第185話 跳ねっ返りの指導


 「これはシャレにならんな。マジで思考が停止する」


 教会関連の情報の取り纏めを情報部のみんなにお願いして、カタリーナをディエルのスラムに送り出して、拷問部屋に戻ってきた。


 で、三叉神経の針ピンをやってもらったんだけど、耐えるとかそういう次元のあれじゃなかった。マジで思考が停止してどうにもならん。


 これに何も感じないのは、ジャブ中とか別の意味で狂ってる連中だけだろう。後は狂信者とかにも有効的なのかは後々調べていきたいところ。


 そいつらにも効くなら、この拷問方法はパーフェクトだ。マリク達は味気なくて面白くないみたいだけどね。まあ、情報を抜いたら好きにして良いんだし、更に有効的な拷問方法を見つけるまではこの方法でいこうかなと思います。敵地でやるならかなりお手軽だからね。



 「弱い弱い弱ーい!! 本当にボスだったの?」


 「く、くそっ! こんなガキにっ!」


 「基礎がなってなーい!!」

 

 「ぐえっ!」


 執務室に戻る前に訓練所を通り掛かったら、『ネイビー』のボスだったドナルドが早速ローザに転がされてた。


 レベル190で新たなローザの遊び相手として期待してたんだけど、残念ながら技術が拙すぎた。これなら、うちのカンスト組の方がまだ強い。


 今まではステータスの暴力でなんとかなってたんだろうなぁ。残念ながらうちはそういう甘えは許されない。それに今まで大剣を使ってて、急に素手で戦えって言われてるのも、戦いになってない理由だろう。


 どうしてもって言うなら、大剣を使わせてあげても良いけど、職業補正は結構馬鹿にならないからな。それは色々な恩恵を受けてる俺が保証します。


 「あ、レイモンドだ!!」


 「まだあいつは入ったばっかりなんだから、ほどほどにな」


 「ちっ!」


 ローザが尻尾をブンブンと振ってこっちに走ってやって来た。ドナルドは俺に気を使われたのが気に食わないのか、不満そうである。


 まあ、こういう奴は意外と多い。特に『クトゥルフ』に入りたての奴は。契約で縛ってるけど、気持ちまでは縛れないからね。


 「俺はまだお前がボスだなんて認めてねぇ」


 こういう風にね。契約で仕方なしに従ってる奴も多いんだ。最近は俺が前線に出て、戦って力を見せてる訳でもないから。


 こういう裏社会の奴らってのは、なんだかんだ力に忠順。力さえ見せれば、後は流れでどうにかなるんだ。『クトゥルフ』の待遇や福利厚生は貴族にも負けてないと自負してるからね。


 力さえ見せれば、後は自ずと懐柔出来る。だから俺がここでやるべき事は一つ。


 「じゃあとりあえず模擬戦でもしよっか」


 「何?」


 「えーっ! ローザもやりたーい!!」


 徹底的に俺の力を見せれば良い。特に最近入った新入りは俺の事を智略でこの組織を纏めてるボスだって思われてるみたいだし。


 俺に智略? 笑わせるね。常に行き当たりばったりでしか行動してませんが? この前もこってり怒られたところです。俺が賢かったら、もっと上手にやってるよ。


 ローザとはやりません。君と模擬戦なんてしたら、かなり時間が掛かるから。勝っても負けても疲れるし。


 「はっ! そこのガキに泣きつくのはなしだぜ!」


 「泣きつく程お前は強くない。まずはお前はこの組織内での身の程を知るべきだな」


 やっぱり俺は舐められるなぁ。まあ、容姿も女の子みたいだし、色々な職業を使って無意識レベルで擬態してるから、仕方ないところもある。


 それに舐めてくれた方が色々やり易いからね。油断してる相手ほど御し易いものはない。


 「ほら、こいよ」


 「てめぇ…」


 片手でクイクイとやってかかって来いと挑発する。もう片方の手はポケインの舐めプスタイル。ドナルドはかなりピキッてる。


 沸点が低い。この辺も要教育だな。感情で動く事が悪いとは言わないけど、戦う時は冷静にならないと、普段の実力は発揮出来ない。こんな簡単な挑発に乗るようでは、まだまだである。


 「はい、まず一回」


 大振りなテレフォンパンチを躱して、心臓に人差し指をツンと突き立てる。テレフォンパンチと言っても、ステータスが高いから、それ相応の速さではあったけども。


 「攻撃が単調すぎる」


 パンチを避けて喉に指を。蹴りを避けて、こめかみに指を。敢えてダメージを与えずにツンツンするだけ。


 今までボスの座で胡座をかいてた奴にはさぞかし屈辱な事だろう。まずはそのプライドを徹底的にへし折らないとね。


 「く、くそっ!」


 「お前の強さは戦闘部では下から数えた方が早い。いつまでもお山の大将をやってるんじゃなくて、基礎から学び直すんだな」


 俺はそう言って、最後に顎を掠めるようにパンチを打ってドナルドを気絶させた。


 「はい。次は? まだまだ不満がある奴はいっぱいいるだろ? 今日はとことん付き合ってやる」


 周りで見ていた新入り達にそう言うと、一斉に視線を逸らす。


 全く。根性が足りないな。ここでやってやらぁぐらいの気持ちを見せて欲しいもんだ。死なずに格上と訓練出来る機会は、お前達が思ってる以上に貴重なんだぞ?


 まあ、その点ドナルドは負けん気だけはあった。そこだけは認めなくもない。俺は別にそういうの嫌いじゃないしね。


 尚、後日、アンジーにコテンパンにされ、カタリーナにズタズタにされ、それはもう心を入れ替えて忠順に働くドナルドの姿があった。


 俺が力を見せつけるより、忠順になってる気がしますねぇ。一体何があったのやら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る