閑話 戦闘訓練


 「それも見たっ!」


 「んにゃろう! これならどうだ!」


 「へへーん! それは予想出来てたよっ!」


 「むきーっ! それならこうだ!」


 「流石に雑過ぎー!」


 『クトゥルフ』が大きくなってきて、色々やる事が増えた。人員不足で無能な俺も働かないといけないくらいだ。


 それでもなるべく戦闘訓練は毎日行うようにしている。こういうのは一日でもサボるとすぐに鈍るって聞くからね。


 で、早起きして時間を作って、秘密基地の訓練所に向かうと、朝から元気良くローザが暴れ回ってた。鋭い嗅覚で見つかった俺は、当然のようにローザに模擬戦に誘われた。


 とにかく体を動かす事が好きなローザは、毎日のように深層で魔物を狩って実力を高めてる。色んな人と模擬戦もして、恩恵の戦闘学習を駆使して、今では名実共に『クトゥルフ』No.2の実力者になっているのだ。


 俺も最低限のレベリングと訓練はしているが、この模擬戦ではっきりと分かる。まぐれでしかローザに勝ててないと。


 『クトゥルフ』No.1のアンジーですら、最近危機感を覚えて訓練とレベリングに力を入れているぐらいだ。


 「くそっ。ローザが搦手の対応も出来るようになってから手が付けられんぞ」


 「レイモンドはねー、性格が捻くれてるのに、攻撃は意外と素直で単純だから読みやすいんだよー! 師匠の方がもっと意地悪な事してくるんだから!」


 「素直…単純…」


 まさかローザにそんな事を言われるとは。お前だって、ちょっと前までは単純だったじゃないか…。目を離した隙にかなり技量を上げよってからに…。


 これに付き合わされてるマーヴィンとか、チャールズはたまったもんじゃないだろうな。レベル差がそんなにない俺でも圧倒され気味なんだから。技量に関してはあいつらの方が俺より上かもしれん。いや、俺より上じゃないと、ローザに付き合えないだろ。


 ………あいつらにもう少し給料と休暇をあげるべきだな。カタリーナに言っておこう。


 「レイモンドはその棒を二本使うの辞めたらー? 二本を動かす事に気を取られて動きが単調になってるんだと思うよー。一本の時の方が強かったような気がするー」


 「やっぱりそうか。アンジーにも言われてるんだよね」


 俺のメインウェポンはただの棒である。まあ、ミスリルで作ってあるけど。棒術師の職業を取ってから意外としっくりきたから、体術と棒術、それと魔法が俺の主な手札だ。


 初めは一本で頑張ってたけど、ローザが二刀剣聖なんて職業を取得してから、俺も二刀流に挑戦していた。あわよくば新しい職業が生えないかなって。


 でも、職業が生える気配もないし、ローザには二刀流にしてるから弱いんじゃないかって言われた。二刀流を初めたての頃には、アンジーにも辞めといた方が良いんじゃないって言われてたんだ。その時は職業が生えるのか検証したくて、強行したんだけど。


 今思えばアンジーは勘で向いてないのがうっすら分かってたんだろうな。


 「一本にするか」


 「それが良いよ! じゃあ気を取り直して後十回ぐらい模擬戦しよっか!」


 俺よりも戦闘が達者な二人に辞めた方が良いって言われてるのに、意地張って続ける意味もないか。別に戦闘に関しては一番になりたいと思ってる訳じゃないけど、それでも組織のボスとして、そこそこの強さは持っておきたい。


 前に傘下に治めた『ネイビー』のボスの時みたいに、ある程度力がないと舐められたりする事もあるしね。


 まあ、それはさておいてだ。


 「くっ!」


 「まだまだいくよーっ!」


 身の丈以上の大剣を二本、巧みに振り回してるローザを見ると理不尽を実感しちゃうよね。


 俺が向いてないって言われた二刀流で、棒よりも扱いが難しそうな大剣を二本振り回して。身体強化を使って高速軌道、風魔法を刃に付与して猛攻。


 これに対処して勝ててるアンジーの偉大さが良く分かる。あの二人が模擬戦をしてると、これがヤムチャ視点って悟りを開きそうになるくらいだ。


 まっ、せいぜい舐められない程度に頑張りますかね。


 多分こんな感じのモチベーションだから、戦闘に関しては俺はあんまり伸びないのかもだが。でも、このモチベーションだから、ローザ達と訓練出来てるってのもあるんだよな。


 人間高すぎる壁を見てしまうと、諦めるか、追い付こうと努力するか、俺は俺、よそはよそと割り切るか。こういう思考になっちゃうと思うんだ。


 俺がレベル999になったら勝てるかもだが、それはレベルの暴力だからなぁ。技量では一生及ばないかもしれないし、限界突破の方法が分かればそのアドバンテージはなくなるし。


 なんとも世知辛い世の中である。恩恵が二つあるのに贅沢かもしれないけどね。

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