第195話 勇者と魔王


 「成人もしてない少女に負けるのか…」


 「チャル兄よりも弱ーい」


 「はい、じゃあ始めるよー」


 秘密基地に大体の主要メンバーが集まった。サラは冒険者として護衛任務の最中で不参加だけど。後で議事録を転送箱で送っておこう。


 会議が始まる前に、エスピノーザがローザと模擬戦をして惨敗。成人もしてない子に負けてかなりショックを受けてるけど、それを無視して話を進める。ローザに勝つのはカンストしてても無理だよ。


 無邪気故のストレートな弱いという言葉にエスピノーザは自信を喪失しそうだ。今日の昼の会談では、アンジーになす術もなくやられて軽く拷問され、秘密基地に来てローザに負ける。メンタルはズタボロだろうね。


 後でケアしておこう。


 「じゃあ、ある程度顔合わせと紹介も終わったって事で。クロエには聞きたい事があるんだけど」


 「勇者と魔王の事ね?」


 「そう。光魔法が使えるのは勇者と聖女だけなんだって?」


 「そうね。代々私の家ではそう言われてるわ。遥か昔になるけれど、私のご先祖様が勇者パーティーの一員だったらしいのよ。だから、他よりも詳しい情報が残ってるの」


 「ほー」


 「勇者は魔王が誕生する頃に、対抗する者として生まれてくるわ。勇者が生まれると教会の教皇か聖女に神託が下って、勇者は丁重に保護されて、魔王との戦いに備える為に色々勉強や訓練を施されるそうよ」


 「ふむ? 勇者は野良でいたけど?」


 「それがおかしいのよね…。教会がよっぽど腐ってて神託を受け取れる人間がいないとか…」


 アーサー君は野良で冒険者として頑張ってますよ? なんか直感的に生理的に受け付けない人間だったから、監視の人間をつけて放置してるけど。偶に情報源になったりします。


 「でも、勇者が生まれてるって事は魔王も生まれてるって事だよね? で、魔王は闇魔法を使うと」


 「そうよ。魔王と言っても、御伽話みたいに魔物の王様って訳じゃないの。元人間が世界から災厄認定されると、魔王になるとかなんとか。詳しくは分からないわね。今出回ってる奴隷の首輪なんかも、過去の魔王が作り出した産物よ」


 なるほどなるほど? 奴隷の首輪って遺跡から発掘されたとか聞くけど、もしかしたら過去の魔王の根城から見つけられたものとかかもしれんな。


 「魔王はいくつもの技能を習得した上で、奴隷の首輪で人類を隷属させて世界を支配しようとしたわ。志半ばで勇者に討たれたけどね。あなたの複職の恩恵と似てないかしら?」


 「似てるけど…。え? 俺って魔王なの? スラムで死にそうになってたのに?」


 クロエ達には、既に俺の生い立ちとか恩恵、能力について説明はしてる。だから、俺の複職が過去の魔王に似てるなって思ったらしいけど…。


 アーサーの勇者の職業みたいに、魔王の職業は俺にはないよ? それに、俺の意識というか、記憶が戻らなかったらレイモンド君は死んでたと思うよ? 全身の骨が折れて餓死寸前だったんだから。


 まあ、仮にあの場面でレイモンド君が生き残ったりしたら、人間に悪意を抱いて世界の敵になるのもあり得る話かもしれないな。ボコボコのボコだったし。


 それだけで世界を恨む程かって言われたら微妙だけど。他にも何かレイモンド君を絶望させるイベントとかあったのかな? この辺はダンとカイルに情報を仕入れてもらおう。


 「でも、俺に光魔法もあるよね?」


 「それが不思議なのよね…。転生だったかしら? そのせいでそうなってるのか、別の理由があるのか…」


 え? まさかレイモンド君が勇者ルートも用意されてる? ちょっと俺に勇者は似合わないから、そういうのは勘弁願いたいね。


 アーサー君がきっとなんとかしてくれるよ。知らんけど。魔王討伐を目指してるのかどうかも知らないし。邪魔になるまでは俺たちの貴重な情報源として頑張ってもらおう。


 もし、魔王が俺ならアーサー君はいらないんだけどな。その場合魔王特攻なんて害でしかないし、さっさと情報を抜いて処理したい。


 アーサーを生かしてるのは、勇者にしか魔王を倒せなかった場合の事を考えてだからね。俺が魔王なら生かしておく意味がない。


 なんなら早めに殺しておくべきだ。古き良きRPGみたいに、勇者が育つのを待つ必要なんてない。舐めプをせずに雑魚のうちに殺しておくのが正解なのである。


 「何か俺が魔王って確信できる事があれば良いんだけどなぁ」


 アーサーからの情報待ちかな。

 

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