第198話 実態


 ☆★☆★☆★



 「大司教様。ご報告が」


 ディエル領の領主の屋敷よりも煌びやかな聖堂。その最奥の部屋で、大司教と呼ばれたでっぷりと太った男は複数の女性を連れ込んで乱痴気騒ぎをしていた。


 連れ込まれた女性は白目を剥いたり、よだれを垂らしたりと、とても正気を保ってるようには見えない。しかし大司教や、報告に来た助祭もその女性達を気にする事はない。


 大司教は顎をたぷんと揺らして、顔だけで報告を促す。助祭もその対応には慣れたもので報告を開始する。


 「先日からスラムの実験施設からの定時連絡が途絶えていました。確認の者を送ると、研究者は行方不明。資料も全て無くなり、素体も全て処理されていたようです」


 「実験施設? 一体なんのだ?」


 「安価で『スティグマ』を生み出すという…」


 「ああ。あれか」


 ライラルト教会は大陸中の様々な場所に実験施設がある。大司教は教会の中ではそれなりに上の立場という事もあり、色々な実験施設の事を知っていた。


 色々ありすぎて、現在滞在しているディエル領の実験施設は何の施設かど忘れしていたが。


 「原因と研究者の行方は?」


 「現在調査中ですが、分かっておりません。何分活動していた場所の目撃者は、ほとんどが薬物中毒者なので。まともな情報が集まりません」


 「ふん。こういう時はクスリは面倒だな」


 「ええ。制圧するのは楽なのですが」


 大司教は既に正気を失った女性を足蹴にして鼻で笑う。助祭もその光景を見て嘲笑していた。これだけでいかにライラルト教会という組織が腐敗しているかがよく分かる。


 「誰がやったかは分からんが、あの資料や研究を見られたのはよろしくないな」


 「はい」


 「本部に早馬を送って『スティグマ』を送ってもらうように要請しろ。迅速に事態を収拾させねばならん」


 「承知しました」


 「わしは領主に教会の重鎮を何人か招く事を言って根回ししておこう。クフフフフッ。あの領主も良い女なのだ。いつかはわしのモノにしたいのぉ」


 大司教は下卑た笑みを浮かべながら、部屋から出て行く。欲望に染まり切ったその思考は女性を滅茶苦茶にする事しか考えていない。


 「おい。その女達はもう飽きた。お前達に下賜してやる。好きにするが良い」


 「ありがたく」


 これが神の名の下に好き放題しているライラルト教会のほんの一幕。『スティグマ』という圧倒的武力によるなんちゃって神罰によって、神に仕える者達とは思えない行動を繰り返している。


 これだけ好き放題やっていても、教会の醜聞が世間に広がらないのは、内部からの裏切りがほぼ皆無な事や、情報が漏れた場合はまとめて消し去る力があるせいである。


 偶に心底教会の事を思った者が現れるが、すぐに消されて、クズしか残らない。どうしようもない悪循環にしかなってないのだ。


 今までは神罰に恐れて表立って教会に反抗する勢力はほぼ皆無であった。しかし、神罰の仕組みを理解し、現在の教会の在り方を不快に思ってる勢力が現れた。


 今はまだその組織はライラルト教会に認知もされていない。しかしいずれ『クトゥルフ』というイレギュラーが大陸を我が者顔で好き放題しているライラルト教会に、本物の神罰を落とす事になるだろう。


 まずは手始めにディエル領にて。

 ライラルト教会が絶対の信頼を置いている『スティグマ』が。

 ただの証拠隠滅に派遣された楽な仕事だったはずなのに。


 七人も失ってしまうのである。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 はい。という事で今章は終了です。


 章途中で更新が止まってしまい申し訳ありませんでした。近況ノートにも書きましたが、ぎっくり腰にやられてしまいまして。悶え苦しんでました。今は復活しましたが、再発にビクビク怯えております。


 次章は教会の最高戦力と初邂逅です。一体どれだけの強さを誇ってるんでしょうねぇ(すっとぼけ)


 ではではまた次章で〜。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る