第197話 秘密基地から帰還して


 ☆★☆★☆★



 「疲れたわ…」


 「ああ…」


 レイモンド……ボスがいる秘密基地から帰ってきた。転移って凄い便利ね。これだけで流通、戦争の常識が一変するわよ。やっぱり『狂姫』を手懐けてるボスは只者じゃなかったって事ね。


 「今日は色々な事がありすぎたわ」


 「俺は今日、絶対に拷問の夢を見るよ」


 夫のエスピノーザは寝るのが憂鬱だって顔をしてるわ。側から見てたら顔に針を刺されてただけなのだけれどね。どうも、この世の痛みを凌駕するような痛さだったみたい。


 「まさか軽く顔合わせをして『狂姫』の飼い主を見てみようと思ったのがこんな事になるなんてね」


 「流石にあんなに大きな事を考えてるとは思ってもなかったね。薄々感じてた教会の闇まで聞かされて…。あっという間に渦中に放り込まれちゃったよ」


 「でも、結果は悪くないわよ? あんな理不尽な力を持った組織が味方についたもの。今まで手が出せなかった教会もそうだし、スラムの管理までしてくれる。有無を言わさず契約されたのに思うところはあるけれど」


 「やってる事は過去の魔王と変わらないように思えるんだけど」


 かつて、奴隷の首輪を大量に生産して全ての人間を支配しようとした魔王。ボスがやってる事は確かに似た様な事かもしれない。平気で殺しもやってるみたいだし。


 でもボスの一応の目標は、裏社会から経済と生産を支配して密かに、緩やかに人間達を支配しようとしている。犠牲も過去の魔王よりは少ないでしょうし、教会の方がよっぽど悪どい事をしている。


 どっちに付くのかって言われたら『クトゥルフ』一択よね。旗色は早めに決めておかないと、いつの間にか教会対『クトゥルフ』の戦いに巻き込まれて蚊帳の外になってしまう。早い段階でボスに出会えたのは幸運なんじゃないかしら。


 「とにかく今は私に課せられた仕事をこなしていくのみだわ。転送箱も無料でもらえるみたいだしね」


 「あれかー。まあ、転送箱は広めれば広めるだけ効果を発揮するしね。最初話を聞いた時は凄いものを発明したものだって思ってたけど、まさか情報を全部抜き取る為だったとはね」


 「貴族や商人は一度これを見せられると飛び付かずにはいられないわよ。全く、悪どい発明よね」


 まだボスの正体を知られてない頃に説明受けた転送箱。私も実態を知らなかったら間違いなく飛び付くわ。実際買えるだけ買おうとしていたし。その分送られてくる情報を処理する人間は大変でしょうけど、相手の弱みを握ったり、先んじて情報を入手出来る有利は計り知れない。


 正直これを広めるだけで、ある程度上流階級を支配出来ると言っても過言じゃないわ。


 「あ、そういえばピグー子爵を始末したって言ってたわね」


 「ああ…。毎日の様に街に繰り出しては馬鹿をやらかしてたのに、最近は屋敷から出てくる様子がないって、報告があったから不思議だったんだけど、まさか既に始末されてるとは」


 「『クトゥルフ』の秘密基地にピグー子爵に仕えてた人間が何人かいたわよ。有能な人間は支配下に置いて、それ以外は始末する。合理的って言えば良いのかしら?」


 「冷徹が正解じゃないかな? あの見た目からは想像しにくいけど」


 殺すのは基本的にクズだけとは言ってたけれど、それの線引きが分からないのよね。付き合っていくうちに分かるようになれば良いのだけれど。


 私達もヘマをすると切り捨てられたりするのかしら? ボスと付き合いの長い人に人となりを聞いてみたいわね。


 「連携を取るように言われたホルト君にでも聞いてみましょうか」


 「あんな子供にほぼ商売の全権を委任してるのも凄いよね…」


 それはそうね。秘密基地で顔合わせはしたけれど、見た目は確かに利発そうだったけど、まだまだ成人もしてない子供だった。


 それなのにボスからの信頼は厚い。これも恩恵のお陰という言葉なのかしら。私にもあるみたいだけど、言われてみてもいまいち効果が分かりにくいのよね。人をまとめるのが上手いって言われても…。


 恩恵が無くても出来る人には出来るわよねって思っちゃうわ。意識して使いこなせばもっと効果を発揮してくれるのかしらね。


 その辺も考えてこれから頑張っていきましょうか。

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