第184話 スティグマ


 「『地獄はもぬけの殻だ。全ての悪魔は地上にいる』とは良く言ったもんだ」


 「誰がですか?」


 「忘れた」


 シェイクスピアだったかな。俺はなんかの漫画で見たような気がするけど。その漫画も中々ハードな世界観だったから、上手い事言うなぁって、その時は思ったもんだ。


 「人間って堕ちればどこまでも堕ちれるんだな」


 「ですね。予想以上に色々知ってて助かりました」


 『聖域』の研究者達を丸一日掛けて拷問、情報収集を行った。とりあえず知りたい事は大体知れたので、これで俺とカタリーナは拷問部屋を後にする。


 三叉神経の針ピンで情報を聞き出し、聞き終わったらそれに齟齬がないか、普通の拷問をしては回復して、何度も同じ事を聞く。


 これで聞いた事と違う事を言ってたりしたら嘘って分かるからね。


 まだ生きてるけど、後はマリク達拷問官の更なる拷問技術向上の為の礎になってくれたまえ。簡単に死ねると思わないように。


 「俺の目標が一つ増えたな。裏社会を支配する。孤児ゼロ、娯楽を広める。そして新しくライラルト教会を潰すが追加されました」


 「どれもこれも壮大ですね」


 まあなぁ。どうせやるなら目標はでっかくいかないと。寿命が間に合うかどうかが微妙だけどね。不老薬が作れなかったら、次代に託すしかない。まあ、俺の鑑定とか契約ありきで成り立ってるところもあるから、すぐに内部分裂しそうだけど。


 「でもまあ、想像通りのクズ教会で助かったよ。潰すのになんの抵抗もない」


 「ですね」


 研究者から聞いた、教会の内情はひどいもんだった。


 俺が捕まえた研究者は、そこそこ教会で上の地位にいるらしい。そんな奴が、なんでスラムで実験してるんだって話なんだけど。


 ディエルは大陸一の港街って言われてるから、珍しいモノや素材、孤児や奴隷が簡単に手に入るかららしい。


 で、手に入れた素材で色々非人道的な実験をしてた訳だ。あいつらがあそこで研究してたのは、どれだけ低コストで強力な兵を作れるのかって実験だな。ほんとクズである。


 教会はなんで強力な兵を欲してるか。それが秘密懲罰部隊スティグマの量産の為である。


 教会は都合の悪い人物を神罰だと宣って、スティグマを派遣、皆殺しにしてるらしい。後は教会の権力を使って、自分達の都合の良い情報を流せば、それが神罰になるって訳だ。


 「でも、こんな割と簡単に知れた情報を、貴族のお偉いさんとかは知らないんだろうか? 俺が為政者なら絶対怪しむけど」


 「ボスが異世界の人間だから違和感を感じるのではないでしょうか? 私達エルフが精霊を疑わないように、他の人類種は教会が崇めてる神を疑わない」


 「でも神の名前で好き勝手やってる教会の連中があんなんだぜ? 疑わなくても、叛意を抱いて何かしら行動に出そうなもんだけど」


 「それだけ遥か昔からこの大陸にライラルト教会が根付いているという事でしょう。昔からの価値観を変える事は難しいですし、神罰は自分だけじゃなく、周りの人間にも適応されると言われています。疑いだけで行動に移すのはリスクが大きいと判断してるのではないでしょうか?」


 ふーん。なんか俺からしたらガバガバだなって思うんだけど。もしかしたら教会は外面が良いのかもな。


 「ただ教会を潰すのは長い道のりになるよなぁ。小さい街規模でも派手な教会はあるし、総本山のライラルト神聖王国。この大陸でも1.2を争う大国だからな。質では勝てても、数で圧倒的に負けてる。上手い事やらないとな」


 宗教国家を潰すのってマジで難しいんだよ。信仰が人の心の拠り所だからな。大陸中に根を張ってる組織なら尚更だ。


 潰してはい終わりってならないのが厄介なところ。少しずつ教会の所業の噂を流しつつ、協力してくれる権力者を増やしていかないとな。


 帝国でもひっくり返して、矢面に立ってもらうか? 軍事力だけはそこそこあるんだし。内輪揉めばっかりしてるから、まずはそこをなんとかしないといけないけど。


 「後はスティグマがどれだけ強いかだな」


 「恐らく相当な強さはあるでしょう。今まで人知れず、教会の不都合を処理してきた部隊です。実力が無ければそんな事出来ませんよ」


 スティグマは研究者に聞いた感じ、キメラみたいな集団らしい。高ランクの魔物の魔石と一部素材を人間に移植した人造キメラとでも言うべきかな。


 洗脳とかもばっちりしてるらしく、命令に疑問を持たないキリングモンスター。そういうのを作る技術を確立してるみたいだ。


 でもコストがかなり掛かるから、色んな街で裏組織に紛れて、コストを抑える実験をしてるらしい。コストを抑えた人造キメラを作る事が出来たら、教会でも上の立場になれるとかなんとか。馬鹿らしい。


 「そんな事をするより、地道にレベルを上げる方が効率は良さそうだけどな」


 「それは鑑定があるボスだから言える事ですよ。この世界にレベルの概念を知ってる人間が居ないのですから」


 まあ、そうだけど。そう考えると鑑定ってやっぱりチートだよな。これが異世界転生モノのラノベとかで、当たり前のように貰えるのって、やっぱりおかしいよ。


 その恩恵に預かってる俺が言えた事じゃないけどね。

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