閑話 赤子


 「あーっ、だーうっ!」


 「いたっ! こいつ、中々やりやがる!」


 「うーっ! あーっ!」


 「あー! レイモンド城ファイナルエディションが!」


 俺は積み木を投げつけられたり、目の前の積み木で出来た城を破壊されたりと、散々な目に遭いながらも根気強く面倒を見る。


 最近『クトゥルフ』は結構な大所帯になってきたって事で、各部署を見回って喫緊で困ってる事はないかなんてのを聞いて回っている。


 大所帯になったとはいえ、相変わらず人員不足だし、報告書には上げてないけど、困ってる事とかあるんじゃないなと思って。


 で、色んなところを回ってるうちに、辿り着いたのは子供を育ててる場所。ここには『クトゥルフ』の人員達の子供や、スラムに子供を捨てて行ったのを俺達が拾ったりした奴らがいる。


 未だにスラムを子供を捨てる場所と思ってる奴らがいるんだよねぇ。そういうのは俺達で探し出して殺してるけど。自分で責任を持てないなら産むな、くそが。


 どうしてもやむを得ない事情がある場合はその限りでもないが。


 『クトゥルフ』の人員達の子供は、あれだ。『クトゥルフ』内で結婚した奴の子供だ。産休育休制度は取り入れてるけど、すぐに働きたいって奴もいるんだ。


 なるべく自分達で育てる方針を取るようにしてもらってるけど。やっぱり我が子は自分達で試行錯誤しながら育てるのが良いよ。親の愛情ってのは大事なんだ。


 苦しい生活だったレイモンド君でさえ、母親の愛情ってのは、死んでから理解したからね。毎日一食とはいえ、ご飯を用意してくれて屋根のあるところで寝れてたんだ。母親が死んでから、それがどれだけありがたかったか身を以て知った。


 まあ、ここに預けたら将来的な友達が出来るってものあるけど。ある程度の年齢になったら、学校みたいな教育施設に通ってもらうからそこでも出来るけどね。


 それにしても…。


 「1.2歳の子供ってこんなにアグレッシブなのか…。滅茶苦茶体力使うじゃん…」


 正直子育てを舐めてた。ここに立ち寄った時は気軽な気持ちで遊んでやるかーって感じだったんだけど、そんな生易しいもんじゃない。


 まず、とにかく目が離せない。奇想天外な行動ばっかりするし、なにかの拍子ですぐに泣く。一人が泣き始めると伝染するように泣く子が増えるし、あやすのにも一苦労だ。


 「ふふふ。苦戦してらっしゃますね」


 「ああ。本当にこんなに体力仕事だとは思ってなかったよ」


 ここで働いてる奴が、抱っこ紐で前後に子供を抱えつつ、更には手で子供を抱き抱えながら、慈母のような表情でやってきた。


 「きつくないか? 報告書では特に問題ないって書いてあったけど」


 「ええ。勿論体力はそれ相応に消費しますけどね。ここは設備も整ってますし。ここの子達は幸せ者だと思いますよ。それにやっぱり子供が好きですから」


 こいつは、元娼婦だったお姉さんなんだけど、子供好きでここの施設で働く事を自ら立候補してきた。職業的にも向いてそうだったしね。


 「何か困った事があったら、すぐに報告してくれよ」


 「ええ。今でも十分過ぎる配慮は頂いてますけどね。何かあったらお願いします」


 ここは魔道具やらなんやらで、環境だけなら秘密基地の中でもトップクラスに良いからなぁ。甘やかしすぎかもしれんが、これぐらいの歳の子達は、これぐらいしないと死んじゃいそうで不安なんだよね。


 「あ、こら。これは食べ物じゃないぞ」


 積み木を口の中に入れようとしてた子から、取り上げて軽く注意する。取られた子はきょとんとして分かってなさそうだけど。まあ、仕方ないよね。


 可愛いなぁ。俺は前世では子供好きって訳じゃなかったと思うんだけど。今世も孤児救済を目標に掲げてるけど、それも好きって訳じゃなくて、見捨てられないって気持ちの方が強いからだし。


 いや、それは好きだからなのかな? 自分の事だけど、良く分かんないや。

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