第170話 警告
「でけでけでんでけでけでん。かーんかーん。しゅぴーん」
「それ、ずっとやってるわね。一体なんなのかしら?」
「激アツ演出」
港街ディエルを思う存分観光する事数日。
とある商会にキセルを売ってるのを発見して、すぐに購入した。
やはり裏社会の王を目指す者としては、こういう小道具が欠かせないと思うんですよ。出来れば葉巻や煙草が良いんだが、見た事がない。
作り方なんて知らないから、俺の想像するかっこいいマフィア像に辿り着くまではまだまだ遠い。今はキセルで我慢だ。
まあ、それも火を付けたりしないで遊んでるだけなんだけどね。あ、因みにカーンカーンってするのを持ってるのはスーヤンの役目だ。なんか似てるから。顔とかじゃなくて雰囲気が。
それはさておきだ。
「なんで毎日のように監視があるんだろうね」
観光して数日。初日に豚さんと問題を起こしてから、毎日のように監視されてる。アンジーが言うには敵意はないみたいだけど、監視されてる理由が知りたい。騎士が監視してるって事は領主の指示だろうし。
「問題を起こす要注意人物として警戒されてるんじゃないかしら?」
「それだけかなぁ? なんか別の理由がありそうな気がするんだけど。アンジーのチートの勘で何か分からないの?」
宿でダラダラしてる今も二人張り付いてるみたいなんだよね。俺の感知範囲には入ってないけど、アンジーは見られてるって分かるらしい。
「毎回言ってるけど、そこまで都合が良いものじゃないのよ?」
「俺からしたらチートなもんで」
気になるなぁ。こっちから監視してる人に接触しちゃおうかな。ちょっと流石に目障りですよって。いや、俺は気付いてないんだけど。
ずっと見られてるから、転移で気軽に人を呼ぶ事が出来てない。急に人が増えたら怪しまれるし。スラムの制圧と、店舗の改装、営業をやってしまいたいんだけど。
「ちょっとアンジー、聞いてきてよ。何か用ですかって」
「分かったわ」
冗談で言っただけなのに、アンジーは即座に了承して部屋から出て行った。まあ、良いか。聞いてきてくれるならそれで。別に見られるのは良いけど理由は知っておきたい。
アンジーさんに期待しましょう。
☆★☆★☆★
「ふぁぁぁ」
「おい。気を抜くなよ」
「だってよぉ。いつまであの商人を見ておけば良いんだ? 今日はずっと宿から出てこないじゃねぇか」
とある高級宿を見張る騎士二人。
一人は真面目に、一人は不真面目に団長から言われた任務を遂行していた。
「護衛の女がやばいって話だけど、何も問題を起こさねぇじゃんかよ。しかも監視してるのはバレてるんだろ? 見られてるって分かってるのに、問題を起こすかって話よ」
「お前の言いたい事は分かるが、それが気を抜いて良い理由にはならん。こっちが気を抜くのを待ってる可能性もあるからな」
「心外だわ」
「「っ!?」」
騎士二人が宿から目を離さずに、話してる時だった。不意に後ろから女性に声を掛けられる。
油断してるつもりはなかった。気を抜いていた騎士も最低限周囲の警戒はしっかりとしていたのだ。しかし、気配もなくあっさりと後ろを取られた二人は思わず飛び上がって、剣に手を掛ける。
「『狂姫』…』
「あら、私の事知ってたのね。………なるほど。私目当てだったって事かしら」
真面目な方の騎士が思わず異名を呟いてしまう。騎士自体も噂でしか知らないが、もしその噂が真実なら今の自分達の立場はかなり危うい。
気に入らない雇い主や指揮官を平気で斬り殺すような人物なのだ。ずっと監視していた自分達に良い感情を抱いている訳がない。
アンジェリカは焦燥している二人の姿を見て、何故自分達が監視されているのかを察する。どうやら自分の昔の事を知ってる人間がいたらしい。
(まあ、傭兵ギルドのカードをそのまま使っていたのだし、時間の問題だったって話よね。騎士が監視してるという事は、領主も当然知ってるとして…。大方、私の噂を聞いて警戒してたってところかしらね)
「あなたの雇い主に伝えてくれないかしら? 何もなければ私は何もしないって。うちの会長さんが毎日の監視にうんざりしてるのよ」
「じ、自分達では判断しかねる…」
騎士が渋った途端、アンジェリカの圧力が増す。今までは希薄だった気配が、今では死の象徴のように存在していた。
「あなた達の意見は求めてないの。これは命令よ。なんだったら私が領主の元に行きましょうか?」
「す、すぐに伝える!!」
「分かればいいのよ」
フッと気圧されていた気配が落ち着き、アンジェリカはそのまま宿の方へ去って行った。騎士二人は人目を憚らず膝に手を付き、大きく深呼吸を繰り返す。
「はぁー。とんでもねぇなありゃ」
「ああ。うちの団長よりヤバいかもしれん」
「で、どうするよ?」
「言う通りにするしかないだろう。あんな化け物が領主の屋敷に乗り込んで来たら目も当てられん。止めるのは俺達だぞ?」
アンジェリカに通告された事をいち早く領主に届けねばならない。もうこんな任務はこりごりだと思いながら、騎士二人は急ぎ足で領主の屋敷に戻って行った。
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