第163話 とりあえず煽る
俺が女と思われてる問題はまあ、置いておこう。自分でも中性的な顔をしてる自覚はあるからね。
それよりもとりあえず今をどうするかだ。ここが人通りの少ない場所なら、スパッと殺すなり、契約するなりで済ます事が出来たんだけどね。
残念ながら大通り。俺達が絡まれてるのをしっかり目撃されて、面倒な事になりそうだとそそくさと離れた人も居るし、遠巻きに見てる人もいる。
さて、どうしたもんか。
「おい! ピグー子爵のお声がけだぞ! さっさと跪かんか!」
心の中で決して出来の良くない頭をフル回転させてると、馬車の護衛をしてた騎士がプンスコして声を掛けてきた。
「わ! オークだ! 騎士さん! 早く討伐しないと! 目の前にオークが居ますよ!」
「は?」
「全く! ディテルの警備兵も何をしてるんでしょうね! 街中にこんなに堂々とオークが闊歩してるのを見逃すなんて!」
「き、貴様っ!」
なんか考えるのが面倒になっちゃった。
鑑定しても豚、騎士共に大した事ないし、最悪スパッと殺して逃げりゃ良いでしょ。転移でいつでも秘密基地に帰れるし。その代わり俺達がこの街で活動するのは難しくなるけど。別の人に差配を任せる事になるかもしれない。
騎士さんは俺とピッグ子爵だっけ? その両方を信じられないみたいな顔をして往復してる。
「お、女…。それはまさか俺様の事を言ってるのか…?」
「わっ! 喋った! さっきは聞き間違いかと思ったけど、このオーク喋りますよ! 変異種かもしれません! 早く討伐しないと!」
豚は顔を真っ赤にしてぷるぷる震えている。さて、とりあえず煽ったけど、こっからどうしたもんか。何も考えてないノープランで、口の赴くままに脳死で喋ったんだけど。
「お、俺様の事を言ってるので間違いないみたいだな…。女、この代償は高くつくぞ」
まさに怒髪天。豚怒髪天である。絞り出すような声でマジギレである。周りで様子を伺ってた人達も、こいつは何を言ってるんだって感じで、戦々恐々としている。
ってか、ここまで喋ってまだ俺は女と勘違いされてるみたいだ。声も確かに分かりにくくからなぁ。もっと男らしい格好をした方がいいのかな? 帰ったら検討してみよう。
「…ぷっ。くっくっくっ」
「にゃー。あの屋台からいい匂いがするにゃ」
アンジーは俺が勘違いされてるのが面白いのか、それとも煽りにウケてるのか分からないけど、必死に笑いを堪えている。アリーナなんて我関せずで、屋台の魚に夢中だ。一応手を出されたらいつでも反撃出来るように、既に忍術は発動してるっぽいけど。
「騎士さん、討伐お願いしますね。か弱い商人である私達はこれで失礼します。あ、警備兵への連絡は任せて下さい。オークを街中に素通りさせた門番の人にはこちらからガツンと言っておきますよ。それでは」
混乱してるうちにさっさとこの場を去らせてもらおう。まあ、そんな上手い事いく訳ないんだけど。
「っ!? お前ら! あいつらを確保せよ! 殺すでないぞ! ピグー子爵家を愚弄した事を後悔させてやる!」
「は、はっ!」
騎士数人が俺達に向かって来る。これって正当防衛になるのかなぁ? 不敬罪とかで普通にアウトそう。言いたい放題言っちゃったし。魔物に見えましたでの言い訳で通じるのかどうか。
「にゃー」
「な、なんだ!?」
アリーナが魚の串焼きを咥えながら、両手でシュババっと印を組む。すると、急に周りに煙幕が出て来た。因みに印を組む必要は全くない。カッコいいから俺がやってもらってるだけである。忍術を使うなら印は必要不可欠ですよ。
「ぎゃっ!」
「ぐぺっ!」
「いひっ!」
煙幕が出たと同時にアリーナが動いて、食べ終えた串焼きの串を使って、適当にブスブスと刺していく。一応殺さないようにはしてるみたいだ。今は殺したら面倒な事になりそうだもんねぇ。どうせ殺すなら、もっとバレないようにやらないと。
「護衛は全員無力化したにゃ。この煙幕がある内にここから離れた方がいいにゃね」
「じゃ、そうしますか。周りから見られてないみたいだし、このまま宿の部屋に転移するぞ」
まさか大通りであんな堂々と絡まれると思ってなかったなぁ。貴族ってああいう横暴が許されてるのかな? 貴族に命令されたら逆らえません的な。
アンジーとアリーナっていう容姿が優れてる護衛を引き連れてた訳だし、今度からそういう事にも気を付けないと? 普通に断っても大丈夫なんだったら良いんだけど。
帝国ですらカタリーナをゲットしようとしてた時は、秘密裏になんとかしようとしてたのに、ここではオープンなスタイルなのね。
「それにしても目立っちゃったな。あんまり長居しない方が良さげ? まだまだ探検し足りないんだけど」
「向こうがこれで諦めるとは思わないもの。多分私達の事を調べあげて、またちょっかいをかけてくると思うわよ?」
だよね。これで諦める感じのタイプの人種じゃないのは見た目と言動で分かった。しつこく粘着してるくること間違いなしだろう。
「めんどくさいな。先にこっちから動いて処理するか。今日の夜にあいつらが居る場所に行って殺すなり契約するなりしよう」
「うふふ。それが良いわ」
アンジーが意味深に笑ってるけど、何か勘で察知したのかな? まあ、重要な事なら教えてくれるだろうし、今はそれでいっか。
せっかく港街に着いた初日だってのに、変なケチがついちゃったな。
とりあえずあいつらが滞在する場所を探してもらうとするか。
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