第183話 三叉神経


 「ふぅ。疲れた」


 『ネイビー』の面々を転移させて、鑑定契約が終了した。武闘派組織らしく、中々レベルが高い人材が揃っててなにより。リーダーのドナルドは190もあったぞ。もう少しでカンストじゃん。職業格闘家なのに、大剣を振り回す脳筋野郎だったらしいけど。


 その辺は今後指導で矯正していけば良いよね。ローザの良いサンドバッグになりそうだ。チャールズ、マーヴィンの盾になってくれ。


 まずは基礎教育からだけど。それさえ終われば、即戦力として働けるだろう。


 「マジで恩恵持ちが見つからんな。そんな希少なのか? 今まで俺の運が良かったのか?」


 「アテが外れましたね」


 俺はカタリーナと秘密基地のとある場所に向かいながら話をする。俺はこのディエルで幹部候補を3.4人は確保する予定だった。穴あきだらけの組織図を早く埋めたかったからね。


 でも予想に反して恩恵持ちがいない。やっぱりゲーム的にここは物語に関与してないんだろうか。


 「帝都に向かった勇者に期待か」


 「ですね。流石に首都ですし、何人かはいるでしょう」


 この前、勇者の監視を任せてるダンとカイルが秘密基地に帰って来て、帝都に向かうって報告をしに来た。恐らく向かう先に恩恵持ちがいると思われる。


 勇者が接触する前にこっちで先に確保したいところなんだけど。


 「動ける人間のほとんどをこっちに投入しちゃったからなぁ」


 「反省して下さい」


 「すみません」


 『ネイビー』の縄張り維持に、動ける人間のほとんどをこっちに投入したから、帝都で動かせる人間がいない。


 一応、勇者達を追いかける形で、生産組の何人かとその護衛は向かわせるつもりだけど。転移装置を帝都のどこかに置いてもらわないといけないし。


 場合によっては、勇者達にバレないように俺が動かないといけないかな。


 「ボス、お待ちしておりました」


 「お疲れ様」


 カタリーナと先の事を話しながら歩いてると目的地に到着。ここは秘密基地にある拷問部屋。


 マリクと他の職業拷問官が、ウキウキとした表情を隠しもせずに待っていた。なんか職業拷問官だけ、職業に性格が引っ張られてる気がしますね。


 職業を自覚してから、人体を弄るのが楽しくて仕方ないって感じが溢れ出てる。こいつらを社会に解き放ったら、とんでもない事になりそうだ。


 「んぐっー!」


 猿轡と拘束をされて磔にされてるのは、俺が『聖域』から攫ってきた研究者で、職業も研究者。もう一人は料理人だけど。


 「じゃあ始めるか」


 「はい。最近ようやく効率的な情報の抜き出し方を確立したんです。是非ご覧になって下さい」


 「あー、うん」


 俺がマリクに声を掛けると、針を二本持って男に近付く。


 「ぶはっ! お前達こんな事してタダで済むと思ってるのか!! 今にスティグマの奴らが神罰を執行しにやってくるぞ!!」


 「うるせぇ。お前らこそ、タダで済むと思うなよ。絶対教会は潰してやる」


 猿轡を外したら吠えること吠えること。それに情報を抜くまでもなく、こいつらが教会と繋がってるっぽい事は確定した。


 それに神罰にスティグマ。中々気になる情報を持ってるようで。これは情報が少ない教会勢力の事も結構知れそうだ。


 「拷問でもなんでもしてみやがれ! 俺達は絶対情報は吐かねぇぞ!」


 もう既にちょろっと情報をお漏らししてるのに、何を言ってるのか。神罰とか。これ、絶対言っちゃダメな事でしょ。ある程度予想はしてたけど、やっぱり神罰はそういう事だったっぽいな。


 神罰と称して教会の懲罰部隊、多分スティグマを派遣して抹消する。これが本当に神罰とか超常現象なら打つ手が限られてたけど、人為的なものならいくらでもやりようはある。


 そんな事思ってると、マリクが男に近付いて、顔の頬辺りに針をプスっと突き刺した。


 「ぎやぁぁぁぁぁああ!」


 「おお…。これは酷い」


 反対側の頬にも針を刺してその針を弾くだけで、威勢の良い事を言っていた男がこの世の終わりみたいな叫び声を上げる。


 頬に針を二本刺しただけなのに、糞尿を撒き散らして体が痙攣している。


 「三叉神経を刺激してるのか」


 「その神経の名前は分かりませんが…。これまで色々と実験した結果、これが一番効くと思いまして。味気ないんですけどね」


 針をピンピンと弾くだけで面白いようにビクンビクンして絶叫する男。三叉神経はやばいって、何かの漫画で見たような気がするんだよね。


 まあ、マリクがそれをやるまで忘れてたんだけど。


 「これ、やられると誰でも情報を吐きそうだな」


 「私達でも耐えるのは無理でしょう」


 俺とカタリーナはウキウキ顔で針をピンピン弾いてるマリクを見ながら言う。


 見た感じ、耐えるとかそういう次元の苦しみ方じゃない。ほとんど何も考えられなくなってるんじゃないかな。単純な痛みとは訳が違いそう。この状態で話すと、嫌でも情報はお漏らししそうだな。


 『クトゥルフ』に所属してるメンバーは一通り拷問に耐える訓練ってのもしている。それは俺やカタリーナも例外じゃない。


 万が一敵に捕まってそういう事をされる可能性もない訳じゃないからな。まあ、契約で情報を喋れないようにしてるから、極論その訓練をやるのは俺だけで良いんだけど。魔法とか封じられたら、転移で逃げる事も出来ないだろうからね。


 でも、この惨状を見る限り、この針ピンには耐えれる気がしない。


 後でマリクに試してもらうか。拷問する側にも、拷問される覚悟ってのは必要だと思うんだ。そうならないのが一番だけど、現実は世知辛いからね。


 今回みたいに単独で行動するような馬鹿をやらかせばあり得る話だ。もうする気はないけど。


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 以前近況ノートで言ってた非公開にした過去作を再アップしました。


 『鏖殺』のジャスミン


 良かったら見て下さい。



 


 

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