第171話 方針


 「戻ったわよ」


 「あ、おかえり。どうだった?」


 スーヤンとキセルの叩き方について研究してたら、見張りの騎士に会いに行っていたアンジーが帰って来た。因みにアリーナは買った魚を秘密基地に持って帰って、美味しく料理してもらうって、鼻息荒く言ってたからここには居ない。


 確かにうちの料理人達はレベルが上がってきて、そこらの奴らより美味しいのを出してくれるけど、魚料理に関してはまだまだ手探り。川魚を調理してるから、なんとかなるかもしれないが、海の魚とはまた扱いが違うだろう。きちんと美味しくしてくれるかは分かりませんね。


 まあ、料理だけじゃなくて、なんにせよ積み重ねが大事ってこった。研究熱心だし、気付いたら美味しく仕上げてくれるようになってるだろう。


 「監視してたのはボスじゃなくて、私ね。傭兵時代の異名を知ってたわ。多分、やんちゃしてた頃の噂を聞いて、野放しに出来ないとでも思ったんじゃないかしら?」


 「ほー。そういうことか」


 どうやら監視目的はアンジーだったらしい。傭兵時代は結構はっちゃけてたらしいからなぁ。前に聞いた時、あの頃は若かったのよなんて言ってたけど、流石に雇い主を殺したりするのはどうかと思うよ。


 殺るならバレないように殺さなきゃ。

 まあ、この世界は舐められたら終わりみたいな感じもあるし、クソみたいな雇い主ならそれも致し方なしか。


 「領主さんはアンジーの噂を知ってて、暴れられたらたまらんって事で監視してたって感じか」


 「そういう事だと思うわ。どうする? 一応釘は刺しておいたけど」


 「んー。とりあえず放置で。正直、今は領主に構ってられない。さっさと支店をオープンさせて、スラムにも手を入れたい。あ、いや、領主と繋ぎを取っておいた方が良いか?」


 まよいまいまい。どっちにしろ、転送箱は売り付けたいし、どうにかして領主との繋がりは欲しかったんだよねぇ。商会をオープンしたら挨拶にでも行くか。


 「どこでバレた? あ、傭兵のギルドカードか」


 「そうだと思うわよ。私の記憶にある限りじゃ、この国の依頼は受けた事ないはずだし…。そういうのはマーヴィンに任せてたから、確実とは言えないけどね」


 アンジーを護衛として連れ回すなら、いずれバレてた事ではあるけど。アンジーってそこそこ有名だったみたいだしね。


 「とりあえず今は監視が外れたっぽいけど、急に人を増やしたら怪しまれるよなぁ。アンジーがバレたって事はギルドカードのチェックはしっかりしてるんだろうし。商会員は正規の手順で入ってきてもらうか。ディエルの近くに転移させて、門からしっかり入って来てもらおう」


 「スラム制圧の人員はどうするのかしら?」


 「流石にスラムの人間までは把握してないと思うから、スラムのどこかに拠点を作って、そこから転移装置を設置して人を増やす」


 スラムを最初に制圧する人員は夜中に呼び寄せれば良いだろう。ペテスより大きいスラムだからな。生半可な人員じゃダメだ。マーヴィンやチャールズ、アハムにも動いてもらおう。


 あいつらはデッカーのスラムを制圧して、安定させてからは、次の仕事が決まるまで秘密基地で長期休暇中である。ローザと訓練したり、新入りの指導とかもしてくれてるみたいだけどね。


 「問題はスラムの実力者が未だに分からんって事か。アンジークラスの化け物がいたら、あいつらでも厳しいだろ」


 「自惚れてる訳じゃないけど、私クラスになると相当よ?」


 あなたクラスがペテスのスラムに居たから警戒してるんです。ここはそれより広いんだから。一応情報は軽く集めてるけど、監視もあって満足するほど集めれてる訳じゃないんだよね。


 実力者や恩恵持ちってのは、思いもよらないところにいるからな。警戒するに越した事はないだろう。


 「私クラスに対抗しようとするなら、今はローザを出すしかないわよ?」


 「それはそれで不安です」


 マーヴィンやチャールズが上手く手綱を握ってくれるなら良いけど、ローザには15歳になったら本格的に傭兵として活動してもらおうと思ってるんだよねぇ。


 情報統制には気を使うけど、これだけ広いスラムならどこかしらから情報が漏れる事もあり得る。あんまり大々的に裏に出したくはない。


 「今回、アリーナを俺の護衛に連れて来たのは失敗したな」


 「そうね」


 何も考えずに、レベル200超えたし連れてくるかーって感じで引っ張って来たけど、今回のスラム制圧の戦いで、万が一アンジークラスの化け物が出てきた時に対処出来る奴がいない。まあ、本当にそんな奴が出てきたらアリーナでもキツいんだが。


 「カタリーナに出てもらうか? いや、エルフが出る方がヤバい気がするなぁ」


 「秘密基地の統括を任せられるのがカタリーナしか居ないんじゃない? 留守にするのは危険よ?」


 それもあるか。フードで耳を隠してたらなんとかなるかって思ってたんだけど。


 「ん? いや、俺の手が空いてるじゃん。商会の方はホルトに任せるし、秘密基地には俺がいれば良くね? 万が一の顔バレがあるから、スラムには顔を出し辛いけど」


 アンジーとアリーナには、とりあえずディエルの商会の護衛を任せて、俺は秘密基地に引っ込めば良い。表向きホルトは出せないけど、向こうで指示出しぐらいは出来る。ってか、最初からその予定だったし。


 「まあ、なんにせよ、一旦帰って相談するか」

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