閑話 ちょっとした問題
「やっぱり問題だよな」
「えぇ。問題よ。戦闘能力と同じぐらい重要と言っても過言じゃないわ」
俺とアンジーは秘密基地の温泉に入りながら、ある悩みを抱えていた。
「でもなぁ。都合の良い人間が…。考え無しにマーヴィンとかチャールズを裏社会方面に使ったのは悪手だったか。いつもこう。その場のノリで行動するから、こういう時に困るんだ」
「今に始まった話じゃないわね」
「そう思うなら、思った時点で注意してくれよぉ…」
「私はボスに忠実な部下だもの。ボスの決定には逆らえないわ」
「都合の良い時だけそんな事言っちゃって。面白くなさそうな時は普通に断るくせにさ」
俺は温泉に顔半分浸かりぶくぶくしながら、ちょっと不貞腐れる。まだそこまで急ぎじゃないけど、そろそろ決めておかないといけない事があるんだ。
「ローザの手綱を握れる奴か…」
「難しいわよねー」
後半年ぐらいでローザは15歳。異世界では成人の年齢になり、本格的に傭兵稼業で名前を売ってもらおうと思っている。今、力を入れてる港街ディエルの宗主国である、パラエルナ王国。
ここは戦争が絶えない小国家群にいくつか属国があり、傭兵の仕事はたくさんあるのだ。中にはどれだけ有能な傭兵団を抱えてるかが、貴族の中で一種のステータスになってるくらいには、傭兵団というのは人気である。
この辺の地域の少年少女達は、冒険者になって英雄になるっていう青臭い夢よりも、傭兵になって名前を上げて貴族のお抱えになるって方が現実味があるくらいである。
で、俺達もクロエを味方にした事だし、それに乗っかって、ローザ率いる傭兵団をクロエのお抱え傭兵団としてデビューさせようと画策してた訳だが。
まあ、ローザ率いるってのが、もう不安要素でしかないよね。あの純粋ピュアっ子が、現場で交渉なんて出来やしない。出来る訳がない。あの子は勉強も毎日嫌々頑張ってるが、やっぱり本質は脳筋なのである。
ある程度はクロエの方で交渉やらをしてくれるが、それでも現場での対応、お偉いさんとの話し合いとか色々あるだろう。それをローザがそつなくこなす? 無理だね。
純粋なのは美点でもあり、欠点でもある。年がら年中馬鹿みたいに戦争してる奴らだから、脳筋ばかりだと思いたいけど、中には腹黒い奴らもいるだろう。そういう場合、純粋なローザではすぐに騙されてしまう。
ローザは武力の象徴として君臨してくれるだけで良い。後は優秀な副官がサポートする。そういう体で行こうと思ってたんだが。
「優秀な副官候補がいないのである」
「私はやっぱりマーヴィンを推すけどねぇ。長年ずっと私の事を支えてくれていたし、傭兵界隈の事情もそれなりに詳しいわ」
「それなぁ。でも裏社会の方でも重宝してるんだよ。俺達の中で一番現場調整が上手いまである」
多分あいつはどこの部署に放り込んでも、上手く仕事をこなすだろう。かなり使い勝手の良い人材なのである。
で、今は裏社会の事を任せてるから、ちょっと外しにくい。なんか、こう、丁度良い人材が生えてこないもんか。
まあ、アンジーはこんな事言ってるけど、アンジーも交渉系は実は結構そつなくこなすんだよね。アンジーの場合は出来るけどやらない。ローザの場合は出来ないから出来ない。この差はあまりにも大きいです、はい。
「一応そういう教育もしてるけど、こればっかりは教育だけじゃな。経験も重要だし、習った事を本番で出来るかって問題もある」
「あー、普段は出来ててもいざ本番になると慌てて何も出来ないって子も多いものね」
やっぱりマーヴィンを引き抜くか。裏社会の方は…チャールズとアハムに頑張ってもらうとして…。
「後はカタリーナを裏社会の方に詰めてもらうようにして、それと一緒に経験の浅い奴らを実戦で教育しながらって感じが無難か?」
「そうね…。マーヴィンの負担を考慮しなければそれがベストじゃないかしら?」
「ふむう」
マーヴィン一人にローザの面倒やら、交渉やらを押し付けるのは負担が大きすぎるか。やっぱりなんか丁度良い人材がもう一人必要である。
出来れば、武力方面でローザに喰らい付いていけそうな人材なら尚良しである。そんなのは恩恵持ちを見つけるしかないんだが。
正直ディエルに来れば2.3人は確保出来ると思ってたんだよなぁ。目論見が甘すぎたぜ。
まあ、こんな事言ってますけど、俺もあんまり交渉とかはあんまり得意じゃないからね。ローザの事は強く言えない。職業技能に任せてるだけだし、困ったら暴力からの契約だし。
………あれ? 俺ってもしかしてローザより酷いのでは?
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