ、俺の知識はふわっとしてるからなぁ。蒸気の説明も、鍋の蓋とか使ってやったぐらいだし。
ラノベとかで異世界転生してる奴らって、マジでみんな天才だよな。中高で習った蒸気の事とか全然覚えてませんよ。ってか、中高で習ったのかも覚えてない。
知識はふわっとあるから、多分どこかしらで習ったんだろうけど。ほとんど記憶にないもんね。
後、造船するにあたって重要な浮力ね。これ、正直習った記憶がないんだけど。大学とかで専門で習うようなもんじゃないの?
俺が浮力について知ってる事なんて、昔のお偉いさんがお風呂で自分が浮かんでる事から、浮力を思いついたみたいな話ぐらいしか知らない。
一時期、伝記が漫画になってるやつにハマった事があるんだよね。それで知りました。名前は忘れたけど。アルキメデスだっけ?
何気ない事からそういう発明するのって凄いよねぇ。良く言われてる事だけど、0から1を見つけ出すって、本当に難しいから。
俺はありがたく、その昔の偉人達の知識をひけらかしてこの世界で成り上がっていこうと思ってます。先人さんありがとう。
まあ、俺のふわっとした合ってるのかも分からない知識を、正確に理解して形にしてくれるエリザベスや、生産部の連中も凄いと思うけど。
エリザベスなんて、自分で浮力の計算とかしてるからね。この子まだ10歳なんだけど。
天才ってのはこういう子の事を言うんだろうね。凡人の俺はこういう子達の才能を腐らせないように、自由にやらせるのみ。
まだ子供だから活動時間は制限させてもらうけどね。という事で。
「エリザベス、今日はここまでだ。今日は親方の所に行ったりと、忙しかったからな」
「まだ出来る」
「出来ません」
お前は自分が思ってるより体力がないんだぞ?
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