第193話 情報の濁流


 「まあ、そんなこんなで俺には野望があるわけ。それに協力してもらうために領主であるクロエと、ついでにエスピノーザと契約した訳だな」


 「契約はほぼ強制だったけれど…」


 「なんだかんだこれが一番手っ取り早いんだよ」


 教会についての情報の擦り合わせが終わったところで、俺の今後の目標やらなんやらを説明する。


 とりあえず契約がチートすぎる。ある程度力があればこれ一本で勢力を増やせるからね。闇魔法の適性があって本当に良かった。


 「教会がそんなところだったのが一番の驚きよ。陛下は実態を知ってるのかしら…」


 「どうだろうなぁ。俺がお偉いさんなら、神罰なんて都合の良いシステムは、調べたくなるけど。調べた人間が全員消されてるなら知らないかもね」


 「『スティグマ』だったかしら? 見た事ないのよね?」


 「ない。『聖域』にちょっかいを出したから、もしかしたら出てくるかなと期待してるけど」


 「随分な自信ね。今まで人知れず邪魔者を処理してきた秘密組織よ? そこの『狂姫』だけじゃ荷が重いんじゃないかしら? それとも、他に戦力のアテがあるの?」


 あー。まあ、うちの最大戦力はアンジーだけど、それに匹敵するのは控えてるからなぁ。そこら辺は言ってなかったか。


 「とりあえずアンジークラスのが二人、いや、俺を入れたら三人か。こっちのアリーナも成長途中だし、囲ってる冒険者にも有望株が一人。後はエスピノーザクラスなら大量にいるぞ」


 「ちょっと待って」


 「なんだ?」


 「『狂姫』…アンジェリカみたいなのが他にもいるの?」


 「いるぞ」


 「考えてみればそうよね…。アンジェリカを話し合いで契約なんて出来る訳ないもの…」


 「いや、アンジーは穏便な話し合いで契約してもらったぞ?」


 「あれを穏便な話し合いと言えるボスの頭の中がどうなってるのか知りたいわね」


 情報の濁流にクロエが戸惑ってると、アンジーが横から少し不満そうに訂正してきた。


 「どういうことだい?」


 それに今まで空気だったエスピノーザは気になったのか話を聞いてきた。エスピノーザは自分クラスの人間が大量にいる事に目をひん剥いてたけど、それよりアンジーをどうやって籠絡したのかが気になってるみたいだ。


 まあ、噂を聞いてる限り、アンジーが誰かの部下になるなんて考えられないよね。俺の中では割とすんなり引き込めたと思ってるんだけどさ。


 って事で、俺の壮大なマッチポンプを聞かせた。あれは今思い出しても、異世界生活で一番きつかった。味方に引き入れてアンジーの強さを知ったからこそ、色々紙一重と偶然が重なって良い感じにまとまったんだと。


 予想外にゴドウィンを殺しちゃったりしちゃったしね。


 「帝国の騎士団長であるゴドウィンの行方不明事件は知っている。まさかそんな事になっていたとは…」


 「どうしてもアンジーを味方にしたくて。当時の拠点は失ったけど、その価値を差し引いてもあまりあると思ってるよ」


 アンジーの噂を知ってからは、かなり無謀な事をしてたと思ったね。気分次第で出来たてほやほやの『クトゥルフ』が潰されててもおかしくなかった。


 「それに…その…話を聞かされても君が戦えると思えないのだが…」


 「擬態は上手く出来てるって事だな。まあ、今回はアンジーのネームバリューでそっちにしか目が行ってなかったってのもあるんだろうけどさ。機会があれば俺の実力を見る事もあるよ」


 別に勿体ぶるような強さをしてる訳じゃないけど。未だに模擬戦ではアンジーに勝ち越せないしね。ローザはまだ考えが子供っぽいから、五分五分に持っていける。カタリーナは接近出来るかどうかで、戦績がガラッと変わる。魔法の撃ち合いでは勝てん。


 精霊がズルすぎるんだ。あいつら、大精霊になってからある程度自己判断で攻撃したり、防御してきやがるからな。明らかにカタリーナは指示してないのに。


 まあ、俺は別に最強を目指してる訳じゃないけどさ。勿論負けたくないし、ボスとしての威厳的なのが欲しいから一定以上の強さは維持しようと思ってるけど。


 「とりあえず『スティグマ』に対抗出来そうな人材がいるのは分かったわ。俄かに信じがたいけどね。それで? これからどうするのかしら?」


 「まずはこの屋敷の制圧だ。クロエとエスピノーザを手中に収めたとしても、使用人とか騎士にもある程度働いてもらわないと、上手く回せないだろ? クロエ達には俺の野望の手助けをしてもらいたいけど、この領地も運営してもらわないとだし」


 「仕事が増えるわね…」


 それはそうですな。増えるのは間違いない。まあ、そこは俺達も手伝うし。主に裏社会面と商売面で。


 後は騎士達へのテコ入れもだな。その辺はペテスの騎士達にもやってるし、同じようにやれば良いだろう。表向きは教会と敵対する可能性があるし、刺客が送られてこないとも限らない。


 また忙しくなるなぁ。

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