第188話 ご挨拶


 「おーおー。すげぇ警戒体制」


 「ここまで歓迎されるとは思ってなかったわね」


 「アンジェリカの噂パワーは凄いのにゃー」


 領主の屋敷前に到着。見張りというか、門番の騎士が十人ぐらいいて、屋敷の中にも物騒な気配が漂いまくってる。


 これは俺達を警戒してるのもあるだろうけど、威圧も兼ねてるんだろうな。もし、そちらの『狂姫』さんが暴れたらこちらも容赦しませんよって。


 どれだけ『狂姫』のネームバリューにビビってんだ。それだけアンジーのやってる事がおかしいって事なんだろうけどさ。こっちはご挨拶に来ただけだってのに。


 もし俺が頭脳で勝負する系のもやし商人だったらチビってるところだぞ。残念ながら、カンストにも至ってない騎士の威圧なんて、秘密基地の訓練所に行けばいつでも味わえる。


 つまり俺達からするといつも通りってこった。でも、君達はどうでしょうねぇ。


 「アンジー」


 「はいはい。いつもは気配を抑えてるから、逆に垂れ流すのは新鮮ね」


 そっちがそういう対応を取るなら、こっちだってリーサルウェポンを投入しますよ。元からそのつもりだったけどね。


 御者が門番に俺達の来訪を告げて、いよいよ門の中に入り屋敷入り口の扉の前に降り立つ。


 そのタイミングでアンジーに、いつも抑えてる気配を垂れ流してもらう。俺達の馬車を曳いていた馬が若干暴れそうになったが、すぐに持ち直す。秘密基地で育ててる馬だからね。物騒な雰囲気には慣れっこなのです。


 「ぐっ…」


 扉の前で待ってた、そこそこ出来そうな色男は顔を若干顰めて耐えてたけど、他の騎士は露骨に恐怖の表情を浮かべている。



 ☆★☆★☆★


 『名 前』 エスピノーザ

 『年 齢』 35

 『種 族』 ヒューマン

 『レベル』 198/200 


 『体 力』 B/B

 『魔 力』 D/D

 『攻撃力』 B/B

 『防御力』 C/C

 『素早さ』 B/B

 『知 力』 D/D

 『器 用』 D/D


 『恩 恵』 無

 『職 業』 剣豪 

 『属 性』 無 土


 ☆★☆★☆★



 ほーう。これが噂の騎士団長さん。もうほぼカンストしてるじゃないか。後はレベルだけ。野良で見た恩恵無しの人物として、今までで最高だ。騎士団長で領主の旦那と聞いてるが、中々どうして悪くない。


 「『ルルイエ商会』で間違いないかな?」


 「はい。『ルルイエ商会』商会長のレイモンドです。本日はお目通りの機会を頂けて感謝しております。まさか、ここまで歓迎して頂けるとは。生涯の誇りにさせていただきます」


 「あはははっ。気に入って貰えたなら良かったよ」


 とりあえず嫌味を一発入れてやったけど、あんまり効果がない。ってか、多分俺との話はあんまり気にしてない。俺と喋ってるけど、意識は先に降りて俺の護衛をしているアンジーに釘付けだ。


 「じゃあ応接室に案内するよ。それと申し訳ないけど、武器は預けてくれるかな?」


 「もちろんです」


 俺はアンジーとアリーナに目配せして、武器を渡すように促す。事前の予定通り、アンジーは予備武器である刀を。アリーナは体の至る所から短刀や投擲武器を出して騎士に渡す。


 次から次へと出てくる暗器のような武器に騎士達の顔が引き攣ってるけど気にしない。実はアリーナの服自体が魔法鞄みたいになってるんだよね。


 容量は鞄型やアクセサリー型よりは小さいけれど、大量に武器が入ってる。今出したのはほんの一部だ。


 「君の魔法鞄も回収したいんだけど?」


 「私のですか? 一応こちらには、領主様に献上する品物等が入っているのですが…」


 「うん。まあ、念の為ね。その時になったら返すから」


 「分かりました」


 俺の腰に付けてた魔法鞄も回収された。まあ、これも予想通りだ。これみよがしに付けてるし。


 その後、アンジー達は女性騎士に、俺はエスピノーザに軽い身体チェックをされて、ようやく中に入れた。


 アクセサリーは取り上げない辺り、やっぱりその辺は警戒されてないな。知ってるこっちからすると、ザルとしか思えない警備体制だけど、知らなかったら警戒出来ないよなぁ。


 屋敷の中はどこぞの豚貴族の下品な屋敷と違って、上品な感じになってる。地味という訳じゃない。気品があるってこういう事なんだろうなって感じ。


 結構参考になります。


 「じゃあこの部屋で待っててもらえるかな? 領主を呼んでくるよ」


 「分かりました」


 これまた上品な応接室に通されて、俺はソファに座り、アンジーとアリーナは俺の後ろに立つ。


 部屋の中にはメイドさんが三人いて、会合の準備をしてるけど、アンジーが威圧的な雰囲気を垂れ流してるからか、泣きそうになってる。それでも、なんとか態度は気丈に振る舞ってる辺り、しっかり教育されてるんだろう。


 そこから待つ事10分程。しーんとしてた部屋に扉がノックされる音が鳴り響く。メイドさんは俺の方をちらりと一瞥してから扉を開ける。


 俺はノックの時点で立ち上がり、頭を下げて入ってくるであろう領主を迎える。


 「お待たせしました。顔を上げて下さい。ディエルの領主を任されている、クロエ・ディエルです」


 「『ルルイエ商会』商会長のレイモンドです。本日はお忙しい中、貴重なお時間を頂き感謝します」


 顔を上げて領主のクロエを見る。俺は思わずニヤけてしまいそうになるのを必死に我慢して、挨拶を返した。


 久々に見つけたぞ、恩恵持ち。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る