A-10話 帝都へ


 「もうすぐだな」


 「うん。ここまで長かったよ」


 アーサー、ダン、カイルはペテス領を離れて、帝都へ向かっていた。資金にそこまで余裕がある訳ではないので徒歩での移動。


 道中の街の冒険者ギルドで護衛の依頼があれば引き受け、資金を出来るだけ減らさないようにしつつ距離を稼ぎ、後三日程で帝都に着くというところまで来ていた。


 日が暮れて来たので野営の準備。二ヶ月近く旅を続けてきたのもあって、野営の準備は慣れたもの。三人で協力してパパッとテントを建てて野営飯を食べる。


 「しっかし、あれだな。俺は田舎から出て来たから、そこまで知らなかったんだが、どの街にも立派な教会がありやがる。領主の屋敷より立派なんてのもザラだ。それだけ信仰されてるって事なのかねぇ」


 「俺は趣味が悪いと思うがな」


 ダンとカイルは思い出したかのように、これまでの街で見てきた教会について言及する。これは転送箱で定時連絡をした時に、レイモンドが教会の事を、アーサーから聞けたら聞いといてと、雑にお願いされたからだ。


 「カイル、そんな事言っちゃいけねぇよ。いつ神罰を落とされるか分かったもんじゃねぇぞ。なんでも、神様の事を貶したりすると、消されちまうみてぇだからな」


 「心の狭い神様もいたもんだ」


 「おい、やめとけって。アーサーからも言ってやれよ」


 「うん? うん、そうだね…」


 「なんだ? 煮え切らねぇ返事だな」


 (教会…ライラルト教会か。確かメインストーリーにも絡む一大組織だったよね。ラノベでは、教会や宗教組織は悪く書かれるのがテンプレで、ライラルト教会もそのテンプレ通りのクズ組織だ。物語が進むとランダムエンカウントする『スティグマ』の襲撃には何度もイライラしたよ。レベルが上がってない状態でエンカウントするとほぼ負けるんだもん)


 「実は神罰は嘘って噂があるんだよ…。僕もちょっとした人伝に聞いた事だから、確証はないんだけど」


 「どういう事だ?」


 アーサーは二人に教会についての情報は教えておいた方が良いと判断した。まだ教会とは敵対ルートに入っていないが、魔王討伐をしようとすればいずれぶつかる組織なのだ。


 それまでダンとカイルが一緒に居てくれるかは分からないが、神に仕える人達だからと盲信されたままでは困る。そう思って、アーサーは人から聞いた話という事にして、ゲーム知識を二人に説明する。


 本来この世界の人間なら、誰に聞いたのだとか、そんな話は信じられないと突き放したりするようなものだが、生憎二人は普通じゃない。


 定時連絡で『スティグマ』の事も聞いているし、教会の実態がクズだというのも知っている。ダンとカイルは、アーサーの事を信じてるぜとばかりに、話の続きを促した。


 「教会は神罰って言い張って、自分達に都合の悪い人達を消してるらしいんだ。秘密の実行部隊でね」


 「そんな事が出来るもんなのか? 噂ではかなり力を持った領主とかも、神罰で消えたりする事があるみてぇじゃねぇか。仮にその秘密の実行部隊がやってるにしても、実力差が相当離れてないと、証拠を残さずに神罰に見せかけるなんて出来ないだろ?」


 「その秘密の実行部隊が相当強いって事なんだと思うよ。ダンとカイルも強いけど、多分それ以上にね」


 (『スティグマ』の実行部隊は、最低でもレベル250を超える。ドラゴンの部位を体に移植したりしてるからね…。人数は五百人しか居ないから、それだけは救いかな。強くなって少しずつ数を減らしていくのがゲーム時代の主流なやり方だった)


 「なんか一気に壮大な話になっちまったな。それにしてもそうか…。俺達より強い可能性があるのか…」


 「最近強くなってる実感がねぇんだよな。前までは魔物を倒しまくってたら、力強さが上がったり、素早く動けたりってのがあったんだけどよ。最近はてんでダメだ」


 (レベルがカンストしたのかな? それならこの世界では相当上澄みなんだけど々…。ほんとこの二人はなんなんだろう。二人は未だに師匠には敵わないだろうって言ってるし、やっぱり恩恵を持った456上限の人なんだろうなぁ。カンスト上限を突破をする方法があるのは知ってるんだけど、ゲーム時代はモブの事なんて気にしてなかったから、やり方が分からないんだよね…)


 アーサーはゲームをもっとやり込んでおけば良かったと後悔した。この世界に来てから何度も思った事だが、中途半端にしか知らない事が多すぎるのである。


 これがハーレムにしか興味がなかった弊害である。でも自分がやってたのはエロゲーなのだ。エロにしか興味がなくても仕方ないじゃないかと、心の中で自己弁護して、アーサーは食事の片付けを行った。


 

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