第202話 設計図


 この港街1番の造船所をクロエに紹介してもらってやって来た。親方のタントスさんは、これぞ親方って感じのちょっと無愛想な感じの人。鑑定したけど、職業が高位大工でカンストしてらっしゃる。


 恩恵持ちじゃないけど、それでも優秀な人なんだろう。生産職でカンストするのって、相当キツいからね。俺達は職業が分かって、それ一筋でやってるからなんとかなってるけど。


 無愛想なのは仕方ない。領主のお願いとはいえ、いきなり商会のボンボンが来て良い気分な訳はないわなと、軽く挨拶をしてから早速造船風景を見学させてもらった。


 俺とエリザベスには親方がついてきた。一応責任者としてもてなそうという気はあるのかもしれない。いや、変な事しないように監視かな? まあ、どっちでも良いけど好都合だ。


 色々基本的な場所を回らせてもらって、ある程度の事は分かった。俺も生産職はそれなりに覚えてるからね。エリザベス達には敵わないけど、理解する事ぐらいは出来る。


 エリザベスに話を振って、どうだったかを尋ねてみる。すると興奮気味に答えてくれた。いつもは口数が少ない子だから、相当満足してるんだろう。


 後ろで親方がポカーンとしてるぞ。こんな小さい子が真面目に理解して話すとは思ってなかったんだろう。良い反応だ。


 「こちら謝礼金になります。本日はお忙しいところ見学させて頂いてありがとうございました」


 そうしてそろそろお開きの時間。親方さんに感謝の言葉を言って、気持ちばかりのお金を渡しておく。


 「どうだ? この後予定がねぇなら、事務所でお茶でも一杯飲んでいかねぇか? そっちの嬢ちゃんも、長い間むさ苦しいところにいて疲れてるだろう」


 ふぃーーっしゅ!!! 釣れたぜ! 無愛想な親方の一本釣り! わざわざエリザベスに親方に聞かせるように言わせた甲斐があるってもんよ。


 ある程度まともで向上心がある職人なら、エリザベスの目の付け所や、考え方は絶対気になると思ってたぜ。


 別にこっちからこの後お茶でも…って言っても良かったんだけどね。こういうのは、まず相手に話したいって思わせるのが大事って、前世の何かの本で見た。


 駆け引きは交渉につく前から始まってるのだー的な。まあ、正直職人相手に駆け引きしても仕方ないんだけど。いつか、貴族相手にこういう事をしないといけない場面があるかもしれないから。


 それの練習がしたかったんです。どうしても暴力からの契約が出来ない場面に陥った時とかね。


 まあ、それはさておき。


 場所は変わって工房の事務所的な場所に案内された。こっちの人間は俺とエリザベスと護衛のアリーナ。他の人間は先に帰した。


 親方側は、親方とレベルの高い職人が2名。この工房でも恐らく上の方の人間だと思われる。


 「それで。うちの工房はどうだったよ」


 「かなり勉強させてもらいましたよ。うちの子の良い刺激になったみたいで」


 「そうかい。そりゃ良かった」


 俺は隣に座ってるエリザベスの頭を撫でる。ふっかふかのソファに腰掛けて、地面に足が届いてないのが可愛らしい。


 当人はそんなの気にする事なく、足をぶらぶらさせながら、早速紙に船の設計図を描いている。


 親方達は俺と話してるように見えて、エリザベスが描いてるモノが気になって仕方ないらしい。ずっとチラチラ見てる。


 「そっちの嬢ちゃんは…」


 「エリザベス」


 「ん?」


 「嬢ちゃんじゃない。エリザベス」


 エリザベスは設計図を書きながらも一応話は聞いてたらしい。そして嬢ちゃんと呼ばれるのが嫌なのか、しっかり訂正を入れる。いつ、どこでもマイペースだね。


 「おぉ…すまねぇ。エリザベスは見た目通りの年齢か? 随分利発そうに見えるが」


 「10歳。もうすぐ11歳」


 エリザベスは質問に答えながらも、設計図を描く手は止めない。親方はそんなエリザベスに気を悪くしたような様子を見せずに、どんどん質問していく。


 造船に興味があるのかとか、物作りが好きなのかとか。とにかく気になる事はなんでもだ。エリザベスはそんな質問に対して無難に答えていく。


 そうする事30分ほど。エリザベスの手が止まった。


 「出来た」


 そう言って、船の設計図を俺に見せてくるエリザベス。30分程度で描き上がるもんなの? てか、俺に見せられても全部は理解出来ないよ。造船を見たのは今日が始めてだったんだから。


 レイモンド君は理解するのに時間がかかる子なんです。


 まあ、せっかくエリザベスが描いてくれたし見てみようかねと、なんとか頑張って見てみる。親方達が滅茶苦茶気になってるけど、とりあえず無視だ。


 「ふーむ。これは…」


 今日見た船の設計図かなと思って見たんだけど、明らかに違う。早速改良案を形にしてらっしゃる。ここにある船より大きいし、なんか帆の張り方とか複雑で多いし。こんなのスッと考えて描けるもんなの?


 「レ、レイモンドさんよぉ。良かったらその設計図を俺達にも見せちゃくれねぇか?」


 親方達が、もう辛抱たらまんって感じで聞いてくる。まあ、本職の人達に見てもらって評価してもらった方が良いんだろうけど。


 これ、今の船より明らかに大きい。新規格ってやつだ。ガレオン船って言うやつじゃないのかな? 知らんけど。


 それを安易に見せるのはちょっとなぁ。ここからは交渉タイムでしょ。穏便に契約させてくれませんかねぇ。

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