第191話 話し合い


 「い、一体なんのつもりかしら?」


 商人ムーブをした後、結局どうやって契約するかを考えた結果、実力行使する事にした。これがなんだかんだ一番手っ取り早いんだよね。


 これをするなら商人ムーブが全部無駄になる訳だけど、まあ、権力者との商人ムーブの練習が出来たとプラスに捉えておこう。


 領主のクロエは、なんか可愛らしい声を上げた後に、なんとか平静を装ってるけど、目に見えて分かるぐらい冷や汗をかいてる。


 エスピノーザはなんとか隙を探して、アンジーから逃げようとしてるけど、それは無理だねぇ。その距離で武器を持ったアンジーから逃げれるのはカタリーナくらいだ。あいつは精霊がずっこいからな。


 俺はクロエの問いには答えず、消音の魔道具を設置して外に声が漏れないようにする。これでようやく本番だ。


 「さて、領主であるクロエさんに聞きたい事があります」


 「こ、こんな事されて素直に答えると思う?」


 「答えてもらいますよ。何をしてでもね」


 「お前達、領主に刃を向けたんだ! こんなの公になればタダじゃすまないぞ!」


 「全員殺せば公にならないですよ」


 クロエとエスピノーザは、やはり反抗気味だな。剣を向けられたぐらいじゃ素直に話してくれないか。


 まあ、全員殺せばって言ったけど、殺したら間違いなく問題になるよね。本当にそれぐらいやるよって分かってくれたら良い。


 こういう時にはアンジーの異名が役に立つな。アンジーなら本当にやりかねないと思ってくれる。俺が言ったところで、木っ端商人の戯言としか思ってくれないだろう。


 「とりあえず契約するか。話はそれからだ」


 「闇魔法!? それは…っ!」


 俺が魔法を使ってクロエに契約を持ちかけると、なんかめっちゃびっくりしてた。まあ、闇魔法持ちって未だに俺しか見た事ないからなぁ。カタリーナは精霊の助けで使えるけど。


 よっぽど希少なのか、それとも何か理由があるのか。クロエは何か知ってる風だな。後で聞いてみよう。


 「こ、こんな条件! 受け入れられる訳がないわ!」


 「そうですか。アンジー」


 「はいはい。ええっと…確かこの辺だったかしら?」


 「あ、あがぁぁぁぁぁあ!」


 「あはっ! 勘だけど上手くいったわ」


 クロエは契約の条件を見て拒否してきたので、アンジーにお願いしてエスピノーザの頬に針を突き刺す。一番手っ取り早い拷問方法だ。


 「あなたが了承しない限り、旦那さんは苦しみますよ」


 「くっ! 卑怯者!」


 惜しい。くっ殺が聞けるかと思ったのに。美人さんでしか得られないくっ殺の栄養素だってあるんだよ。やっぱり一番聞きたいのは女騎士のだけど。


 「それで? どうします? 旦那さんで足りないなら、他の使用人とかにもしましょうか?」


 「…分かったわよ…」


 クロエは渋々契約を受け入れた。ついでにエスピノーザにも契約を受け入れさせて、針を抜き取る。


 一応光魔法で回復してあげて、拷問のせいでお漏らしした汚い現場を浄化で綺麗にする。


 「ひ、光魔法まで…? あなたは一体何者なのよ…。光魔法が使えるのは伝承の勇者と聖女だけって…。でも闇魔法も…」


 クロエがまた気になる事を言ってる。勇者? アーサー君の事かな? 俺は最初から使えたんだけど。それも後で聞こう。こいつは情報の宝庫だな。


 「これでやっと腹を割って話が出来るな」


 「どの口が…」


 卑怯で結構。卑怯上等である。グダグダと面倒な説得をするより話が早くて楽だろう。今の俺達には時間が大切なのである。目標が大きすぎるからね。不老薬も絶対開発出来るって訳じゃないから、急がないといけないのだ。


 「あなたは一体何者なの?」


 「ただの商人だよ。表向きはな」


 契約もしたって事で、敬語ももういらないだろう。畏まった喋り方は疲れるんだ。職業補正がなかったら、絶対ボロが出てただろうね。


 「お、表向き?」


 「そう。商人は金を稼ぐ為にやってるだけ。俺の野望の為には金が大量に必要になる。人件費だけでも馬鹿にならないんだ」


 本当にね。お金はいくらあっても足りないの。世界中に支店を出せれば解決するかもだが、今は結構カツカツな感じだからね。


 「俺の、俺達の本業は闇組織だ。クロエ達には俺の大きすぎる目標を手伝ってもらう。全然手が足りてないからね」


 「や、闇組織? そ、そういえば最近スラムの大きい組織が一つ潰れたって…」


 「俺の所が潰した」


 ほう? その情報も入ってるのか? やっぱりスラムの事は把握してるのかな? それならスラムの現状を放置してた事でお仕置きしないといけないんだが。


 その辺の事も詳しく聞いていきたいね。

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